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「キャアアア―――――――!!!」
優香が目の前でゾンビの大群に飲み込まれていく。
「優香……!!」
優香を貪るゾンビのうちの1体が、芳樹だった。
珪都は叫びながら持っていた拳銃を乱射した。
芳樹他大勢のゾンビが次々に倒れていくが、全滅する様子が無い。
すぐに優香を喰い尽くし、こちらへ向かってきた。
「ウワアアアアアア――――――――!!!!!!!」
珪都は悲鳴を上げて飛び起きた。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
荒い呼吸が収まらない。
嫌な冷気の漂う地下で、珪都は汗だくになっていた。
「―――大丈夫?」
優香が起きてきて珪都の顔を覗き込んだ。
夢の中で、珪都の目の前で肉塊へと変わっていく優香が頭から消え去らない。
―――生きている元気な優香を見ても尚。
「ああ、夢見は最悪だったけど…。」
「私も…嫌な夢だったよ。」
隣で寝ている芳樹を見ると、表情が険しくなっている。
やっぱり同じような夢を見ているのだろうか。
「…でも、夢だからまだ良かった。これからは―――」
「……うん。」
2人はその後黙ったまま、いつの間にかまた眠りに堕ちていた。
幸いな事に2度と同じような夢を見ることはなく朝を迎えた。
昨日までは宇宙船で過ごしていた3人に、今日もまともな朝の光は恵まれない。
朝食は適当に持ってきた缶詰を食べた。
味が薄く、美味しいとはいえないものの、普通に食べられるだけマシな状況だ。
「メシ食ったらさっさと準備するよ。」
リディとエラミルは珪都と優香をいつもの棚の裏手へ案内した。
早速2人は嫌に重いベストを着させられた。
よく見たら全てのポーチに2種類の大きさのマガジンが入っている。
更に右腿にハンドガンホルスターを装着させられた。
重い銃を足にぶら下げる感覚は慣れるのに時間が掛かりそうだ。
服も今まで着ていたものから長袖長ズボンの厚手のものに着せ替えられ、尻の部分にも少し大きめのポーチを着けた。
「あとはこれ。あんまり無駄撃ちするとすぐに弾切れになるからね。」
リディは優香に、エラミルは珪都に、それぞれ大きめのサブマシンガンを手渡した。
スリングを肩に回して銃が背中に来るように背負う。
かなりの重量だ。
「お前らが持てる最大限の装備だ。逆に言えば、探索中は最大でもそれだけしかない。敵の数は未知数。これが何を意味するか分かるな?」
2人は身震いした。
人1人が持ち歩ける武器で、惑星規模に発生した敵を全滅できない事など分かっている。
分かっていても目の前に来るまでそれに恐怖を感じなかった。
相変わらず自分達の甘さを感じさせられた。
4人が棚の裏手から戻ってくると、芳樹は珪都と優香の出で立ちを見て驚いた様子だった。
「いよいよ行くんだな。」
芳樹が言った。
昨日のように、照れ隠しをしながらではない。表情は至って真剣に、むしろ珪都たちを怯えさせるような鋭い視線。
珪都にはそれが、自分達に芳樹の心配をしている暇は無いのだと、芳樹自身が警告しているように思えた。
見送りのため、芳樹も一緒に地上への階段を上がる。
重々しい鉄の扉を開き、外へ出た。
束の間の晴天がカーテンの無い窓を通して珪都たちの気分を幾分良くしてくれる。
「じゃあヨシキは私らが行ったら地下に戻って、鍵をかけなよ。」
「腹が減るなりしたら適当に食っとけ。」
リディとエラミルが指示を出すたびに芳樹は無感情に頷く。目も背けていた。
「芳樹。」
珪都が芳樹を力強く呼び、芳樹は珪都を見た。視線は鋭かった。
「絶対戻ってくるから待ってろ。」
一瞬の沈黙の後、芳樹は笑って「ああ。」とだけ言った。
4人は裏口へ向かって歩いていく。
芳樹はその背中を見つめた。
背中が見えなくなったしばらく後で、芳樹は目頭を熱くしながら冷たい地下へと戻っていった。




