星天大戦26
女性ーーー浅井茶々は、その手に握り締めた『落雷の塔』のカードを、まるで陰陽道の呪符の如く頭上掲げると、鈴を転がす様な声で高らかに宣言する。
「聞け、この地を汚す悪神よ!この大アルカナ一の破壊者たる妾が来たからには、もうそなたらの好きにはさせぬぞ」
彼女がそう言い放つと同時、タロットから空へと天高く真っ直ぐに上っていく紫色に発光する稲妻。
勢いよく空へと駆け上がったそれは、空中で一度ドォンッという凄まじい音を響かせ爆発するや、直ぐに幾つもの紫電の筋となり、一気に再生途中であった黒衣の聖母に降り注ぐ。
「ギャアアアアアアア!!!!」
無数の紫色の雷光に焼き貫かれ、耳を塞ぎたくなる程恐ろしい絶叫を上げる漆黒の聖母。
だが、茶々は眦に濃い朱を刷いた流麗な眼差しで聖母を一瞥するや、直ぐにまたタロットに力を込め、再度、黒い聖母目掛けて幾筋もの紫色の雷光を降り注がせた。
迸る無数の雷光は、漆黒の聖母だけではなく、聖母が立つ周りのコンクリートの床すら打ち砕き、聖母の巨大な体を、砕けた床から真下に在る呪いの十三階段へと叩き落とす。
轟音と共に土煙を上げ、階段に叩き付けられる嘗ては悪神であった聖母。
それを見たミリアは、本来は愛くるしさ溢れる筈の丸い目を、今は三角に吊り上げ、茶々に抗議する。
「ちょっとちょっとちょっと~?!一体何しちゃってくれてる訳ぇ?!超有り得ないんだけどぉ?!人のおうちにあんなモン落っことしてくれちゃうなんて、あんた、死にたい訳ぇ?!」
今にも掴みかかりそうな勢いで、そう捲し立てるミリア。
けれど茶々は、そんなミリアの様子等何処吹く風といった様子で、極彩色の絵柄が美しい金色の扇子でぱたぱたと優雅に自身を扇ぎながら、ミリアを見遣り、告げた。
「ふぅむ・・・。全く、きゃんきゃんとよく吠える仔犬じゃのう。妾はそなたらに、彼奴の息の根を止める、再度にして最大の好機をくれてやったのじゃぞ?土下座をしろとは申さぬが、礼位は欲しいものじゃ」
茶々のその言葉に、額には青筋を浮かべ、ますます目を吊り上げるミリア。
まさに、一触即発。
そんな空気が茶々とミリアの間に流れる中、光流はひたすら、先程茶々が言った『息の根を止める最大の好機』という言葉の意味を考えていた。
(あの悪神をミリアの階段に落とすことの、一体何処に好機があるっていうんだ・・・?)
つい先程のミリアとの戦いを思い出しながら、光流はそう思考を巡らせる。
(確かアイツは、この階段のある空間を支配する女王で・・・出来事を無限に繰り返させる力を持っていて、僕達が永遠に、何度も首を吊って死ぬ所を見ようとしてたんだよな・・・)
思えば危険な奴を仲間にしてしまったものだーーーそこまで考え、光流ははたと気付いた。
(・・・そうだ、あいつは無限に繰り返させる力を持ってるんだよな・・・?まさか・・・?!)
光流は、ミリアの能力から『ある仮説』を思い付くと、それを確かめる為茶々に向き直る。
すると、茶々もそんな光流の考えに気付いた様で、彼の表情を見るや、まるで彼のその仮説を肯定する様に、美しい真っ赤な唇に明け方の三日月の様な笑みを浮かべてみせた。
彼女のその表情に、自身の仮説が正しかったと確信した光流は、未だ茶々を射殺さんばかりの瞳で睨み付けるミリアを宥めながら、彼女に向かって問い掛ける。
「ミリア?よく聞いてくれ。あんたの能力は『十三階段で起きた出来事を無限に繰り返させること』なんだよな?だったら、あの悪神がしようとしてる再生を、ずっと途中だけ繰り返させることは出来ないか?」
光流が告げた、全く思っても見なかったその提案に、思わず大きく瞳を見開くミリア。
しかし、直ぐに何時もの彼女らしい、不遜なーーーともすれば傲慢にすら見える笑みを浮かべると、不敵にこう言い放った。
「当たり前でしょ?あたしを誰だと思ってる訳?あたしはこの十三階段の女王にして、学校の怪談史上最低最悪の怪談よ?悪神如きの再生を繰り返せるなんて簡単過ぎてお茶の子さいさいだわぁ!」




