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その後、優香も珪都と同じようなプロセスを辿って最初のゾンビを撃ち倒した。
自分の放った弾丸がゾンビの頭を貫いたのを確認すると、はっと息を飲んで目を見開き、そのまま弱々しくへたり込んだ。
リディはそれを見て少し呆れたような顔をしたが、何も言わなかった。
珪都は一部始終を見ながら、ゾンビを撃つ事をやめようとはしない。
無意識にもう慣れてしまっていたのだ。
反動の強烈さといい、鼓膜を破くような爆裂音といい、漂う火薬の匂いといい。
―――ゾンビの何重もの叫び声と、もはや空気である腐臭は大分前に耳と鼻になじんでいた。
今は芳樹を助けられるわずかな希望に賭けるため、必要な事をできるようになろうと懸命になっていた。
珪都はこの星に降り立って初めて前向きになっていた。
しばらくして優香も泣きながら射撃を再開した。
さきほど逃げられないことを自覚してももう泣かなくなっていた優香だが、擬似殺人には耐えられなかったらしい。
本来なら珪都だって耐えられないことではある。
他のいろんなことが普通じゃないから、それを受け入れ始めているのが分かった。
だから、ゲームなどとはワケが違う射撃の感触を自分のものにしようと努力している。
優香の射撃の感覚が徐々に短く、一定になってきているのに気付いた。
珪都に合わせているらしい。
それで少し違和感を覚えた珪都は肩を回しながら遠くの方へ目をやった。
やたらと遠い地平線から、もうゾンビは走ってこない。
下には何体のゾンビが集まっているのだろう…。
上空から地の果てにかけて、少し橙を帯びた空色が広がる。
少し寂しげに見えた。
――――――
「もう良いだろう。」
リディが久々に声を出した。
珪都も優香も待ってましたとばかりにリディを振り返る。
いつの間にかリディとエラミルは並んで立っていた。
「少しゾンビが集まりすぎたな。今日は出発できない。明日にしよう。」
エラミルが言った。
ゾンビたちの飢餓の咆哮を背に、珪都たちは屋上を離れ、地下へと戻っていく。
途中誰かが喋る事もなかった。
明日の今頃、自分達は地獄の真っただ中なのだろう。
現実は珪都たちの目の前に迫っていた。




