表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/42

約束の夜

 レナートはオディーリアの口を自らの唇で塞ぐ。

 柔らかな舌がオディーリアの口内を蹂躙していく。甘く、激しく、レナートは攻撃の手をゆるめることはなかった。


「はっ、待って。でも……」


 それでもオディーリアは必死に彼に抗った。彼女の粘り勝ちだ。レナートは手を止め、オディーリアの身体を抱き起した。露骨に不機嫌そうな顔で彼は言う。


「用件は手短に済ませろ。そう長くは待てない」

「は、はい。その……えっと……」


 はいと言ったくせに、その後の言葉は一向に出てこない。レナートは小さく息を吐くと、やや乱暴にもう一度彼女の身体を押し倒した。


「後でちゃんと聞くから。今は俺に集中してろ」


 彼の大きな手がオディーリアの太腿を撫でた。脇腹から胸元へと、手は少しずつ上へと向かってくる。


「が、がっかりするかも知れないです!」


 甘い喘ぎを期待していたところに飛び込んできた意外な言葉に、レナートはぴたりと動きを止めた。


「がっかり? 誰がだ?」

「もちろんレナートがです!私、マイトとクロエに教えてもらって……頑張って練習してみたんですが、ちっとも上手にできなくて」

「マイトに教えてもらって、練習?……なにをだ?」

「その……こういうときのテクニックを」


 レナートの表情がみるみる変わっていく。明らかに怒っている彼を見て、オディーリアはしゅんと小さくなった。


(やっぱり下手な女は嫌なんだ……)


「マイトになにを教えられたんだ? 言ってみろ」

「それは……にっこり笑って」


 オディーリアはややひきつり気味の笑顔をレナートに見せる。


「だ、大好きです……」


 消え入りそうな声で言って、がくりと肩を落とす。


「ごめんなさい。全然上達しなかったです。マイトみたいには到底できな……」


 最後まで言わせてもらえず、レナートにキスで口を塞がれる。かみつくような激しいキスに

オディーリアは息もできない。角度を変えて何度も何度も、レナートは執拗にオディーリアの唇を求めた。


「ん~」


 オディーリアはレナートの胸を叩いて苦しいと訴えた。それでも、彼はなかなか離してはくれなかった。すべてを奪うようなレナートの熱いキスにオディーリアの頬は上気し、ようやく解放された唇から銀糸がこぼれ落ちた。それを舐めとるレナートの表情に、オディーリアの身体はぶるりと震えた。


「今のは罰だ。そういう相談を他の人間にするな」

「だって、私の友達はクロエとマイトくらいしか」


会話をしながらも、レナートはオディーリアの身体を甘く攻め立てる。


「俺にすればいい。教えてやるし、練習にもいくらでも付き合ってやる」

「あふっ。そ、そんなの……本人にしたら、意味がないじゃないですか」


 甘い喘ぎ混じりに、オディーリアはそう訴えた。レナートに喜んで欲しいのだ。彼を失望させたくない。その一心で、恥をしのんでクロエたちに相談したのだ。

 だが、レナートにその思いは通じていない。彼はまだむすりとした顔でオディーリアを見据えている。


「そもそもお前の悩みは無用な心配だ。俺がお前にがっかりすることなど未来永劫絶対にない」


 レナートはオディーリアの髪をさらりと撫でながら、甘い笑みを浮かべた。


「お前はいい加減、もっと自信を持て。この俺が、お前を失ったら死ぬだなんて情けない告白をしたんだ。オディーリアにはそれだけの価値がある」

「そう……でしょうか」

「相談相手に俺を選ばなかったことは腹立たしいが、マイトのアドバイスは悪くない。さっきのをもう一度聞かせてくれ」

「さっきの?」

「俺を悦ばすテクニックだ。俺のために覚えたのだろう?」


 オディーリアはこれ以上ないほどに赤く染まった顔で、彼の首筋に腕を回した。彼の頭を胸に抱くような体勢で耳元にそっとささやいた。


「レナートが大好き」

「俺を骨抜きにする最高のテクニックを身につけたな」


 レナートはそう言って破顔すると、彼女の額に口づけた。


「血のつながりとは恐ろしいな。今の俺はきっと母と同じ顔をしている。お前に溺れて、狂い死にそうだ」


 ささやくように言う。彼と深いところでひとつになれたことをオディーリアは実感する。

 この幸せな時間がもし夢ならば、永遠に覚めなくてもいい。オディーリアはそう願いながら、ぎゅっときつく目をつむった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ