星天大戦31
だが、彼らが光流の制止等聞く筈もなく・・・まるで砂漠の乾いた砂に吸い込まれる水の様に、あっという間に光流の内に溶け込むと、見えなくなる四人。
それを確認するや、光流はがっくりと膝をつく。
「ああぁぁぁ~・・・破産の足音が聞こえて来るぅぅぅ~・・・」
僕は皆の命と引き換えに財布を悪魔に売り渡してしまったんだぁぁ、と頭を抱え、悶絶しながら光流がそんなことをのたまっているとーーー
「っ・・・??!!」
ドクンッと、急に光流の心臓が激しく脈打ち始める。
「な、んだ・・・く、るしっ・・・!!」
まるで心臓を鷲掴みにされ、そのまま握り潰され様としているかの様なーーーそんな激しい痛みを伴った感覚に、光流は思わず胸を押さえ、そのまま地面に倒れ込んだ。
(・・・これ、は・・・いきなり、四人も憑依させた、代償、なの、か・・・?まさか、僕の魂は・・・このまま、消えて、なくなるんじゃ・・・?)
急激な痛みと動悸で呼吸すら上手く出来ず、意識がどんどん霞がかっていくのを感じる光流。
(・・・やばい、な・・・。僕は、何も出来ないまま・・・誰も救えないまま、死ぬのか・・・?)
脳に満足な量の酸素が行き届かず、先程より朦朧としてきた思考の中、光流はぼんやりとそんなことを考える。
「光流くんっ?!」
すると、そんな光流の様子に気付いた楓が、まるで悲鳴の様な叫び声を上げながら、彼に駆け寄ってきた。
「やだっ?!嘘っ!しっかりして!」
彼女は、胸を押さえて激しく苦しむ光流を抱き起こすと、彼の意識を繋ぎ止めようとしているかの様に、彼の手を握ったり、軽く頬を叩いたりしながら、何度も必死に彼の名前を叫ぶ。と、ーーー
『大丈夫ですよ』
不意に、何処からか葉麗の声が聞こえて来ると同時、光流の体から、美しい金色の鱗粉の様なものが、キラキラと輝きを放ちながら立ち上り始める。
「何、これ・・・?光流くんから、何か出てる・・・?」
余りに美しく煌めく粒子ーーーそれが果たして何であるのか、今の楓には分からない。
けれど、仲間達と共に、今日一日で幾つもの死線を潜り抜け、その度に磨かれてきた直感が彼女に告げている。
これは、悪いものではない、と。
そうして、ふと気付くと、まるで魅入られたかの様に、楓は鱗粉に向かって、光流の手を握っていない方の手を伸ばしていた。
けれど、儚く彼女の手をすり抜ける、煌めく鱗粉。
それらはやがて、吸い寄せられる様に一ヶ所に集まり始めると、『何か』の形を成していく。
(・・・一体何が起きるの?これが、何か・・・光流くんを助けてくれる鍵になるのかな・・・?)
そう神に祈る様な気持ちで、光流の手を強く握り締めたまま、目の前で鮮やかに変化していく鱗粉をじっと見つめる楓。
すると、彼女の目の前で、鱗粉は少しずつ『人間』の様な形を成し始めた。
「えっ・・・?あれ、は・・・もしかして、人?でも、誰だろう・・・?」
目を凝らし、頭を捻る楓の目の前で、無数の鱗粉が集い、確かに『人』・・・『誰か』の姿を形成していく。
そして、遂に最後の鱗粉が、その『誰か』の髪の最後の一房を形作った瞬間ーーー其処には、まるで奇術の様に忽然と、美しい巫女装束をその身に纏った葉麗が姿を現していた。
「えぇっ?!葉麗ちゃん?!」
突然の彼女の出現に驚き、素っ頓狂な声を上げる楓。
だが、今楓の目の前にいる葉麗は、あくまで幻術か幽体の類で、彼女の本体は、恐らく今も光流の中で彼と共に在るのだろう。
何故なら、今楓の前で佇む葉麗の体は、それこそ幽霊の様に透き通り、なんと向こう側にある屋上のフェンスや仲間達の姿が透けて見えているのだ。
『中飾里さん』
真っ白な着物に、首から煌めく銅鏡を下げた葉麗は、ゆっくり楓に歩み寄ると、そっと彼女に語りかける。
『大丈夫ですよ。近藤くんは、消えたりしません。・・・いえ、私が、彼を、絶対に消滅させたりなんて、しませんから』
優しく、しかし力強くそう語る葉麗に、瞳に涙を滲ませた楓は、何度もうんうんと頷く。
そんな彼女に、葉麗は柔らかく微笑むが、直ぐにその表情を真剣なものに戻すと、楓やーーー光流を心配し、今まさに彼の元に駆け寄らんとしている仲間達をぐるりと見回すと、よく通る声で、彼らに告げる。
『皆さん。聞いてください。彼は・・・近藤くんは、この私の誇りに懸けても、必ず護ります。ですから、皆さんは彼のーーー私達の帰りを信じて、それまで、如何かあの悪神を食い止めていて欲しいのです』
私達は必ず『還って』来ますからーーーそう言い切った葉麗の瞳は、まるで冬の青空の様に何処までも凛と澄み渡っていて。
その瞳に、真っ直ぐな『希望』と強い『意志の光』を見た仲間達は、彼女の言葉に強く頷くと、それぞれの得物を手に、再生を遂げ始めている悪神に向かって駆け出した。
彼等の希望の光ーーー『切り札』である五人が必ず戻ってくると信じて。




