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珪都が倉庫の方に戻ると同時にリディが口を開いた。
「早速だが、これから物資の調達に行く。」
「……は?」
珪都はつい喧嘩を売るような口調になってしまったが、リディもエラミルも気に留めなかった。
「ここにはいっぱいあるのに…?」
優香もうろたえ気味に逃げ道を提示する。
「ここにあるのはほとんどがかなり前から放置されてるものらしい。しばらくしたら何にも食えなくなる。」
エラミルが言った。
「実際水の一部は腐りかけてきてる。篭城するのにこれじゃまずいのは分かるだろ?」
リディも追い討ちを掛けてきた。
珪都も優香も納得は出来た。
納得は出来たが、了承は出来ない。
「でも、地上には化け物がウジャウジャいるんですよ!?」
出来る限り敬語で珪都は主張した。
「車はある。」
珪都は更に重ねる。
「でもアイツらは見たところ疲労しないし、数が数だから追いつかれないとは思えない。」
ここでリディが黙り込んだ。
もちろん、リディもエラミルも危険は承知である。
それでも生きるために行動するときが来たのだと、何故コイツらは分からないんだ?
若干苛立ちを覚えつつも、リディは平静を装った。
「そんなことは私も分かってる。そのためにお前らを呼んだんだ。」
―――――――
珪都と優香、それにリディとエラミルの4人は建物の屋上に来た。
芳樹は地下で待機している。
そして、リディとエラミルは拳銃を1挺ずつ、珪都と優香に手渡した。
本物の重量感に、思わず腕が下がってしまう。
「今から射撃の練習をしてもらう。いくらアイツらでもここには来れない。玄関から入って階段で上がってここまで来るなんて発想はできないらしいからな。」
エラミルの言葉に2人は愕然としつつ、予想が的中したことで同時に落胆した。
「ホントにここは安全なんですか…?」
優香が聞く。
「ああ。私らもたまにここに来て射撃の練習をしてるからな。1度もヤツらが上がってきたことは無い。」
「うぅ…。」
優香が聞いたのは、本当の安全確認のためではなかった。
「じゃあ、早速銃の使い方から教える。その2つはマガジンが入ってない。」
リディが言うので、2人は銃床を見た。確かに空っぽである。
「マガジンが何なのかくらいは分かるみたいだな。」
「あ…、ええ、まぁ……。」
「じゃあこれ。装填してみろ。」
リディは2人にマガジンを1本ずつ渡した。弾は充填されているようだ。
2人はほとんど迷わずにマガジンを装填した。
「そのままじゃ撃てないから、スライドロックを抑えながらスライドをコッキングする。」
ここでようやく、2人には指示内容が分からなくなった。
リディが自分の拳銃を抜き、スライドロックを指差して教えた。
「これを親指で抑えて、もう片手でスライドをこう…」
ガチャンッ
「分かったか? やってみろ。」
珪都と優香は一瞬顔を見合わせてから実際にやってみた。
リディは簡単にコッキングしたスライドだが、珪都たちにはかなり固く感じられる。
それでも2人はどうにかスライドを引き切った。
「それで初弾が装弾された。あとは引き金を引くだけ。」
リディは屋上の塀に近寄り、地上をうろついているゾンビを造作もなく1体撃ち倒した。
頭を撃ち抜かれたゾンビはあっけなく倒れ、銃声に気付いたゾンビがあっという間に集まってきた。
リディは、ゾンビを撃つことに躊躇を感じていないようだった。
珪都と優香は思わず耳を塞いだ。
走って逃げていた時、世界を覆った地獄の住人共の飢えた声がまた耳に入ってくる。
2人はリディに手招きされて恐る恐る塀に近づいた。
地上には、人間が何を求めてもこうはならないであろう形相、大群、必死さで自分達を求める餓鬼が集まっている。
「撃て。」
リディはそれだけしか言わなかった。
エラミルは後ろからじっと見守っている。
2人は改めて、もう逃げられないのだと実感した。
だが、それだけのことではもう涙は流れなかった。




