約束の夜
レナートはオディーリアの口を自らの唇で塞ぐ。
柔らかな舌がオディーリアの口内を蹂躙していく。甘く、激しく、レナートは攻撃の手をゆるめることはなかった。
「はっ、待って。でも……」
それでもオディーリアは必死に彼に抗った。彼女の粘り勝ちだ。レナートは手を止め、オディーリアの身体を抱き起した。露骨に不機嫌そうな顔で彼は言う。
「用件は手短に済ませろ。そう長くは待てない」
「は、はい。その……えっと……」
はいと言ったくせに、その後の言葉は一向に出てこない。レナートは小さく息を吐くと、やや乱暴にもう一度彼女の身体を押し倒した。
「後でちゃんと聞くから。今は俺に集中してろ」
彼の大きな手がオディーリアの太腿を撫でた。脇腹から胸元へと、手は少しずつ上へと向かってくる。
「が、がっかりするかも知れないです!」
甘い喘ぎを期待していたところに飛び込んできた意外な言葉に、レナートはぴたりと動きを止めた。
「がっかり? 誰がだ?」
「もちろんレナートがです!私、マイトとクロエに教えてもらって……頑張って練習してみたんですが、ちっとも上手にできなくて」
「マイトに教えてもらって、練習?……なにをだ?」
「その……こういうときのテクニックを」
レナートの表情がみるみる変わっていく。明らかに怒っている彼を見て、オディーリアはしゅんと小さくなった。
(やっぱり下手な女は嫌なんだ……)
「マイトになにを教えられたんだ? 言ってみろ」
「それは……にっこり笑って」
オディーリアはややひきつり気味の笑顔をレナートに見せる。
「だ、大好きです……」
消え入りそうな声で言って、がくりと肩を落とす。
「ごめんなさい。全然上達しなかったです。マイトみたいには到底できな……」
最後まで言わせてもらえず、レナートにキスで口を塞がれる。かみつくような激しいキスに
オディーリアは息もできない。角度を変えて何度も何度も、レナートは執拗にオディーリアの唇を求めた。
「ん~」
オディーリアはレナートの胸を叩いて苦しいと訴えた。それでも、彼はなかなか離してはくれなかった。すべてを奪うようなレナートの熱いキスにオディーリアの頬は上気し、ようやく解放された唇から銀糸がこぼれ落ちた。それを舐めとるレナートの表情に、オディーリアの身体はぶるりと震えた。
「今のは罰だ。そういう相談を他の人間にするな」
「だって、私の友達はクロエとマイトくらいしか」
会話をしながらも、レナートはオディーリアの身体を甘く攻め立てる。
「俺にすればいい。教えてやるし、練習にもいくらでも付き合ってやる」
「あふっ。そ、そんなの……本人にしたら、意味がないじゃないですか」
甘い喘ぎ混じりに、オディーリアはそう訴えた。レナートに喜んで欲しいのだ。彼を失望させたくない。その一心で、恥をしのんでクロエたちに相談したのだ。
だが、レナートにその思いは通じていない。彼はまだむすりとした顔でオディーリアを見据えている。
「そもそもお前の悩みは無用な心配だ。俺がお前にがっかりすることなど未来永劫絶対にない」
レナートはオディーリアの髪をさらりと撫でながら、甘い笑みを浮かべた。
「お前はいい加減、もっと自信を持て。この俺が、お前を失ったら死ぬだなんて情けない告白をしたんだ。オディーリアにはそれだけの価値がある」
「そう……でしょうか」
「相談相手に俺を選ばなかったことは腹立たしいが、マイトのアドバイスは悪くない。さっきのをもう一度聞かせてくれ」
「さっきの?」
「俺を悦ばすテクニックだ。俺のために覚えたのだろう?」
オディーリアはこれ以上ないほどに赤く染まった顔で、彼の首筋に腕を回した。彼の頭を胸に抱くような体勢で耳元にそっとささやいた。
「レナートが大好き」
「俺を骨抜きにする最高のテクニックを身につけたな」
レナートはそう言って破顔すると、彼女の額に口づけた。
「血のつながりとは恐ろしいな。今の俺はきっと母と同じ顔をしている。お前に溺れて、狂い死にそうだ」
ささやくように言う。彼と深いところでひとつになれたことをオディーリアは実感する。
この幸せな時間がもし夢ならば、永遠に覚めなくてもいい。オディーリアはそう願いながら、ぎゅっときつく目をつむった。




