涙と力の関係性⑨
光流の瞳に再び希望の光が宿ったのを確認すると、少女は重ねていた手をそっと離しながら、彼に言葉をかける。
「漸く、分かりましたわね?ならば、立ち上がりなさい、近藤光流。大切な者達を、今度こそその手で護りたいのならば、こんな所でへたりこんでいる時間はなくってよ」
まるで、叱りつつもその背中を押している様にもとれる少女の言葉に、光流は一度強く頷くと、ゆっくり立ち上がった。
その瞳には、もう、一切迷いや絶望はない。
光流は、強い意志を宿した瞳で、再度少女の澄んだ蒼の瞳を真っ直ぐに見つめると、はっきりとした声で彼女に問い掛けた。
「なぁ、教えてくれ。如何したら、二人を助けられるんだ?君は知ってるんだろ?」
光流の問い掛けに、少女もまた、光流の目線を確と正面から受け止めつつ、答えを返す。
「ええ。知っているわ。・・・わたくしと、契約なさい、近藤光流。わたくしと貴方は、とてもよく似ているわ。ですから・・・わたくしと契約を為したなら、貴方の大切な者達を護る為、わたくしの全ての力を貴方に貸し与えましょう」
少女からの、思ってもみなかった有り難い申し出に、光流の顔に一気に喜色と安堵の色が溢れる。
(やった・・・!これで、二人を助けられるぞ・・・!)
心の中で大きくガッツポーズをする光流。
しかし、喜びに心を弾ませていたのも束の間、光流の中にある疑問が頭をもたげ始める。
(・・・待てよ?彼女は、確か、契約って言ってなかったか・・・?)
そう、確かに少女は『契約を為したなら』と言った筈だ。
そして、通常、契約とは当事者同士の意思や利害の合致によって成立する行為ーーー即ち、光流が少女に力を借りる以上、光流も少女の望む何かを提供する必要がある。
それが契約というものだ。
ならば、少女は一体光流に何を望むのか。
ーーー今までの光流ならば、その『何か』・・・少女に何を差し出せと言われるのか、に、警戒し、酷く怯えていただろう。
だが、今の光流は違う。
彼女は、言ったのだ。
楓と華恵を護る為に全ての力を光流に貸し与えると。
確かに、少女に何を要求されるのか、それを想像すると少し背筋が寒くなる。
警戒も、全くしていない訳ではない。
今でも、心の何処か片隅では、もう一人の光流が「彼女をそう簡単に信じても良いのか」と光流自身に問い掛け続けている。
しかし、光流は信じたいのだ。
二人を護る力を貸すと言った彼女の言葉を。
そして、それ以上に、今の光流には、楓と華恵を護る力以外に欲しい物や望む物等何も無いのだから。
(二人を助けられるなら、僕は・・・・・・)
光流は、一度瞳を閉じると、ゆっくり息を吸う。
そうして、再び瞳を開き、その口の端に笑みすら浮かべながら少女に告げた。
「良いぜ。君の望みは何だか知らないが、その契約のった」
不敵に放たれた光流の台詞に、少女もまた愉快そうに、何処か挑発的な様な微笑を浮かべ
「あら、そんな簡単に決めて宜しいのかしら?わたくしは、まだ条件を話していませんわ。条件が貴方の命、だったら如何しますの?」
と言う。
けれど、光流は笑みを崩さぬまま
「それでも構わないよ」
と、一瞬たりとも迷うことなく口にした。
「僕の命一つで二人が助けられるなら、安いモンだ」
命を懸けて助けてくれた父さんと母さんには、申し訳ないけどさーーー。
「けど、それでも、僕は今の家族を、友達を、助けたいんだ」




