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珪都たちが地下に戻った時、芳樹は大分落ち着いたように座っていた。
呼吸は安定しているし、痛みも眉をひそめる程度のようだ。
ただ、汗だけはほとんど止まっておらず、しきりに左手のタオルで顔を拭いている。
「芳樹、大丈夫?」
優香が喋りかけながらまた隣に座った。
珪都はその向かいに座り、リディとエラミルの2人はまた棚の裏手へ回っていった。
「ああ、痛みも大分ひいたし。」
「良かった…。」
優香が安心して溜息を漏らした。
「汗すごいな。何か飲んだほうが良いんじゃないか?」
「……そうだな。少し喉が渇いた。」
「じゃあ何か持ってくるよ。」
珪都は立ち上がってリディ達がいる方とは反対の棚の裏手へ回った。
たくさん詰まれたダンボールのいくつかが抜き出して隅へ固めて置かれていた。
水のペットボトルはすぐ見つかった。
リディ達の話では品質が少し心配だが仕方が無い。
適当に1本抜いて芳樹たちの所へ戻った。
「サンキュ。」
「ああ。」
芳樹は少しだけ微笑んでペットボトルを受け取った。
カチッと音を立てて蓋を開け、芳樹は一口水を含んだ。
全く美味しくも無いぬるい温度が渇ききった口から喉にかけてを潤す。
芳樹はすぐにふたをして傍らに水を置いた。
「もういいの?」
優香が心配そうに聞くが、芳樹は軽く頷いて返事はしなかった。
しばらく、3人は何も喋らなかった。
棚の向こう側でリディとエラミルがゴソゴソやっている音だけが聞こえてくる。
数十分後、ようやく芳樹が口を開いた。
「お前ら少しは撃てるようになったのか?」
「……まぁな。」
珪都は元気なく答えたが、優香は目線を床に落として何もいわなかった。
ゾンビとはいえ、実際に生き物を撃ち殺すという体験を、2人はしてしまったのだ。
まして、"人の形をした"生き物だ。普通は平気でいられるはずが無い。
芳樹はそのことに2人の反応を見てようやく気づき、質問を間違えたことを後悔した。
芳樹が次の質問を探し始めたことでまた静寂が訪れた。
そして、その静寂を破ったのは珪都だった。
「射撃練習で随分ゾンビが集まっちまったから、今日は出発しないってよ。」
珪都が唐突にそう言うと、芳樹は意表を突かれて一瞬目を丸くした。
そして顔を逸らしながら、
「そうか。……今日はまだここにいるんだな。」
その言葉には微塵の緊張も無く、安心感だけがこもっていた。
今度は珪都と優香が意表を突かれ、少し吹き出してしまった。
「ぅ…うるさいっ! 笑うな!!」
顔を赤くしながら、芳樹は久々に大きな声で怒鳴った。
その芳樹らしくない態度に、2人は久々に声を出して笑った気がした。
――――――
銃の最終整備をしながらリディとエラミルは3人の子供達の笑い声を聞いていた。
「…楽しそうだね、アイツら。」
「何、明日以降は本物の地獄だ。今日ぐらいしっかり笑わせとけ。」




