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その任務とは、「****(この星の名前らしい)での惑星規模の暴動の鎮圧援助」。
惑星規模の暴動など、その命令を下した上官さえ聞いたことがなかった。
予測不能の事態に備え、十分な装備を積み、リディとエラミルを含めた5人を乗せた宇宙船は出発した。
通信伝達兵が途中「向こうからの通信が途絶えた」と不吉な事を言い、ガラにもない不安を余計に募らされたのを未だに覚えている。
到着するや、致命傷を負った民間人がこちらに猛然と疾走してきた。
百戦錬磨の軍人から見ても究極の異常事態である。
それを察知した5人はすぐさま宇宙船に戻った。
四方八方から狂ったように外壁を叩く音と、爪が金属を引っ掻く神経質な音が5人を包み込む。
リディでさえ気が狂いそうになる状況だったが、どうにか抜け出したはずだった。
すっかり怯えきった操縦担当兵が動揺のあまり、操縦を誤ったのだ。
たちまち船は地上へと踵を返し、群衆=ゾンビの群れを興奮させた。
逃げ場の無い船内は危ないと察知したリディ達は迷わず船を飛び出し、走り出した。
依頼をしてきた軍と連絡も取れないまま、途中で隠れられそうな民家を転々としつつ、仲間を次々に失い、最終的にたどり着いたのがあの家だった。
何故民家にあれほど立派な地下倉庫があったのかは分からないが、ケース・バイ・ケースというところである。
そこにたどり着く過程で、リディとエラミルはヤツらの行動パターンを把握し、便宜的に"ゾンビ"と名付けた。
感染した仲間を殺しもした。
割と短い時間、ヤツらの視界から消えて気配を消していればヤツらをまけること、脳を損傷するか大量に血液を流させて失血させれば殺せることも覚え、ゾンビを倒すことに違和感を感じなくなっていった。
ただ、珪都たちを発見したのは本当に偶然だった。
射撃練習をしようとゾンビ達を見ると、ゾンビ達がある一点に向かって集結していく様子を見たのだ。
それだけで人間の存在を察知し、リディは素早く玄関を開け放って彼らを呼び寄せた。
―――底知れぬ人間不信のリディが、自分でも驚くほど生きた人間に執着している事に気づいた。
そして現在。
ここまでの回想からすればリディの生きる意味は無くなったはずだった。
自分を認めてくれた軍とは連絡が取れない。
自分を認めてくれた仲間を、エラミル以外失った。
それなのに何故か今、自分がこれほど必死になって、自分と無関係の子供達を助けてまで、生きようとしている。
「………チッ。」
軽く舌打ちをするとリディは意識が射撃の方に戻ったのを自覚した。
今はそんなことを言っていられない。
生きる意味は分からなかったが、とりあえず全身を喰い千切られるのは本当に痛そうだ。
そう心の中で呟くと、リディはまた引き金を引くごとに無意識を取り戻していった。




