涙と力の関係性⑪
「は?」
少女の余りにも突飛な発言に、暫し、鳩が豆鉄砲を食らった様な表情でただ呆然と少女を見つめる光流。
「えーと、つまり、何だって?ああ、僕が誰かを助けたいと思ったら、僕は条件反射でそいつの所に駆け付けて、何が何でも助けなきゃいけない訳だな?」
「ええ、そうですわ。察しが良くて何よりです」
「そーかそーか、成る程・・・ってそんな事出来っか!」
「何故です、貴方は彼女達を助けたいのでしょう?」
光流の言葉に、やや憮然とした表情を浮かべる少女。
彼女は、光流ならばすんなりこの申し出を受け入れると思っていたらしい。
そんな彼女に、光流は今の状況も思わず忘れ、怒濤の勢いで突っ込みを入れていく。
「言ったよ!確かに言ったよ!二人を助けたいって!けど、助けたいと思った人間全員ってなぁ・・・そんなの何人、いや、何十人になると思ってるんだ!!」
光流は、頭の中に、大切な家族や友人達の姿を思い描きながら少女に語りかける。
「そりゃ僕だって、大切な奴等が困ってて、助けを求めてるなら助けたいさ。けど、人間ってのは、生きてけば生きてく程、大切な奴ってのが増えてくもんだろ?それを全員助けようとしてたら、絶対いつか続かなくなる。上手くいかなくなるぞ。」
例えば、この先、楓と華恵が助かって・・・けど、ある日、二人が同時に別々の場所で助けを求めたら、如何するんだ?
静かに少女にそう問い掛ける光流。
すると、少女は細い自身の顎に手をあて、暫し逡巡する様な素振りを見せる。
光流はそんな少女を見つめ、彼女が答えを出すのを待った。
「・・・・・・成る程。いつか上手くいかなくなる、ですか」
少女は、少しの間、光流の言葉を小さく口の中で反芻する様にしながら思案していたが、やがて、ゆっくりその顔を上げると、光流の瞳を真っ直ぐに見つめ返しながら、口を開いた。
「それでも、わたくしは、貴方に『大切な者全員の守護者』となることを、要求します」
(わたくしが、『あの子』を護れなかった分までーーー。)
「貴方が大切な誰かを護ることで、わたくしに代わり、貴方がわたくしの無念を、この後悔を晴らすのです、近藤光流」
「なっ・・・?!」
少女が再度突き付けてきた、余りに重すぎる条件に思わず絶句する光流。
(確かに力は貸して欲しい。けど、そもそも、彼女の無念って何なんだ・・・?それに、何で僕が彼女の無念を晴らさなきゃいけないんだよ・・・)
「やっぱ、おかしいだろ。せめて、無念を晴らすとかじゃなく、何かこう、もっと別のーーー」
「それが、貴方の宿命だからよ。貴方に拒否権はないの。二人を助けたければ、従いなさい」
先程までの穏やかな態度とは打って変わった、ともすればやや高圧的ともとれる態度で少女は光流に決断を迫る。




