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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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星天大戦33

 茶々の指揮の元、敵と定めた悪神を討つべく、それぞれの抱く悲憤慷慨の思いをその刃に乗せて振るう豊臣の怨念達。


全身を太い縄で拘束され、火刑に処されているかの様に生きたまま業火に焼かれる悪神の身に、歴戦の兵士達の無数の刃が容赦なく突き立てられる。


悪神の肩を、腹を、胸を、足を。


一切の躊躇いなく抉り、貫いていく妄執の兵団の鋭い刃。


そうして、その度に悪神の体から吹き出す、真っ赤な血と、真っ黒な闇。


しかし、辺りに鮮血と漆黒の闇を盛大に撒き散らしながらも、悪神は如何にか炎をその口に捉え、ミリア達に反射をしようと試みる。


だが、そもそも太い縄で、伸びた下顎の部分から、通常の人間であれば頬にあたる部分までを、隙間なくぎっちりと拘束されている為、悪神は足元に描かれた魔法陣を見るどころか、満足に首を動かすことすら出来ず、ただただ無惨にその身を切り裂かれ、全身を焼き尽くされていく。


まるで喉も裂けよとばかりに、悪神のその大きな口から迸り、そら高くまで響き渡る、絶叫ーーー。


その叫びが良い燃料になったかの様に、いよいよ以て、更に勢いよく燃え盛る業火のあかが学園の上空を染める頃ーーー楓は一人、光流の傍に残り、彼の手を握ったまま声をかけ続けていた。


元より、華恵や光流達と比べると比肩する程高い戦闘能力もなく、あくまでこの騒動に巻き込まれただけの友人であり一般人に過ぎない彼女だ、戦闘に加わらず光流の元に残留したのは賢明な判断と言えよう。


けれど、楓が残ったのは、決して自身の能力が劣っているからだけではない。


いや、寧ろ彼女は、兄と共に葉麗により与えられた『タロットに宿る姫君達の仮初めの宿主となり力を借りる』という自身の能力をとても好ましく・・・誇りにすら思っていた。


何故ならば、楓にとって彼女らは、この世界では決して出逢える筈ではなかった偉大な歴史上の偉人であり、自身の知らない世界を教えてくれる、数少ない貴重で親愛なる友人達だからだ。


ーーー例え、彼女達が、本来は姫君達の思いを受け継いだだけのただの付喪神で、本物の姫君達ではないとしても。


それでも楓は、出逢ったばかりではあるが、吉乃や直虎、それに茶々達を、とても好ましいと感じていた。


だからこそ、彼女は兄と互いにーーー『陽』の力を宿すカードは楓が操り、『陰』の力を宿すカードは達郎が操る、という様に取り決めを作り、朧から学園に着くまでも肌身離さず、自身の友人であり、力にもなってくれるであろうカード達を、それはそれは大切に持ち歩いていた訳だが。


実は、彼女が力を欲した理由は、もう一つあった。


それはーーー。


「・・・光流くん・・・」


そう、光流と一緒に肩を並べて戦いたいーーー。


それが、彼女が日常を手放し、力を手にした最大の理由であった。


「・・・お願い、目を覚まして・・・」


光流の手を強く握ったまま、泣きそうな表情でそう光流に語り掛ける楓。


例え、今はその言葉が彼には届いていないとしても、彼女は語り掛けることを決して止めはしなかった。


「・・・皆、君を待ってるよ、光流くん・・・」


泥塗れの制服のスカートのポケットから取り出した、同じく泥にまみれて黒くなったハンカチの、まだ白く綺麗な部分で光流の額の汗を拭ってやりながら、楓はそう語り掛ける。


「・・・戻ってきて、光流くん・・・。皆には・・・ううん、私には、君が必要なんだよ・・・」


楓の口から発されたその言葉は、彼女の『思い』であり、『願い』だ。


「・・・まだだよ・・・まだ、逝っちゃ駄目なんだから・・・」


葉麗も内から光流を支える為消え、彼の傍には彼女以外誰もいなくなったーーー同じ場所であるのに、仲間達の激しい戦闘とは切り離された様な感覚さえ覚える様な、そんな空間で、屋上の冷たいコンクリートの床に座り、楓はただひたすら祈り続けた。


と、彼女の悲痛な思いに応える様に、制服の胸ポケットにしまっておいた吉乃のタロットカードが淡く光を放ち始める。


その光は・・・まるで、優しく人々を暖め、包み込む暖炉や蝋燭の灯りの様に柔らかな色と温度で、少しずつ大きくなると、楓と、倒れている光流を包み込んだ。


同時に、楓の隣に姿を現す吉乃。


吉乃は楓の隣にちょこんと腰を下ろすと、光流の手を握る楓のその手を優しく包み込み、楓に話し掛けた。


「ねぇ、お姉ちゃん?一緒に、お兄ちゃんを助けよう?きっとね、お兄ちゃんも、お姉ちゃんのところに帰ってきたいはずだよ。だから・・・一緒に、私達が、お兄ちゃんが帰ってくるための目印になってあげよう?誰よりも眩しい光になって。お兄ちゃんの帰り道を、照らしてあげよう?」


「・・・うん・・・うんっ!そうだね!そうしよう!私達が、光流くんの星になって、迷子の光流くんを照らしてあげよう!」


吉乃が楓を見上げながら告げた言葉に、涙を滲ませながら何度も頷いて見せる楓。


すると、彼女と吉乃の思いに応える様に、タロットから溢れた光が光流の胸に吸い込まれていく。


「・・・聞こえる?光流くん。私達は、絶対に君を一人で逝かせたりなんかしない・・・!ううん、もう、絶対に君を一人にはしないから・・・!だから、お願い・・・!光よ、届いて・・・!」


いつの間にか、楓の頬を伝う透明な美しい涙。


だが、光流に話し掛けるのに夢中な楓は、己が涙を流していることに全く気付いていない。


そうして、その瞳からぽろぽろとーーー幾つも水晶の様に透明な雫を溢れさせながら、楓は吉乃と互いに手を重ねたまま、はっきりと、力強く、胸に浮かんだ魔法の言葉を口にした。


「光流くんに届いて・・・!『東方に輝くステラ・マリスの星』ーーー!!!」

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