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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
141/148

近藤光流と別れの挨拶(ショート・ショート・グッドバイ)⑤

「っーーー??!」


その瞬間、まるで引っ張られる様に強く現実へと引き戻される光流の意識。


(今の、は・・・本当に、起きたこと、なのか・・・?)


未だ自分の身に起きた出来事を全く信じることが出来ない気持ちで、白昼夢を見た後の様な・・・酷くぼんやりとした頭を抱えたまま、緩慢に辺りを見回してみる光流。


「・・・・・・」


すると、そんなーーー現実と過去の記憶の狭間を行き交う彼の瞳に、まるで黒い鍍金が剥がれていくかの様に、ぼろぼろと剥がれ落ちていく周囲の漆黒の闇が写り込む。


望洋とした眼差しで見つめる光流のその目の前で、季節の花が次の季節の花へと主役を譲る為に散り急ぐかの様に、次から次へと剥がれ落ちては、灰の様に細かな粒子となり、やがては消えて見えなくなる純黒の闇。


そうしてーーー闇の剥落に合わせるかの様に、周囲の空間の崩落も激しくなっていく。


(・・・これは、本当に早く出ないとまずいな・・・)


最早、殆どの闇が剥がれ落ち、西洋の怪物フランケンシュタインの様に闇と・・・その向こうに見え隠れする虚無の空間の継ぎ接ぎだらけとなった、自分達の居る空間を見回しながら、そう思考を巡らせる光流。


と、同時に、光流はチラリと、彼が果てしない虚無へと墜ちてしまうのを阻止するべく、彼の身をしっかと抱き締め、なんとか少しでも浮遊しようと耐えず様々な妖術を試し続けている葉麗に目を遣った。


同時に痛烈に思い出す。


自分が何をされたのか。


(・・・結城・・・。・・・そうだよな・・・こいつは、自分の力を分け与えてまで僕を助けてくれて・・・それに、今もまた、自分だって危険な状況なのに、こうして、必死に僕を助けようとしてくれている・・・)


一体、何故彼女はそんなに必死になって自分のことを助けようとしてくれるのかーーー?


一瞬、そんな疑問が光流の口を突いて出そうになる。


だが、


(・・・いや、今はそんなこと如何だって良いじゃないか・・・。ただ、今は、彼女と生きて皆の所に戻ることだけを考えよう。もし、僕が此処で死んだら、あの時あんなに必死になって僕を助けてくれた雲外鏡医師せんせいや、文車さんの力や優しさ、それに・・・結城が分け与えてくれた力、その全部が無駄になってしまうんだ・・・)


そう光流は思い直すと、如何すれば、二人で無事にこの空間から脱出することが出来るのかーーーその方法を見つけ出す為、必死に思考を巡らせ始めた。


(・・・何かないのか、良い方法は・・・。何か・・・きっと、何か良い方法がある筈なんだ・・・。考えろ、僕・・・。決めたんだろ、今度は、僕が彼女を助ける番だって・・・)


しかし、助かる方法が未だ全く見つかっていないというのに、時間だけが刻々と過ぎ、更に、周囲の空間に至っては、秒単位でどんどんと崩壊していくというこの異様な状況は、確実に光流の中に激しい疲労と焦燥感だけを蓄積させていく。


加えて、どんなに抗おうとしても、自分達の体が止まることなく、まるで地の底から強い磁石に引っ張られているかの様に、絶えず下へ下へと墜落していくということに、ついに光流が限界を迎え


(・・・そうだ。さっき、確か彼女は羽も出さずに浮かんでたよな。なら・・・せめて彼女一人なら、きっとーーー)


そんな弱気なことを考え始めた、次の瞬間


「ちょっとさ、そこのあんた?もしかして、姫様一人だけでも、とかなんかクソ弱っちいこと考えてない?」


不意に、何処かから蜘蛛丸の小バカにした様な声が響き渡った。


しかも、かなりの大音量で。


「っ?!く、蜘蛛丸か?!一体いつの間にこっちに来たんだ・・・?」


馬鹿にされたことも忘れ、蜘蛛丸の声に若干痛む耳を押さえながら、周囲を見回してみる光流。


だが


「え。いない・・・?」


そうーーーどんなに光流が見回しても、其処には、光流と葉麗以外の人影等全く見当たらないのだ。


(・・・まさか、仲間に逢いた過ぎて・・・僕は、ついに幻聴を・・・?)


自分が其処まで壊れてしまったなんて、と光流が自分に対して嘆き戦いていると


「っていうかさ!そんな百面相してないで、早く気付いてくんないかな?!皆の『思い』と『願い』が詰まってるから重いんだよね、これ!」


今度は光流のかなり近くーーーしかも、耳元と言っても差し支えない位の至近距離で、蜘蛛丸の怒声が響いてきたではないか。


「っ~~~??!!」


突如耳元で響き渡ったかなりの大声に目を見開き、思わず両耳をばっと塞ぐ光流。


もし、彼が普通に地面に立っていたのなら、その余りの音量と衝撃に、地面に膝をついていたことだろう。


そうして、先程から続く大音量の波状攻撃に、光流がじんじんと痛む耳を擦りながら、蜘蛛丸の声のした方を見てみるとーーー


「んなっ・・・?!」


そこにはなんと、虹色に輝く非常に美しいーーーが、えらく巨大なサイズの『蜘蛛』がいた。


しかも、光流の肩の上に。


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