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ティラ2

 宿営地で荷をおろしたレナートはすぐさま兵の様子を見に行った。ひと足先に現地入りしていたマイトがそれを出迎える。


「練兵はどうだ?」

「まぁまぁですよ。今回、ちょっと新入りもいるのでそのあたりが気になるとこではありますが」


 マイトの視線の先にいる一団はたしかに動きが揃っておらずぎこちない。

「他の部隊からきた者たちですね」

「なるほどな」


 王子や有力貴族はみな自分の軍を持っている。今回のような大きな戦となると、軍は再編成され、いつもと異なる指揮系統に組みこまれることもよくある。ちょうど今の彼らのように。


「他軍に混ざるのには慣れていないのかも知れないな」

「でしょうね」


 理屈は通っている。しかし、レナートは嫌な胸騒ぎを覚えた。


「ちょっと見てくる」


 短く言い捨てて、レナートは歩き出した。マイトが慌てて後を追ってくる。


「レナート様自ら指示するような重要部隊じゃないですけど~」


 ぎこちない様子の一団を近くで見て、レナートの違和感はますます強まる。


「マイト。ちょっと彼らと同じ動きをしてみてくれ」


 マイトは言われた通りにレナートの前で動いてみせる。そして、「あっ」と声をあげた。彼も気がついたらしい。


「見にきてよかった。俺はすぐに戻るから後は任せた」

「え~っと、彼らはどうしますか?」


 マイトは顎で彼らのほうを示す。


「歓迎のディナーでもふるまってやれ」


 最後まで言わずともわかるだろう。そんな表情でレナートはマイトに背を向けた。


「は~い、了解」


  ずいぶんと早く宿営地に戻ってきたレナートにオディーリアは声をかける。


「早かったですね」

「早急に対処しなくてはならない件ができた」


 どんな件なのか気になったが、急いでいるという彼の時間を奪うわけにはいかない。オディーリアはなにも聞かないでおいた。すると、レナートはにやりとなんだか楽しそうに笑ってみせた。急ぎの件は、悪い内容ではないのかもしれない。


「お前の元婚約者……あいつは面白いな」

「え?」

「戦には出てくるくせに、なにも見ていないんだな」


 レナートの言いたいことはよくわからなかった。というより、イリムが前線に出てきているという情報でオディーリアの頭はいっぱいになった。


「イリムが来ているのですか? ここに?」


 身を乗り出すようにしてレナートに詰め寄った。レナートはオディーリアのその様子に目をぱちぱちとさせて驚いている。

 「来ているようだが……お前がなぜ、そんなにあいつを気にかける?」

「えっと、気にかけているわけでは」


 オディーリアはレナートから目を背けた。白い声を取り返すために彼に会いたいのだと正直に話してみようかと思いもしたが、やっぱりやめた。レナートが是と言うはずがない。


「あいつが心配か?」


 レナートはオディーリアの顎をぐいつかむと、自分のほうへ向かせた。射貫くようなまっすぐな眼差しが痛いほどだ。オディーリアは口ごもった。心配などという殊勝な気持ちはまったくないが、いま彼に死なれては非常に困る。生きて喋れる状態の彼に会いたいのだ。解毒方法を教えてもらうために。


「心まで縛る気はないが……あの男を思うお前を見ていたくはない」


 なにかを誤解してしまったらしいレナートはふいとオディーリアに背を向けて天幕を出ていく。


「あ……違うのに……」


 追いかけるべきか迷ったが、『全然気にしていない』と言えばそれは嘘になる。レナートに嘘をつくのも嫌で、オディーリアは結局彼を追わなかった。


(白い声を取り戻したら、正直に話して怒られよう)



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