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しばらく、エラミルの運転する車は順調に目的地へ近付いていった。
30kmという直線距離は、車で全速力で飛ばせば思った以上にあっという間の距離である。
「頑張れ! 敵を近づけるなよ!」
エラミルが援護射撃組を応援した。
その言葉で珪都と優香は少し気が楽になった。
もう少し乗り切れば目的地に到着するかもしれない。
このまま車を運転し続けるより、未開の地でも隠れられる場所の方がよっぽど安全だ。
一瞬顔がほころんだが、集中を切らさぬように射撃を続ける。
このまま行けば…。このまま……
「――――――あ~~~~~~、クソッ!!!!」
エラミルが大きく毒づいた。
「どうした!?」
リディが射撃しながら大声で尋ねた。
「跳ね橋だ! 跳ね橋が上がってる!!」
「!!!???」
3人が同時に進行方向を見た。
高くそびえ立つ壁のような跳ね橋が珪都たちの行く手を塞いでいるのがはっきり見えた。
「そんな…」
「射撃をやめるな! とにかく近づけちゃいけない!」
リディがまた叫び、焦りながらも射撃を再開した。
「あの小屋は橋の操作小屋か……。」
エラミルは橋の下にポツンと建つさびれた小屋に目をつけた。
「リディ! 俺があの小屋にいって橋を下ろす! その間はお前が橋の前でグルグル車を走らせてアイツらをおびき寄せてくれ!」
エラミルの提案にリディは反論した。
「ダメだ、危険すぎる!」
「じゃああの橋の目の前でアイツらのためのパーティー開くか? ハッ、楽しそうだな!」
「……!」
リディが口応えできなくなったのを確認し、エラミルは低い声で言った。
「頼んだぞ、リディ!」
小屋の前に着いた。
すぐにエラミルが車を降り、小屋へ走るのと同時にリディが屋根から車を出て運転席へ移った。
「アンタら、踏ん張りなよ!」
「は、はい!」
頼れるリディの援護射撃が無くなって2人は心細くなったが、だからこそ今自分達がやらなければいけないことを自覚した。
4人とも、自分達がご馳走になるパーティーなど御免こうむりたかった。
――――――
エラミルは小屋の中に入り、操作盤の中でひときわ目立つレバーを迷わず操作した。
ガチャンと機関が作動する音がし、見ると橋が徐々に下がり始めているのが分かる。
「よし…!」
小屋を出ようと扉を開くと、リディ達に振り回されなかったゾンビが3体、向かってきていた。
「くそがッ!!」
すかさず銃を抜き、1体ずつ頭を吹き飛ばす。
だが、その銃声でかなりのゾンビがエラミルに気付いてしまった。
「エラミル!」
リディがおびき寄せたゾンビ達を連れてこちらに向かってくる。
目の前に来るまで、その後ろの大群に向かってエラミルも銃撃した。
ザアッと地面を削って目の前で車が急停止する。
「ウェル・ダン!!」
叫びつつも焦ってリディと運転を交替した。
リディは再び屋根から定位置に着く。
―――と同時に車は発進した。
これで安心できるかに思えたが、思いの外橋が下がるのが遅い。まだ斜面が急である。
これ以上同じ場所を周回してゾンビをおびき寄せながら待つのには限界があった。
リディはエラミルがどうするかを観察していた。
……車はその斜めの橋を突っ走っていく。
「!?」
珪都たちは驚いた。
「エラミル、まさか……」
「行け―――――――――――!!!!!!」
エラミルの絶叫とともに、4人を足元が浮く感覚が襲った。
援護射撃組には、さっきまで自分達が走っていたはずの道の端が見えた。
優香は瞬間、本当に気絶しそうになった。
ガタ――ンと大きく車が振動し、今度はジェットコースター級のスピードで鉄の車体が斜面を滑るように降りていく。
もはや3人は口を開ける余裕すらなかった。
再び大きな振動が来ると、ようやく車は普通の道を走り出した。
リディは車内に戻って後ろからエラミルをどついた。
「痛ぇな、何すんだ!」
「こっちのセリフだよ、何て危ない事を…。」
「でも危機は逃れたぜ?」
「……たく。」
リディは呆れと安堵を同時に溜息で吐き出した。
珪都と優香は未だに開いた口が塞がらない―――ではなく、閉じた口が開かない。
エラミルは車を止めると、こちら側の小屋へ入っていって跳ね橋を上げるレバーを操作した。




