22話 ジョーカー・ジョーカー
【ジョーカー・ジョーカー】が無くなり、みんなで酒場中の大捜索です。
「ダメよ、カスミくん。店中を聞いてまわったけど、誰も持っていないって」
「酒場中探したけど、道化の仮面なんかどこにもないぞ」
「くそっ、だったら、どうしたんだ。いったい【ジョーカー・ジョーカー】はどこに行っちまったんだ!」
ボクは何となく思いついたことを言ってみました。
「カスミさん。ボクの勘なんですが、【ジョーカー・ジョーカー】はアウグストさんの元に行ったんじゃないかと思います。ボクに宿った【キングオブスペード】が、やたら強い人と戦いたがる経験から言うんですが」
「なに?【ジョーカー・ジョーカー】が勝手に奴の元へ行っちまったとでも言うのか?」
「あり得ると思います。【ジョーカー・ジョーカー】は人の満たされない願いで、人を魔物へかえるアーティファクト。だから、そういった人の元へ自ら赴いたと思うんです」
「アウグストか……莫大な借金は奴の願いの大きさ。たしかに奴の願う想いは極大だろうな。当たってみるか」
結果として、この考えは当たっていました。
だけど、すでに手遅れ。最悪の事態はすでに進行していたのです。
—―—「うぎゃああああッ」
—―—「バケモンだ! 街にモンスターが出たぞおおッ」
酒場の外からそんな声が聞こえて、さらに壁の向こうにヤバいモンスターの気配がします。
「みんな入り口からさがって! 何かが来ます!」
バリバリバリドガァーーッ
壁をぶち壊し中に入ってきたのは、二体の異形な人型の魔物。
「モンスターだ! 狂猿の亜種か?」
「マスター、武器を出してくれ! 戦える奴らで、コイツらをやっつけるぞ!」
冒険者たちの荒くれ男たちが武器を手に、いっせいに人型魔物に向かいます。
「あははっ♪ 俺のお酒への愛は誰にもとめられない~」
「男に用はねぇっ! そこのお姉さん、僕とつきあってください♪」
えっ? モンスターが人語を話した?
一体は酔っぱらったような動きで攻撃をヒョイヒョイかわし、そこらのお酒をゴクゴク飲みます。
そしてもう一体は触手のような腕を伸ばし、武器を取り上げていきます。
「人語を話すうえに人間と同じ知能を持っている。やっぱりコイツらはアレか」
「ええ。魔物化した人間。どうやら手遅れだったようですね。すでに【ジョーカー・ジョーカー】は宿主を得て活性化しています」
「人の攻撃のしかたを知られてるってのは厄介だな。おまけに強いぜ」
二体の魔物は冒険者たちの攻撃をいなし、そのパワーでふき飛ばしていきます。
これはBランクくらいのレベルかもしれませんね。
「しかたない、ボクがやります。ご主人様とカスミさんはもんなを連れて安全な場所に。あとで冒険者ギルドでおちあいましょう」
「う、うん。でもラチカだけで大丈夫?」
「あのくらいなら、ボクだけで倒せます。でも戦う姿は他の人に見られたくないので、みんなを連れて出てください」
「わかったわ。あとは頼んだよ、ラチカ」
そして一刻後。みなさんは酒場から出ていきました。
モンスターの一体は酒場のお酒を樽でゴクゴク飲んで、もう一体は女の人を追いかけようとするのをボクがガードしてとどめている状況です。
「どけっ、獣人娘! 獣人も嫌いじゃねェが、お前じゃたたないんだよ! もっと成長してからきやがれ!」
「アライグマ種はこれで成人なんですよ。それにここをどくわけにはいきません。あなたを外に出したら、ご主人様も危険ですから」
「だったら特別におかしてやるぜェーーッ! ちっこい穴をおもいっきり広げてなああっ!」
ああ、下品です。はじめて殺意というものを経験しました。
女狂いのモンスターは触手をすべてボクに向けて放ちます。
「来たれ【キングオブスペード】」
覇王の槍を召喚するとそれを回転させ、迫りくる触手をすべて切断。
「ギャアアアアーーッ!!」
怯んだ隙に胸をつらぬいて倒しました。
するともう一体は、酒樽を放り投げ、こちらに相対します。
「ウィーヒック。よくも兄弟をぉお。カタキをとってやるぜェ~」
ああ、酒臭い。
けど、こちらの【酔ッパライダー】は女狂いのヤツより少しだけ格上。
冒険者たちの攻撃をヒョイヒョイかわして翻弄していたのは見事でした。
「飲めば飲むほど強くなる……おれッチのパワー見せてやるぜぇええッ♪」
「なにッ⁉」
酔ッパライダーは突進、そしてパンチ。
ボクはそれを槍で受けてダメージをおさえます。
「初手でボクをとらえた? アライグマ獣人のこのボクの動きを!」
これは【キングオブスペード】の継承者になってはじめてのことです。
「ほれほれェ~、ドンドンいくぞおおおッ」
「くッ」
ビュンッ バキィッ ボカンッ
どうにか躱すものの、酔っ払い特有の不規則な動きで、攻撃のタイミングがとれません。
しかもアイツの拳は、的確にボクの体をとらえてきます。
「コレは……さっきの奴とは別格に強い!」
いえ、コイツはさっきの奴を”兄弟”と言っていました。
二人にさほどの差があるはずがありません。
だとしたら、この強さはいったい? ……そうか!
ビシュッ ドグウッ バシィッ ザシュッ ドガァッ
この強さに思い当たることがありました。
と同時、自分の考えに背筋が寒くなるほど戦慄しました。
もしかして【ジョーカー・ジョーカー】にモンスターにされた人間は、自分の欲望をみたすほど強くなる?
だとすると、すぐに冒険者たちはおろか、騎士団にさえ手がおえなくなってしまう!
「ほらほらほらあ~~ッ とどめ、ズバッといくぞぉ~ッ」
「武神流【針点核貫】!!」
ピタリ。
酔ッパライダーの拳の中心を突き刺して止めました。
「あ、あれ? クソッ、抜けない!」
「先ほどのモンスターと同レベルと思って対応が遅れましたけどね。それなりの相手と思ってのぞめば、あなた如き相手ではありません」
「な、なにをおッ、このッ!」
「そして【ジョーカー・ジョーカー】の恐るべき力の一端を知った以上、あなたと遊んでいる暇はありません。今すぐ死んでください。武神流【斬轍弦憧】!」
槍を回転させ、酔ッパライダーさんをバラバラにしました。
◇ ◇ ◇ ◇
街ではあちこちから悲鳴が響く。
そのどれもが街中でいきなり現れたモンスターによってのものだ。
その中カスミは同級生のアリアとエミリーを連れ、彼女らの家に向かい走っていた。
「ちっ、ここも通行止めか。こりゃ、かなり遠回りになるな」
「ううっ、ワンドさえ持ってきてればあたし達も戦えたのに」
「無茶だ。今回は大人たちにまかせて、お前らは家でおとなしくしてろ」
「ねぇ、カスミくんも私の家でいっしょに避難しない? カスミくんの家は遠いんでしょ」
「いや、オレにはやる事がある。お前らを家に送ったら別れるからな」
「そう……無茶しないでね」
(ああ、アリアにさびしそうな顔なんかさせちまったな)
カスミは心を痛めつつも、二人を連れて街角を抜けていく。
だが、その先に見知った顔に出あった。
――—「カスミか。今ちょうど会いたいと思っていた。運が良かったな」
それは高価な服の旅装を纏った少年。
最後に見たのはギルドであったが、ずいぶん会ってなかったようにも思える。
「……サリエリ? お前、帰ってたのか」
「え? 一組のクロノベル公爵家の?」
「あの……いま危ないですよ。あなたも避難なされては?」
街中に騒乱が起こっているというのに、サリエリはあまりに普段通りの彼であった。




