処分
流血描写、残酷な描写が入ります。苦手な方は御注意ください。
ポカルさんの工房で幸いにも血の付いた鱗をゴミ箱から見つけ、ウィリアムさんの魔道具にセットして辿り着いた路地裏で、私はポカルさんを見つける事ができました。
まさか御自分で脱出なさっていらしたとは。逃げるのは得意だと聞いていましたが、本当だったようですね。
影猫をつけて、長鉢荘へ送り出せば、もう大丈夫。
あとは追っ手を始末するだけです。
迫り来る、灰色の布で口元を覆った男達。
通りすがりのメイドになど目もくれず、まっすぐにポカルさんを追いかけようとした先頭に……すれ違いざま左手を振ります。
肉は柔らかく、骨を断つ軽い手応え。
まっすぐ走るだけのヒトなど、進行方向に置いておけば勝手に輪切りになってくれるのです。
ばらりと崩れ落ちるバラバラになった人体。
溢れる血潮は黒い染みのついた石畳をさらにドス黒く染め上げます。角度を調整しておけば、お仕着せに飛沫はかかりません。
ああ、ポカルさんが人気の無い路地を走ってくださっていてよかった。
ここはフリシェンラスでも一際治安の悪い裏通り。悪行に馴染みの無い方は絶対に一人で立ち入ってはいけない、掃き溜めのような場所。
明るく治安の良いこの街では生き辛い心根の者達が、身を寄せ合って潰し合いや悪巧みを行っている区画。
そんなに生き辛いのなら他所の街へ行けば良いものを、ここしか無いと思い込み、こここそ実入りが良いと錯覚し、手玉に取るつもりで悪心を持った貴族に飼われている。
……そんな者達が、先頭の者の死に驚いて私を取り囲みました。
「女ぁ……いま何をした!?」
悠長に問うている暇があるとでも?
私の一手、何一つ見えていなかったでしょうに。
魔力を展開。
術式は黒の手袋に覆われた指先にて……律は、強いて言葉にするのなら──“綾取る”
チトセ様……貴女とお会いしたあの日。“起”でも“収束”でもない珍しい律から始まる魔法で糸を紡いだ貴女を、私は運命だと思いました。
私の得物は糸。
服に仕込み、黒い革手袋の魔道具を補助にして、“起”でも“収束”でもない律から始まる魔法で操り敵を切断する、糸使い。
細い細い糸を高速で動かせば、人の目に視認は困難です。
囲む男は5人。
5本の糸を、喉に突き通して、ぐるりと回してしまえば……ほら、全員の首が、半分残して裂けておしまい。
私の周りに、円を描くように、吹き出し、倒れる、五つの亡骸。
「……影猫」
スカートの下の影から、全部残さず食べさせてしまえば、もうここには何も残りません。
しんと静まる路地。
……不思議ですね。ここは女一人、よってたかって囲んでも見咎められない場所。
だからこそ、彼らは私を囲んで手数と暴力に訴えようとした。
だからこそ、その女が、見咎められる心配なく反撃にうつると思わないのでしょうか?
……まぁ、どうでもいいことです。
食事を終えた影猫から、ペッと吐き出される走り書きの紙切れ。
──人攫いの指示書
……こんな物、燃やさず持ち歩く時点でたかが知れるというものです。
それとも、報酬の目録まで書かれていますから、引換証や契約書を兼ねているのでしょうか? だとしたら、雇い主の方もたかが知れます。
あとは簡単。
雇い主のネルヴ男爵、その人の屋敷へ赴いて。
窓の隙間から糸を入れ、声を上げさせる暇もなく、そっと首を刎ねるだけ。
男爵の死体はそのまま置いておきます。身分のある方が行方不明扱いになると、色々と面倒が多いので。
しかし、掃除と呼ぶには簡単な、落穂拾いのような仕事でございました。
……一仕事終えた満足感と清々しさを背に、長鉢荘へ帰還します。
以前は虚しさしか感じなかった暗殺者稼業も、チトセ様の御命令とあらば、達成感に心が満たされるものなのですね。
やはり、私の天職はメイドなのです。




