白い声1
「薬師?」
「うん。医師でもいいんだけど、薬に詳しい人の話を聞きたいの」
まずは専門家には相談しようとオディーリアは思い立った。だが、ナルエフの医師に知り合いはいない。結局、困ったときのクロエとマイト頼りでオディーリアはふたりに相談してみた。
「僕は軍人だから、軍医なら何人か知ってるよ」
「私もこう見えて、名門の家柄だから主治医くらいはいるわよ」
「本当?ぜひ、紹介して」
オディーリアが言うとマイトが首をひねった。
「でもさ、僕らよりレナート様のほうがいい医師を知ってると思うよ。なんてったって王子様だし」
「たしかに。王宮医師より知識のある医師はいないと思うけど」
「レナートには内緒にしてほしいの!」
オディーリアは懇願した。彼に正直に話してもきっと取り合ってくれないだろう。白い声などなくても構わないと言われてしまうのが容易に想像できる。
「レナートにね、歌を聞かせてあげたいの。だから声を取り戻したいの」
真実を少し混ぜた嘘の理由をふたりには伝えた。クロエとマイトはオディーリアが毒により声を潰されてしまったことは知っているが、白い声の治癒能力のことは知らない。知っているのはレナートだけだ。ロンバルと違い、この国では魔力は未知のものだ。奇異の目で見られるかも知れないから人には話すなとレナートに言われていた。
「そうなのね~。乙女心ね! もちろん私は恋するオデちゃんの味方よ」
「かわいい顔に渋い声ってのも、オデちゃんの魅力だと思うけど……でも歌が好きなら歌えないのはつらいよね」
結局、ふたりは知り合いのなかでもっとも薬に詳しい人間に会わせてくれると約束してくれた。
「ありがとう!」
そして約束の日。ふたりは上級貴族の主治医を長年務めてきたという老爺のところへオディーリアを連れてきてくれた。彼はクロエの先生でもあるそうだ。
「クロエお嬢様。お久しぶりですな」
「うん。私ってば健康だけが取り柄だから、なかなか先生に会う機会がないのよね」,
「そうですなぁ。小さい頃からクロエお嬢様は元気いっぱいで。ハッシュ坊ちゃんはお腹が弱くてよく泣いてたものですが……」
「マジ? あのハッシュがお腹が痛くて泣いてたなんて、かわいい時代もあったんだねぇ」
クロエやハッシュの昔話にはオディーリアも興味があるが、今はそれどころではない。オディーリアは三人の話に割って入った。
「あの、デューモ先生!」
「なにかな、美しいお嬢さん」
「教えて欲しいことがあるんです」
オディーリアはイリムに飲まされた毒のことを、できるだけ詳細にデューモに伝えた。
「声を奪う毒、ですか」
「はい。青っぽい液体で、舌が痺れるような強烈な刺激がありました」
「でも、お嬢さんの声は完全には消えていない。不完全な毒だったのかな?」
「いえ。これは、途中で吐き出したおかげだと思います。そのままだったなら、きっと声を失っていたはず」
本当は吐き出したのではなく、治癒能力を自分に使ってダメージを軽減したのだが、そこは省略しておく。
「う~ん。私は長年この世界に身を置いているが、ナルエフでは聞いたことがないな」
「そう、ですか」
オディーリアはがくりと肩を落とした。デューモは申し訳なさそうにつけ足した。
「そういった類の毒は医学ではなく魔力の分野だろう。あいにく、ナルエフでは魔力の研究は進んでいないんだ。魔力活用のさかんな国で聞いたほうが手がかりがつかめるかもしれないな」
「魔力……」
(そうか。たしかに、あの毒には魔力がかけられていたのかもしれない)
白い声は治癒の魔力だが、ロンバルにはまったく逆の魔力を使うものもいた。イリムはそういう者を使って、あの毒を作らせたのだろう。
「もし魔力なら……」
デューモの言葉の続きをオディーリアが引き取った。
「かけた人間なら無力化できる」
「と思うがね。魔力でない毒でも、作るときは解毒薬も一緒に作るのが普通だからな」
「そうよね。かけた人間……イリムか」




