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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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星天大戦⑰

 「なっ・・・?!何っ?!あんた一体何なのよ?!あたしの力は無限の力・・・人だって物だって何だって自由に操れるのにっ!ーーー何であんたには効かないの?!」


床に腰をつけたまま人影を指差すと、甲高い声でそう喚き散らす少女。


すると、少女の目の前にハンマーを降り下ろしたまま、人影は涼しげに告げた。


「それは残念でしたね・・・。きっと、私の能力との相性が悪かったのでしょう。でも、もう分かりましたよね?私の能力の前では、身代わりを立てようとしても無駄だと」


そうして、顔の前面を覆っていた黒いヴェールをふわりと外す黒い人影。


露になったその顔はーーー


「・・・やっぱり、お前だったんだな。徳永」


そう、光流と楓の親友である華恵、その人であった。


光流は、先程まで制服を着ていた筈なのに、今は黒い修道服に身を包み、更に足下も黒革のロングブーツで固めている華恵の姿をまじまじと見つめながら、彼女に話し掛ける。


「・・・さっきの力・・・お前も、なったんだな?忌屍使者に」


その彼の言葉に、華恵は穏やかに微笑みながら、小さく頷いた。


「・・・はい・・・」


彼女のその表情に、『彼女には本当は【此方側】には来て欲しくなかった』ーーーそんな思いが言葉となり、光流の口を衝いて出そうになる。


だが、【此方側】に来ることを選んだのは彼女なのだ。


華恵は、朧で、皆で作戦を立てている時、『自分も大切な仲間を護る為の力が欲しい』と言った。


もし、自分の中に忌屍使者としての力があるのならば、自分も皆の為に戦いたい、と。


そして、彼女のその願いに、華恵の魂の片割れでもあるシャーロットが応えた。


そうーーーだから、これは彼女の、いや、彼女達の意志なのだ。


光流はそう思い直し、軽々とハンマーを肩に担ぐ華恵を少しだけ眩しそうに見つめながら、言葉をかけた。


「それにしても、凄まじい力だな?驚いたよ。ハンマーが壁をぶち破って出てきた時は、どんなマッチョな大男が出てくるのかと思った」


そう言って笑ってみせる光流に、華恵もおかしそうに目を細め


「ふふ、そんなにですか?でも、確かにシャーロットちゃんにはハンマーは止められたんですよね、『こんなのレディじゃなーい!』ってーーー」


と、告げたその瞬間、天井から無数のロープが現れ、ハブの如き速さで華恵と光流に襲い掛かる。


「さっきはよくも乙女に恥をかかせてくれたわねぇぇっ!!!死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇ!!!!」


狂気じみた少女の叫びと共に襲い掛かる縄、縄、縄。


(・・・躱しきれるか・・・?!)


光流が心の中でそう呟いた瞬間、目の前の華恵がすっと高くハンマーを掲げる。


引斥矢ユー・ドント・ダンプ・ミー・アゲインし」


そう彼女が呟くと同時、まるで巨大なトラックにでも撥ねられたかの様に大きく吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる無数の縄。


「・・・今のは、一体・・・?」


半ば呆気にとられ、無惨に壁にめり込んだ沢山の縄を見つめながら、そう呟く光流。


と、不意に誰も居なかった筈の隣から答えが返ってくる。


「これが、彼女の力ですよ。自分が狙ったものなら何でも絶対に弾く、或いは圧し潰すことが出来るんです」


「ぅぉっ?!びっくりした・・・脅かすなよ、結城」


彼女が答えた内容もさることながら、その予想外の場所からの返答に、思わず盛大に肩を跳ねさせ、飛び上がる光流。


葉麗は、そんな光流の反応に気を良くしたのか、よく見ると空中にふわりと浮かび、何もない空間に腰を掛けるという不思議な体勢で、華恵の能力について饒舌に語り始めた。


「忌屍使者の能力というのはですね?死者の生前の能力や、死因から産み出されることが多いんですよ。例えば、貴方の場合はコーさんが発火能力者パイロキネシストでしたから、発火の能力を使える様になった訳ですが、玲の場合は海に沈められての溺死兼凍死だったので、寒さと水、この両方に関係のある氷を操ることが出来る様になったんです」


(・・・海に沈められるって、何したんだ、あの人・・・)


葉麗の説明に、玲の死因の方が色々な意味で気になり出す光流。


けれど、それは全てが終わった後本人に聞いてみる事にして、今は、彼女の話に真剣に耳を傾ける。


「では、華恵さんの場合は、如何なのか。貴方もご存知だとは思いますが、彼女は、彼女のお祖母ばあさんの遺産を狙う輩に、大型の車でお祖母さんや愛犬共々執拗に追い掛けられ、追い詰められた末、大きく車で撥ね飛ばされた挙げ句、念入りに轢き倒され、一度命を落としましたね?」


「・・・確かに事実だが、改めて聞いてみると、エグいな」


葉麗はさらりと言ってのけたが、それらの言葉一つ一つの持つ意味や重みに、光流はつい、華恵達の最期の光景を頭に鮮明に思い描いてしまい、その凄惨さと強い悪意に吐き気すら感じそうになる。


しかし、葉麗は、顔色一つ変えることなく


「何を今更。分かりきったことでしょうが、この世で一番恐ろしいのは生きた人間の『悪意』なのですよ?どんなに恐れられたところで、我々妖怪や霊なんて存在は、所詮、強い力の霊媒師が祓えばたちどころに爪の一枚、髪の一本すら残さず霧散してしまう様なか弱い存在なのですからね」


と、しれっと告げた。


そして、その飄々とした態度を崩さぬまま、彼女は話を再開させる。


「ああ、話が逸れてしまいましたね。つまり、華恵さんは、車に撥ね飛ばされことから『斥力』の力を。また、かなり重い車に圧し潰されたことからは『圧力』の力を、操れる様になったという訳です。まぁ、簡単に言うと、重力を自由に操れる様なものですよ」


そう、葉麗が話を締め括ったのと同時、階段の主を名乗っていた少女の華奢な体がまるで紙切れの様に吹き飛ばされ、光流達の直ぐ真横の壁に激突する。


壁に深くめり込み、ぐったりと動かなくなる少女。


そんな彼女を見遣り、葉麗は小さく呟いた。


「如何やら、彼方も終わった様ですね。・・・貴方のお友達も、初陣にしては中々やるじゃないですか」


葉麗のその言葉に、ついと目線を前方に動かす光流。


其処には、激しく土煙の上がる中、全力でハンマーを降り下ろしたばかりらしく、肩で息をしながらも階段にしっかりと立つ華恵の姿があった。


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