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 暗雲立ち込める五番艦。しかし、話はまだまだおわりません……

「話はもう一つある。負けた場合、お前達には金は払わない!」


 は? いや、こいつ何を言──


「だが、勝てれば約束した金の倍額を払う」


 !!!


「倍額!?」

「えっ!? まじでか!」


 突然の発言に周りは騒然となる。まあ、無理はないが……


(いや、そもそもそんなことは勝手に出来ないぞ)


 報酬を増やすのはともかく、本来勝手に条件を追加ことは出来ない。


(だが、そんなことに気が回ってる奴はいないか……)


 どいつもこいつも報酬倍額に浮かれ、その他の情報が入ってないみたいだな。


「アバロン兄! 倍だってよ! 帰りの船代稼げちまったぜ!」


 ドレイク、お前もか……


「ちなみに他の船は半分以上が一般人だが、この船は冒険者ばかり! つまり、勝ったも同然だ!」


「ウォォォ! すげー!」


「パラメーターで冒険者が一般人に負けるはずがねえもんな!」


 鎧を着込んだ男の言葉に周りの熱気は更に高くなる。何だかやな展開だな……


「だが、戦に絶対はない。不覚を取り、得るはずだった金を失う可能性もなくはない」


「確かにな……」


「相手は大王烏賊(クラーケン)だ。何があってもおかしかねーよ」


 先程の熱気が一転し、少し沈んた雰囲気が辺りに漂う。こいつらは弱いとはいえ冒険者。魔物との戦いに絶対はないこと、むしろイレギュラーばかりであることを普段から深く実感している奴らなのだ。


「だが、そんな諸君らへ勇者イーサン様から差し入れがある!」


 男がそう言うと、小箱を持った兵士達が次々と船室に入り、妙な液体が入った小瓶を皆にわたしていった。


「これは一時的に諸君のパラメーターを倍増させる秘薬だ!」


 なっ!


「これを飲めば普段以上の力が出せる。そして、大王烏賊(クラーケン)に近づきさえすれば勇者イーサン様が奴を一刀両断! 金は君たちの懐の中だ!」


「おおっ、すげぇ!」


「勇者イーサン様……そんなに俺達のことを……」


 いやいや、そんな都合のいい話があるか! 


(パラメーターを倍増させる秘薬なんてもの聞いたことがないぞ。


 俺は薬草やポーションに詳しくないから、俺の知らない物があってもおかしくない。だが、そんな便利はものがあればもっと広まっていなきゃおかしい。


(それに本当にそんな効果があったとしても、副作用がないわけない!)


 だが、一番の問題は、こいつはそれを説明する気がないことだ。


(やばい、やばいぞ)


 欲をかいた単独での特攻計画にギルドの規約無視、さらには怪しげな薬物……やばいどころか、まともな要素がない。一体公認勇者って奴の頭の中はどうなってるんだ!?


「「「イーサン! イーサン! イーサン!」」」


 再び熱を帯びた冒険者達が声を上げる。うわっ……これは止まらないな。


「様をつけんか、馬鹿者!」

 

 男が顔を真っ赤にして怒鳴るが、誰も聞いちゃいねぇ。


(とにかくこれは絶対に飲んじゃいけねぇな)


 俺は渡された小瓶にそっと触れた。




(アリステッド男爵<フェイ>視点)


「以上が装備の説明になります」


 なんとわざわざギルド長から大王烏賊(クラーケン)討伐用のガレー船の装備について説明を受けてしまった。恐れ多い……


「わざわざギルド長から説明頂けるとは……感謝する」


「この程度はお安い御用です、アリステッド男爵」


 逆に頭を下げられてしまった……どんだけ偉いんだ、アリステッド男爵は!


「作戦の決行までまだ時間はあります。何か他に準備等必要なことがあれば仰って下さい」


「ギルド長タイラー様、もし出来れば船を案内してくださいませんか? スキルで船を守るために構造をよく知っておきたくて」


「おおっ、勿論ですとも。それにリィナ様、どうぞタイラーとお呼び下さい」


「いや、そんな!」


「あのルーカス様のご息女であり、アリステッド男爵様のパーティでもあられるのです。当然です」


「いえ、あの一冒険者として扱って頂ければ……」

 

 そんなやり取りをしながらまギルド長は俺達に船内を丁寧に案内してくれた。





「後十分でクエスト開始か……」


 大王烏賊(クラーケン)の住処は大体分かっている。時間になれば、五隻同時に出発し、大王烏賊(クラーケン)を攻撃する作戦だ。


(それにしても、リィナ人気は凄かったな……)

 

 リィナが船を回っただけで、船員も冒険者も皆、リィナのファンになってしまったのだ。


(……というより信者だな)


 我が妹ながら恐ろしいカリスマ性だ。これでクラスが聖女だとバレたらもうマジで教団がでちゃうんじゃないか???


「人気者ですね、アリステッド男爵」

「?」


 そんなことを考えていると、ついさっきまでギルド長タイラーさんと話していたリィナがクスクス笑い出した。


「タイラーさんに“アリステッド男爵にサインをお願いしたいという申し込みがあるのですが、ご機嫌を損ねないでしょうか?”って聞かれてしまいました」


 は?


「アリステッド男爵の活躍は冒険者は勿論、貴族にも人気があってオペラにもなってるらしいです。で、付き合いのある貴族から頼まれてるんだっておっしゃってましたよ」


 冒険者だけじゃなく貴族にまで俺の話が……って、オペラってなんだよ!


(ロマンス小説じゃあるまいし、マスクの下に甘いマスクでも隠されてるとか思ってるのかな……期待外れで申し訳ないが)


 何か色んな意味でマスクが外せなくなっていくな。 


“そんなことありません、マスター! マスターは……その……その…………”


 ん?


(どうした、ミア?)


“………かっ…………こいいです”


 ブツッ!


 あ、ミアとの念話が切れた。


(一体何なんだ?)

 読んで頂きありがとうございました! 次話は明日の昼12時に投稿します!


※大切なお願い

 皆様のブクマやポイントが執筆の原動力です。「あ、忘れてた」という方がおられたら、是非御一考下さいませ( ´◡‿ゝ◡`)

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