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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第二章 幕間小咄の段
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番外編『たきやしゃ!~タナバタってなんですか?前編~』

「たーなーばーた様様さーまさま~♪牧場に揺れる~♪おー星様きーらきら、金銀穴子~♪」


今、前方より果てしなく間違った七夕の歌をとても上機嫌に歌いながら、スキップをして此方に向かってくる少女が一人。


彼女の名前は、中飾里楓。


自称花も恥じらう女子高生であり、彼女をよく知る友人達からは、その快活さや人懐こさと引き換えに、全理性や知恵を失って生まれてきたのではないかと噂されている、二重の意味での大物なのである。


そうしてーーー。


「何だよ、金銀穴子って。イソップ童話か」


隣から透かさずそう突っ込みを入れるのは、楓の両親が経営するアパートの店子でもあり、気の置けない友人でもある近藤光流だ。


ちなみに、彼の特技は突っ込みで、趣味も突っ込みである(楓談)。


と、言っても、別に彼はお笑いを愛する芸人志望の高校生でもなければ、割りとノリや突っ込みを大切にする関西出身でもない。


彼が日常的に突っ込みの鬼と化すのは、上述した・・・最早原型すら留めていない程に崩壊した七夕ソングが良い例である様に、基本的にその殆どが、阿呆でおたんこなすな楓の言動が原因となっているのだ。


しかし、当の楓本人がそんなことに気付く筈もなくーーーそうして、更に言うならば、自身が輝かしい程の阿呆であるという自覚もある訳がなく。


今日も今日とて、学園で元気いっぱい全力全開でお馬鹿な言動を繰り返してきた楓。


そうして、今、二人は家への帰途についている訳なのだが。


道を行き交う通行人達が、そんな二人と擦れ違う度、驚いた顔で二人の方を振り返っては、ある者は楓を見てくすくすと笑い、またある者は光流に同情する様な哀れみの眼差しを送りながら去っていくではないか。


一体、二人に何が起きたのか。


答えは簡単だった。


「なぁ・・・幾ら七夕だって言ってもな、頼むから、その笹を担ぐの止めてくれよ。恥ずかしいって」


名前すら知らぬ通行人達からの憐れみの視線を全身に痛い程浴びながら、最早耐えられぬとばかりに楓に声をかける光流。


そうーーー実はこの時、楓は、細めではあるものの、かなり立派な長さの大きな笹の枝を肩に担いで道を闊歩していたのだ。


その姿、まさに鉞を担いだ金太郎の如し。


肩に大きな笹を担いだまま、軽やかにスキップをして夕暮れの道を歩く女子高生の姿は、かなり異質で奇異なものだった。


これでは、道行く通行人達の注目を浴びるのも無理はないだろう。


しかも、当の本人がそんな事全く気にも止めず・・・と、言うか、どちらかと言うと注目を浴びている自分に若干酔いしれながら、歌まで歌って歩いているのが尚更イタイ。


もう、イタ過ぎる。


重症だ(精神的に)。


そんな彼女から離れ、距離をかなり取り、俯きながら歩く光流。


ちなみに、その際彼は、まるで警察に連行される凶悪犯の様に、洗濯する為持って帰っていた体育用のジャージをすっぽりと頭から羽織り、顔を隠していたのだがーーーこれもこれで、かなり悪目立ちしていた事に等彼は一切気がつかないのであった。


そして、現実には歩いて数分なのだが、(主に光流が)永遠に続くのではないかとすら思える程歩き、やっと家に到着する光流と楓。


「たっだいまぁー!」


「・・・・・・タダイマー」


片方はまるで獲物を仕留めた熟練の猟師の様に高々と笹を掲げて誇らしく帰宅を告げ、もう片方は扉を開けるなり泥の様に玄関に倒れ込みつつ帰宅を告げるという何ともシュールで正反対な様子を見せる楓と光流。


「おかえりなさぁい!!」


そんな二人を家の玄関で出迎えたのは、両手に溢れんばかりのデコレーショングッズを抱えたシャーロットであった。


「さぁ、はやくかざりましょう!」


瞳をきらきらと輝かせながら、その小さな腕に抱くデコレーションの一つを、光流に向けてずいっと差し出すシャーロット。


彼女が光流に差し出したそれはーーー真っ赤な服に真っ赤な帽子、白く長いお髭がトレードマークの、真冬に活躍するあの子供達に大人気のおじいさんの人形だった。


(え?何故真夏にサンタクロース?)


まさかこれが英国式ギャグというものなのだろうか。


ふとそんな事を考えながら、光流が他のデコレーションにも目を向けてみるとーーー。


色とりどりに輝く長いモール、赤いリボンのついた柊、金色に輝く大きな星に、『メリークリスマス』と書かれた大きなプレートーーー何処から如何見ても、それらは・・・・・・。


「クリスマスの飾りじゃねぇか!!!」


そう大音響で突っ込みを入れる光流。


そんな彼の余りの大声に、シャーロットはびくりと身をすくませる。


瞬間、光流の頭を容赦なく直撃する金盥。


「ってどっから出てきたこんなもん!!!」


金盥をげしげし蹴りながらそう叫ぶ、最早突っ込みマシーンと化した光流に、嘲笑う様な視線を送るコーデリア。


「私の可愛いシャーロットを怖がらせるなんて、言語道断でしてよ。この笹男!」


「いや笹担いでたのは僕じゃないし!!」


反射的にそう叫ぶや、はたと我に返る光流。


自分に憑いているコーデリアはまぁあれとして・・・そう言えば、何故、此所にシャーロットがいるのか。


何か嫌な予感を感じ、光流が玄関の靴箱の方に目を向けてみるとーーーその下には様々な種類の、よく見覚えのある沢山の靴がずらりと並んでいるではないか。


「っ?!」


何故今夜に限ってこんなに沢山の、しかも個性的なやつらばかりが集まってるんだーーー。


声には出せぬそんな魂の叫びを胸中だけで上げ、がしがし頭をかく光流。


すると、そんな光流の背中にあっけらかんとした楓の声がかけられた。


「あー、わっすれてたぁ!そう言えば、今夜は七夕パーティーやるって皆を呼んだんだったよ!」


「んぬぅぁぁ?!」


彼女の言葉にぴしっと固まり石になる光流。


彼の苦難の時間はまだまだ始まったばかりであった。

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