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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
120/148

星天大戦25

「なっ?!一体何が起きたんだ?!」


慌てて城が落ちてきた上空を見上げる光流達。


すると、其処には


「やれやれ、朧の最高対魔組織である逢魔宵も大したことないのぅ」


鮮やかな夕焼け色の着物を身に纏った、美しく豊満な女性がふわりと宙に浮かんでいた。


オフショルダーの着物から覗く白い肩がなんとも艶めかしいその女性は、よく見ると、魔女が箒に跨がって空を飛ぶ様に、熊手の様な物に跨がり、上空をふわふわと浮遊している。


その女性の姿を見た楓が


「・・・魔女・・・?」


つい、そうポツリと漏らしてしまうが、女性は却って懐から扇子を取り出し、それを広げて口許を隠すと、くすくすと涼やかな笑い声を上げ始める。


「魔女、か・・・。ふふ。まぁ、確かに、共に果てた家臣達や、徳川の者からすれば、妾も魔女・・・いや、とんでもない毒婦であったのやもしれぬな」


女性のその発言に、引っ掛かるものを感じた光流は、もしやと思い、上空に浮かぶ彼女に向かって声をかけた。


「さっきの燃えながら落ちていく城、それに今の・・・まるで、徳川家康の敵だったかの様な台詞・・・もしかして、貴女はーーー」


しかし、光流がそう彼女に問い掛けようとしたのと同時、空中の・・・女性が跨がる熊手の後方から、何やら声が聞こえて来る。


「おーい!楓ー!光流ー!」


光流や楓にとって、非常に馴染みがあり、聞き慣れたその声はーーー


「お兄ちゃん?!」


「ザト?!」


そう、楓の兄であり、光流達が暮らす青楓館の管理人代理兼中飾里家の家長代理でもある、達郎のものだった。


空より突然響いた達郎の声に、じっと目を凝らし、家族兼友人である彼が一体何処に居るのか探す光流と楓。


すると


「あ!いた!」


まさに、今達郎の声が聞こえて来たばかりの、女性が跨がる熊手の後方を指差し、楓が大きな声をあげた。


彼女の声と動きにつられ、光流だけではなく華恵や他の仲間達も空のーーー楓が指差す先をじっと見つめる。


そこには


「皆ー!助けに来たぜー!」


激しい夜風に煽られながらも、女性が跨がる熊手に必死に掴まる・・・まるで、風に流されている鯉のぼりの様になった達郎の姿があった。


「俺が来たからにはもう大丈夫だからなー!」


熊手に振り落とされそうになりながらも、必死にしがみつき、光流達に向けて、そう良い笑顔で言い放つ達郎。


だが、光流達からすれば今の達郎の状態の方が色々な意味で心配だ。


「分かったからちょっと降りて来ーい!」


光流は、空中で鯉のぼりの吹き流しの様に風に揺れる達郎に向かって必死に大きな声をかける。


「いや、俺だけ飛び降りられないから!お茶々様が降りてくれないと、俺、降りられないから!」


光流の呼び掛けに、そう答える達郎。


達郎が発した、その『お茶々様』という言葉に、光流は先程自身が抱いた、熊手に跨がる女性の正体に対する予想に確信を抱く。


そうして、光流は暫し思案する様に瞳を伏せた。


この緊急時に駆け付けてくれた以上、彼女はきっと敵ではないだろう。


それに、歴史上の偉人であることから考えるに、吉乃や直虎と同じくタロットから召喚された存在なのかもしれない。


ならば、先ずは助けてくれた礼を伝えるべきだろうし、これからの戦いに備えて彼女の能力について、もっと知る必要がある。


現に、脳天から城に潰された筈のあの黒い聖母は、既に醜く何度も体を歪め、動かしながら、再生を始めているのだから。


後は・・・まぁ確かに達郎の言う通り、あの高さから達郎だけ降りて来るのは到底無理な話なので、頼りなく風に揺れている達郎が地面に落下する前に光流達は降りて来て貰える様、熊手に跨がっている女性に声をかけた。


「すいませーん!貴女も一度降りて来て貰えませんかー?淀君様ー!」


光流のその呼び掛けに、女性は少々驚いた顔をすると、まるでバランスをとるかの様に巧みに熊手を動かしながら、光流達の目の前へと着地する。


「なんじゃ・・・。よもや、このくにと成り果てた世で妾を知る者がおるとはのう・・・。まさに、縁とは異なもの味なもの、じゃ」


光流の言葉に、そう告げるや、肩を揺らしてくすくすと笑い出す女性。


そして、彼女は金糸で五七桐の紋が刺繍された袖をひらりと揺らし、同じく桐紋が描かれた扇子を扇ぐ様に揺らしながら、告げる。


「如何にも、妾が豊臣家最期の女帝にして、滅亡を招いた最大の毒婦、浅井茶々じゃ」


光流達にそう語りかける彼女の深紅の口許には、蠱惑的で・・・しかし、何処か神秘的にも見える笑みが刻まれ、その扇子を握っていない方の手には、タロットの大アルカナの一枚である『落雷の塔』のカードが握られていた。

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