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滝夜叉姫と真緋(あけ)の怪談草紙  作者: 名無し
第一章 真緋の怪談草紙の段
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星天大戦⑪

 「あたしは(かのう)八朔(やつさき)(かのう)って言うんだ!あんたは何て名前なんだい?」


「・・・こ、近藤光流と申しますぅぅぅ」


口裂け女とおぼしき女性が、至って明るく、溌剌と名乗ったのに対し、精神的な恐怖が限界値まで達してしまった為か名乗る声が震え、妙なビブラートがかかっている光流。


しかも、よく見ると拳を握った手まで小さく震えているではないか。


それに気付いた叶は、ほんの一瞬少しだけ困った様なーーーそれでいて何処か寂しげな苦笑を漏らすが、直ぐににかっと弾ける様な笑顔を浮かべると、光流の肩を威勢よくぽんぽんと叩きながら話し掛ける。


「大丈夫だって!!あたしも、あたしの仲間であるこいつらも、絶対にあんたの友達に危害を加えたりしない。約束するよ。だから安心しな、光流」


満開の向日葵の如き明るさで叶が告げたその時


「きゃっ?!な、何っ?!」


ぐらり、とまるで其処だけ局地的に激しい地震に見舞われたかの様に光流達の足下の廊下が揺れる。


そして、次の瞬間


「わわっ?!天井が下がって来たよ~?!」


文車が泣きそうな声で叫ぶ通り、少しずつーーーけれど、確実に下がり始める闇で作られた四角い天井。


彼女の声に、その場に居た皆が一斉に上を向き、降下する天井に注目する。


「ほ、本当だ!」


かなりゆっくりとではあるが、しかし確実に自分達に迫っているその姿に、じりじりと焦りを募らせていく光流達。


もし、このまま此処から出られなかったらーーー。


そんな不安が一同の間に伝播する。


すると、そんな空気に耐えかねたのか、或いは、じわじわと真綿で首を絞める様に迫り来る生命いのちの危険に恐れを為したのか、両の瞳に溢れんばかりの涙を溜めながら、おかっぱの少女が悲鳴じみた声を上げた。


「如何しよう?!このままじゃ皆ぺちゃんこになっちゃう!」


そう叫ぶや否や、膝をつき、号泣し始める少女。


人体模型や、少女の周りに居る妖怪の仲間達もとても不安そうな瞳をしている。


それはそうだろう。


このまま、この閉ざされた漆黒の空間から脱出出来なければ、最期には、あの徐々に下がりつつある天井に惨たらしく圧殺されてしまうのだ。


そんな最悪な未来を脳裏に思い浮かべ、少女に続き幼い妖怪達が次々泣き出し始める。


闇に閉ざされた空間に響く、無数の幼い嗚咽の声。


しかし、彼らや光流達の間に広まり始めた不安や恐怖を打ち払うかの様に、凛とした声で天海が告げる。


「そんな事には絶対になりませんし、させません!!」


同時に、彼の錫杖から溢れ出す激流。


激流はやがて天海の意志により形を変え、複数の太い水柱となると、これ以上天井が下がらぬ様、まるで家屋の支柱の様に天井と床の間に入り、下がり来る天井を押さえ始める。


それを見ていた光流は、強く拳を握り締めた。


とは言え、彼が特段何かを決意した訳ではない、いや、寧ろ光流は深く後悔していたのだ。


(・・・僕の所為だ。僕が、もっと早く叶さんと共闘する事を決断していたら・・・。そうしたら、もっと早く脱出出来て、こんな事にはならなかったのかもしれないのに・・・)


そう、自身の決断力の無さに激しく憤る光流。


けれどーーーだからこそ、光流は滲んでいた悔し涙を洋服の袖で乱暴にぐいっと拭うと、出せる限りの大声で叫んだ。


「叶さん!!!此処から皆で生きて脱出する!!如何か僕に力を貸してくれ!!!」


彼の、その心の叫びともとれる大声に、叶はにっと不敵な笑みを浮かべると


「良いともさ!!!親友!!!」


と返す。


瞬間、叶の首にもコーデリアや阿頼耶の首にあったものと同じ首輪の様なものがカチリと嵌まったかと思うと、その姿がまるで星屑の様に小さく煌めく欠片になり、光流の体の中に吸い込まれていく。


「叶お姉ちゃん?!」


その光景に心配そうな声を出す幼い妖怪達。


しかし


『だーいじょうぶだって!泣くんじゃないよ!お前達は泣く子も黙る、学校の怪談だろ?』


光流の内側なかから、そう、叶の声が響いてくるではないか。


それに気付き、はっと泣き止む妖怪達。


すると、そんな彼らの目の前で、光流の体が光に包まれ、変化していく。


特徴的であった彼の明るい髪色は、今や叶と同じ艶のある濡れ羽色に染まり、その瞳も髪と同じく深い深い宵闇の色へと変わっている。


その、まるで正反対とまで思える・・・今までの光流とは全く異なる容姿の変化に、命の危険も忘れ、思わずぽかんと口を開けたままじっと彼を見つめる楓。


だが、彼女の視線を奪ったのは彼の容姿の変化だけではなかった。


彼がその身に纏うのは、まるで、満開を迎えた紅い薔薇だけを刈り取って染めたかの様な、目にも鮮やかな韓紅のロングコート。


その裾をひらりと靡かせ、光流は高く跳躍する。


彼が目指すのは、仲間達を押し潰そうと迫る漆黒の天井とその壁の繋ぎ目だ。


けれど、闇の壁も大人しく切り裂かれてくれる気等毛頭ない様で、先程より格段に速度を上げ天井を降下させてくる。


少しずつ押し潰されていく天海の水柱。


その様子に光流は小さく舌打ちをすると、己の内に居る新しい相棒に向かって大きく叫んだ。


「時間がない・・・此所で決めるぞ、叶さん!!」


『ああ!任せな!!都市伝説最強とまで呼ばれたあたしの力、存分に使うが良いさ!!』


叶がそう答えるが早いか、光流のその手の内に、彼の身の丈程もあろうかという金色に輝く巨大な鋏が現れた。


それを振りかぶり、力の限り叫ぶ光流。


そこに重なる、叶の力強い叫び声。


二人の声が一つとなり、闇に支配され、閉ざされた空間をまるで抉じ開ける様に辺りに強く響き渡る。


「行く手を阻む者全てを切り裂け!!!!『首喪スリーピー・いの草臥ホロウれ儲け』!!!」


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