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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
131/148

星天大戦36

「おーい、皆ー!!」


突然聞こえてきた光流の声に、思わず一瞬攻撃の手を止め、声のした方を振り返る仲間達。


そこで、彼らが目にしたのは


「皆!光流くんが戻ってきたよ~!」


「悪い、遅くなった!」


楓と共に、此方に向かって息を切らせながら走ってくる光流の姿であった。


「光流くんっ!」


「遅い~!もう、すっごく待ってたんだよ~!」


心から待ち望んだ仲間の再起とその来訪に、はち切れんばかりの笑顔を浮かべると、駆け寄ろうとする華恵や文車達。


そんな仲間達に向けて、自身がもう大丈夫であるという事を伝えるかの様に、光流は大きく両手を振り始めたーーー大切な仲間達、その一人一人の顔をしっかりと見つめながら。


そして、駆け寄ってきた仲間達と光流が感動の再会を果たそうとした、その瞬間ーーー


嗚呼悪鐚痾閼鴉堊錏婀ああああああああああーーー!!!』


突如として、悪神が、聞いた者全員の魂を凍り付かせるかの様な、世にも恐ろしい咆哮を上げる。


と、同時に空間に響き渡る、ぶつりっという何かが切れる様な音。


その音を聞いたミリアは忌々しそうに一つ舌打ちをすると、自身の左手の親指の爪を噛みながら呟いた。


「・・・やられたわ・・・。来るわよ」


ミリアがそう告げるが早いか、先程まで縄で拘束されていた筈の悪神が光流達の頭上に現れ、彼らに向けて襲い掛かる。


奴が、遂にミリアの戒めを食い破ったのだ。


「なっ・・・?!いつの間に・・・?!」


行きなり自身の真上に現れた悪神に、華恵は激しく動揺する。


すると、悪神もそれを感じ取ったのか・・・狙いを華恵に絞ると、彼女に向けて無数の闇色の触手を走らせてきた。


「なんのこれしき、ですっ・・・!」


自身が持つハンマーを中心に斥力の盾を張り巡らせ、急襲する触手達を文字通り、悉く打ち返す華恵。


けれど、触手の数は余りに多く、斥力の盾を掻い潜った数匹が華恵の美しい顔目掛け、その鋭く尖った牙を突き立てんと飛び掛かった。


「っ・・・!」


次に来るであろう痛みを想像し、華恵はぎゅっと目を瞑る。


しかし


「折角の感動の再会の瞬間なんだから、邪魔しちゃ駄目だよ~?!悪い子にはまたまたお仕置きで~す!『活字中毒死チェイン・ディストラクション』!」


相変わらず底抜けに明るい調子で文車がそう告げた瞬間、彼女が片手に持つ本から無数の文字が溢れるとーーーそれらは、まるで誘蛾灯に群がる蛾の様に、統率された動きで一斉に悪神に襲い掛かった。


だが、悪神は、文車の反撃すら想定内だとでも言うかの様に、徐に大きな口を開けると、深呼吸をしているかの様に一瞬で文車の攻撃を全て飲み込んでしまう。


そうして悪神は、吸収した攻撃を、放った文車本人に向けて返すべく、その巨大な口を文車に向けて開こうとする。


それを見た文車は、自身の攻撃を今から反射されるという絶対絶命の状況であるというのに・・・何故か、にぃっと意味深な笑みを浮かべた。


同時に、口を開きかけていた悪神が、その口から文車の攻撃ーーーではなく、餌として喰らい、体内に貯蔵していた魂や触手等様々な物をぶちまけながらのたうち、苦しみ始める。


「え・・・何が起きたの?」


状況に全くついていけず、ひたすら首を捻る楓。


そんな彼女に、天海が優しく、しかし、手短に説明をした。


「中飾里さん。あれは『自壊じかい』と言う妖術の効果の一つで、その術を受けた者の身体を、内側から細胞レベルで死ぬまで破壊していく、そういう効果があるのです」


「ふぇ~・・・内側から体が破壊されるなんて、なんか怖い効果・・・」


天海の言葉が如何やら本当に怖かったらしく、楓は小さく身震いをする。


すると、吐き出してしまった魂の補填をするべく、今度は楓とーーーそれに、魂を大量に失う原因となる技を放った文車に向かい、悪神が複数の触手を四方から放ってきた。


けれど、ガゥン!ガゥン!という激しい発砲音が何発も辺りに響き渡ると同時、楓達の魂を喰らわんとしていた触手達が力なく崩れ落ち、やがて、さらさらと砂の様な細かい粒子となって消えていく。


(・・・これは・・・まさかーーー?)


その音に、何やら予感めいたものを感じた楓と華恵が、ほぼ同時に、揃って銃声がした方を振り返る。


「・・・ああ・・・やっぱり、貴方だったんですね」


何処か得心した様子でそう呟く華恵の視線の先、其処には一対の銃剣を手にした光流が立っていた。


彼がその手に握る銃剣の銃口からは、未だゆらゆらと紫煙が立ち上っている。


その様子を見るに、先程悪神の触手を撃ち抜き、華恵と楓を救ったのは光流で間違いないだろう。


そうして、光流は再び銃剣を構えると、今度は悪神の腹に照準を合わせ、引き金を引いた。


再度辺りに響き渡る、ガゥン!という発砲音。


同時に、見事に腹を撃ち抜かれた悪神が、その穴の空いた腹部を押さえ、膝をつく。


するとーーー如何したことだろう。


今までは、業火で燃やされようが、無数の氷の刃で貫かれようが、どんな攻撃を受けようとも少しの時間で回復していたあの悪神の腹の傷が、全く回復していないどころか、回復する様子すら見せていないのだ。


しかも、塞がっていない傷跡は腹だけではない。


よく見てみると、楓達を殺害しようとして触手を伸ばした時に撃ち抜かれ、出来た傷も全く癒えていないのだ。


そんな、まさしく異変とも呼ぶべき悪神の様子を注意深く見つめながら、天海は一人、静かに沈思黙考する。


(・・・まさか、悪神が弱っている・・・?いや・・・先刻さっき私達が攻撃を加えた時は、確かに直ぐに回復していた・・・。それに、そもそも悪神という存在は、基本的に、核を攻撃されたり破壊されたりしなければ、深手を負う事もなく、死ぬことすらもない存在の筈だ・・・。ならば、一体何故・・・?)

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