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最初に意を決したのは珪都だった。
おもちゃの鉄砲を撃つのとはワケが違う緊張と重量感に、指に中々力がはいらなかった。
だがこれも生き残るためだと自分に言い聞かせ、引き金を引いた。
小さな爆音と凄まじい反動が手から肩に掛けてを弾いた。
優香がビクッとしたのは見なくても分かったが、珪都自身がビクッとしたのには気付かなかった。
思わず目を力の限り瞑っていた。
「目を開けて、しっかり狙いを定めろ。弾を無駄にするな。」
リディが言った。
「くっ…。」
もはやゾンビの数が多すぎて、見ていないと、仮に仕留めても分からない。
今の1発がどの個体のどの部分を貫通したのか、全く分からなかった。
カランカランという薬莢の転がる音にせかされながら、今度はやや慣れた様子でもう1発撃った。
目をしっかり開けて、目に止まった1体を睨みつけるようにして。
だが、やはり撃った瞬間の反動で反射的にまぶたが閉じてしまう。
反動のせいで伸ばした腕はもう小刻みに痙攣を始めていた。
「目を閉じるな。お前が思うほど銃を撃つ事は難しい事じゃない。」
リディがまた言ってきた。
優香はまだ1発も撃たないで珪都のなりゆきを見守っている。
ふーっ、ふーっと自分を落ち着けるように息をした。
一旦腕を曲げて休ませ、改めてゾンビに狙いを付ける。
「……お前らのせいで…。お前らのせいで……!」
珪都は開き直ってゾンビに対して怨みをぶつけた。
芳樹を咬んだゾンビを。自分達が殺人訓練を強いられる状況を作り出したゾンビを。
もはや逆怨みのように1体のゾンビを睨みつけ、その感情をぶつけるように一気に引き金を絞った。
目の前が一瞬カッと光った。
相変わらずの反動と、銃声。
先ほどまでと違ったのは、自分が放った弾丸に手応えを感じたことだ。
照準の先には上体を大きくのけぞらせて後ろのゾンビにもたれるように死んでいくゾンビが見えた。
「そうだ。」
リディが言った。
珪都が優香を見ると、初めての成功を讃えるような顔ではなかった。
むしろ、次は自分の番であることを確信した絶望の表情。
優香も射撃を覚えざるを得ない。覚えなきゃ、芳樹は助けられない。
不条理な現実を振り払おうと、珪都は次々にゾンビを撃っていった。
1発で倒せるのは稀で、大体3発目くらいでようやく頭を吹き飛ばせていた。
イライラは余計つのっていく。




