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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第七章:終末の旅人編
85/106

六話

ちょっ!


ガチじゃないですか!


ガチで首を絞めてるじゃないですかぁぁぁぁぁぁ!


やらせん! やらせんよぉぉぉぉぉぉ!


ふん! はっ!


俺は、練り込んだ魔力を首に流し込む。


魔王ミリアルダは、確かに普通の人間よりは腕力があるようだが、俺には無駄だ!


だって、今まで俺の首を絞める奴は大体、首の骨が折れるくらい力があったからね!


舐めんなよ!


気道確保ぉぉぉぉぉ!!


鼓動を上昇させて……血圧アァァァァァップ!


血流も確保!


誰が死ぬか!


「う……ううう……憎い」


はぁ!?


俺は何時の間に死亡フラグを!?


てか、嫌われてたの!?


ええ~!?


『よく見ろ』


うん?


ポタリと、俺の口内に魔王の涙が落ちてきた。


鉄の味!?


あれ?


「人間……人間が憎い……うう……」


これは……。


魔王の目からは、血の涙……。


その瞳は虚ろで、正気とは思えなかった。


分かった事は……。


【凄まじい憎悪ですね】


ああ、人間を怨んでいるのか?


でも、どういう事だ?


なんだこの感情は?


好意なのか!?


魔王から流れ出す、むき出しの魔力が俺に感情を伝えてくる。


愛憎? いや……。


『可愛さ余って憎さ百倍……と、言ったところか?』


「苦しい……苦しいよぉ……あああ」


俺にはその齢二千を超える魔王が、助けを求める小さな女の子に見えた。


なんだ? このバランスの悪い魔力は?


感じ取れる魔力の大きさに対して、潜在的な魔力が少なすぎる。


元は、只の亜人種だったのだろうか?


普通の人間より少し強い程度の魔力が、無理やり肥大しているような……。


魔力の総量自体は、間違いなくSランク。


それでも、彼女自身の内在魔力はBランクにも満たない。


どうなってるんだ!?


コアがぶれて正確に捉えられない。


防壁?


結界を常に纏っているのか?


「憎い……愛おしい……うう……苦しい……」


駄目だ、完全に正気じゃない。


【夢遊病のような状態でしょうか?】


それっぽいよな……。


「う……うう……助けて」


なっ!


助けて……か。


ジジィ! 若造!


やるぞ!


【分かりました!】


『まったく、お前は……。仕方ない! 行くぞ!』


****


ミリアルダの頭へ伸ばした、俺の手から放たれる白い光が、大きくなる。


くっ!


【攻勢防壁? 情報に精神を歪める魔力がこもっています!】


潜りこめん!


どうすればいいんだよ!?


【私と賢者様は剣になっているので、精神崩壊はおこりません! この魔力は私達で受け流します!】


『長くはもたんぞ! 早く潜れ!』


頼んだ!


穏やかな里……風の谷……。


有角族が暮らしている……。


あれは? 小さいがミリアルダか?


一緒にいるのは……人間の男? ガキだな。


はっ? 殺された? 大人の人間達に、谷の者が皆殺しに?


庇ったガキごと?


人間が大好きで、死ぬほど憎いか……。


亜人種のガキが一人で……。


残飯を漁ってるな……野良猫みたいに……。


ああ、やっと仲間が……。


うん? もしかしてこいつらが、四天王か!?


いったいこれは何なんだ!?


えっ? 死の谷?


なんだ? 封印されている……。


『限界じゃ!』


【早く! 貴方の精神が壊れてしまいます!】


くそっ!


俺は急いで、ミリアルダの精神へ潜っていた、自身の精神を体に戻した。


そして、ミリアルダの記憶を奥に押し込み、少しだけ狂ってしまいそうな憎悪を和らげた。


****


ふ~……。


ヤベェ……。


『魔力が、半分以上無くなってしまったぞ』


【想像以上ですね】


目の前の魔王さんは、ビックリするくらいの苦労人だったよ。


【そうですか……】


魔王って普通もっとこう……。


世界を話が手にぃぃぃぃぃぃ! とかって、感じじゃないの?


なんで苦労してたり、いい人だったりするの?


『魔王という呼称は、人間が一方的につけたものが多い』


ふん……。


人間の都合が悪い奴イコール、魔王ってか?


『まあ、この世、自分の思う通りに生きられる者など、そうはおらんじゃろう』


【年を重ねれば、考えが固まってしまいます。その上で、自分が正しいと信じ込み、人にその考えを押し付けてしまうのでしょうね】


人間に絶望しそうだよ。


その上、また面倒な事に……。


あ~あ。


やってらんね~……。


『お前は馬鹿じゃが、人に考えを押し付けんだけましかも知れんな』


誰が馬鹿だ!


おっと……。


ミリアルダの瞳に光が戻ってきた。


少し、混乱してるな。


「あの……これは……」


「大丈夫ですよ~、魔王様。何の問題もありませ~ん」


「お前は……」


えっ?


何で泣くの!?


血の涙じゃないけども!


ちょ! この光景は誤解される!


絶対誤解される!


いや……俺が上じゃないからいいのか?


いやいやいや!


それでも、なんかヤバいって!


「すまぬ……すま……うう」


俺の腹の上に座る二千歳のお嬢ちゃんは、声を殺して涙を流す。


あ~あ、美人が台無しだよ。


何をそんなに抱え込んでるんだか。


「これは……夢じゃ……うう……忘れて……」


魔王ってのは、苦しくても人にそれを言っちゃいけなのか?


泣くところなんて、見せちゃいけないとでも?


辛いんだろう?


って! おいぃぃぃぃぃ!


待てよぉぉぉぉぉ!


またかよぉぉぉぉぉぉ!


どうなってるんだ!? 俺の体は!?


プレイヤーか!?


俺を操作するプレイヤーがいるのか!?


ちょ! 止めなさいよぉぉって!


俺は……。


ええ! 上体を起こして、魔王の頭を抱きしめましたけど、何か?


何してんのぉぉぉぉぉぉ!


相手は魔王だよ!?


それも二千年以上生きてる……美人のおねいさん……。


あああああ!


いい香りがする。


ソフトな髪がいい手触り……。


俺の腹部に、豊満な胸が当たってぇ……。


「すまぬ……すま……うううう」


キャァァァァァァァァ!


胃が!


また胃から救助要請がぁぁぁぁぁぁぁ!


『完全な天然じゃな……』


【そうですね~。しかし、苦労してる人に会う確率が高すぎるような】


『あれじゃろうな。暗闇でしゃがみ込んでいる者からすると、この馬鹿は光に見えてしまうんじゃろうな』


【あ!】


『なんじゃ?』


【全自動罪つくり男って、あだ名はどうですか?】


『うむ! い~い、チョイスじゃ!』


五月蝿いわぁぁぁぁぁぁ!


俺が真面目な時は、ちょっと黙っとけよ!


『なんじゃ? 助けろと言ったり、黙れと言ったり。少しは胃が痛くなくなったじゃろうが?』


ええ~。


あっ……本当だ。


おや? 泣きやんだ。


もういいのかな?


「無様なところを……すまぬ」


ふぅぅ……。


「俺が、世話になった人が言ってたんだが……。泣くのを我慢しすぎると、心の奥が壊れるらしいぞ」


「レイ……」


「たまにはいいじゃん。泣いて、笑って、怒って……。魔王も人間なんだ。無理しなさんな」


うん?


何? なんでまた泣きそうになってるの!?


あれ~?


「お前には何が見えている? その深い悲しみを表した瞳で……」


『伊達に、年は取っておらんようじゃな』


「こんな私が言うのも変かも知れぬが……。私にもそれを、少しだけ背負わせてくれぬか?」


はぁ~。


「魔王である私でさえ、このような有様じゃ。人間のお前が、背負っていい物ではないのではないか?」


あ~あ。


「お前には、私のように歪んでほしくはない……。私はわがままか?」


お前、泣くほど苦しいんだろうが。


ダンジョンでは冒険者が死なないように配慮されてるし、町を襲うって言っても死人は出てないし……。


本当に魔王なのか?


この状況で、よく俺の心配なんてするよな~……。


俺のは、俺が望んで背負ってるんだよ。


『それに、既に歪みきって手遅れじゃしな』


ええ~。


【歪んで破綻してますからね】


何? その意見!?


うおおお!


抱きしめられた!?


いだだだだだ!


胃が! 胃に穴が!


「少し、苦しいです。ミリアルダ様……」


と言うよりも、胃に胃酸で穴があきそうです!


「もう少しだけ……。もう少しだけ、こうさせてくれ。とても……心が落ち着くのだ……」


俺の胃壁に穴が開きますよ?


頭からぶっかけられちゃいますよ? 血反吐を。


いいですか?


多分、かなり引きますよ?


俺の胃からのアラームが、ワーニングからデンジャーに変わる手前で、俺は解放された。


「喋ってはくれぬか……」


「俺のは……大した事じゃないんですよ。喋るまでもありません」


「お前は嘘をよくつくのに、あまり上手くないな」


「そうですか? 営業スマイルには、自信あるんですけどねぇ」


「ふふふっ……。お前はそうやって生きてきたのだな」


その二千歳の美女は、誰もが見惚れるような笑顔をうかべていた。


反則ですぜ?


おおう!?


俺が見惚れている間に、魔王様の唇が俺の唇に重なっていた。


「あの、ミリアルダ様?」


「ミアでよい。近しい者からはミア様と呼ばれておる」


ああ、様はいるんだ……。


魔王様……それもとびきりの美人からのキスか。


これは高くつくな。


【何時もの事ですが、一番面倒なのでは?】


仕方ないさ。


俺は何処まで行っても俺だ。


『急ぐ必要があるかも知れんな』


ああ……。


「ミア様?」


「なんじゃ?」


「死の谷の場所を教えていただけませんか?」


「なっ!? 何故それを?」


「もちろん、タダとは言いません。きっと気にいって頂ける商品を、ご用意させていただきます」


「レイ……。お前は何者なのじゃ?」


「只の行商人です。それ以上でも、それ以下でもありませんよ」


「……信じても?」


「約束は守るさ」


「レイ……」


****


情報を聞き出した後、ミア様は俺のベッドでそのまま眠り始めてしまった。


魔王様は俺の抱き心地がよかったようで、何故か俺を抱きまくら代わりに眠った。


ははっ……。


俺が眠れるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!


一睡も出来無かったよ!


そして、ある部分を本当に魔力で回復しました。


朝起きて血反吐でドロドロになってたら、怒られそうだからね!


しかし、静かに寝息を立てる魔王様か……。


可愛い……。


「ん……。もう、起きていたか」


寝てないんですよ。


「おはようございます、ミア様」


「うん」


****


朝飯を済ませて、玉座へ向かうと既に四天王が待っていた。


「おはようございます。昨日の報告ですが……」


何この業務報告は!?


ダンジョンで、昨日何があったかの報告を四人がしている。


凄く業務的に……。


しかし……。


『現れんな……』


初めてここを訪れた時の仮面の男が、昨日から現れない。


あの二人からは、疑似生命体の感じはしなかった……。


何か別の……。


【もしかすると、急ぐ必要があるのでしょうか?】


そうだな……。


急ごう!


「まさか、魔王城に人間が泊っていくとは……」


そう言えば……。


「四天王さん方は全員、普通の亜人種だったんですね~」


「何故それを!? 魔王様?」


「いや……私もそれは喋っていない……。何故それを知っている?」


「企業秘密ですよ~」


「あなたね~」


さて、のんびりしてる訳にもいかん。


「魔王様? 結界の一部分でいいんで、穴をあけられますか~?」


「出来るが……。普通に転移させてもよいぞ?」


「いえいえ、結界に穴さえあけて頂ければ結構ですよ~」


おっ! 穴が開いた。


「では、また近いうちに~」


「あっ!」


俺は、ベランダから飛び出して、その穴をくぐった。


「まだ、穴の場所を教えていないと言うのに……」


「レイは、何か不思議な力があるんですかね?」


「空を走る時点で、人間と識別していいか疑問だけどな」


「でも、亜人種じゃないよね?」


「いったい何者?」


「本当に不思議な人間よね~」


****


俺は、数時間ほどかけて死の谷へとたどり着いた。


火山が近いせいで、硫黄臭がするな。


これが、死の谷の名前の由来か?


俺が情報を集め、準備を終えて町に戻ったのは、それから丸一日後だった。


想像よりも準備に時間がかかったな……。


ただ、その時間が俺の首を絞める。


まるで、俺への嫌がらせのようだ。


いや、実際にミアとの事を知られているから、こういう事になったのかも知れん。


「はぁ? 大魔王?」


「ちょ! お客さん! 勘弁して下さいよ!」


俺に胸倉を掴まれた宿屋の親父が、必死に訴えてくる。


「あっ、すまん。どう言う事?」


「ですから、町中で号外が配られたんですよ。それによると、今日までに魔王を倒さないと大魔王が復活して世界を滅ぼすと……」


号外!?


「それは、何処で配られた? 持ってるか?」


「持ってませんよ~。まだ、町中のあの橋の所で、男が配ってると思いますよ?」


くっそ!


先手を打たれたか!


俺は号外がまき散らされている場所へ向かって走る。


あれは……仮面の男!


やられた!


魔力が十分に溜まってたのか!


「くくくっ……」


俺が掴もうとした仮面の男は、蜃気楼のように消えた。


配っていた号外には、大魔王復活の情報と……。


ダンジョンの地図……。


意地でも冒険者を玉座に導くつもりか……。


【まずいですね】


ああ!


急ごう!


俺は、ダンジョンへと走る。


****


ダンジョン内には、冒険者と傭兵があふれていた。


二十階についても大勢の冒険者……。


『魔物のレベルが、明らかに下がっておる』


まったく現れないと罠だと思うから、適度に倒せるようにしてるのか……。


ええい!


あっ! あれは!


「おい! 生きてるか? 今回復する!」


「お前……」


四十階まで来ると、さすがに人数は少なくなっていたが、それでも冒険者達が到達していた。


そして、ボロボロのゴメスを見つけた俺は、秘薬と魔力で回復させる。


「よし! これで、動けるはずだ!」


「すまない……」


「それより、何組だ? 何組転移した?」


「あ……二組だ」


「急ぐぞ!」


「あっ! 待ってくれ!」


二組か……。


【彼らでしょうね】


そうだろうな……。


「ふん!」


「何を!?」


ゴメスの転移を確認した俺は、魔方陣を殴って壊す。


「これ以上冒険者を入れさせる訳にいかないだろうが! 急ぐぞ!」


「おっ……おお!」


城内では、他の三人も見事に撃破されていた。


その三人を回復させて玉座に向かうと、二組の勇者パーティーがミアと激戦を繰り広げている。


止めろ! 馬鹿ども!


****


「まさか、お前達と共闘する事になるとはな! ウインス! 賞金は山分けだからな!」


「お前は! 金の事より、魔王に集中しろ! デュラル!」


「汝の僕……我は絶対の加護を望む者!」


「風に宿りし聖霊よ……」


仲間達が全魔力を注ぎ、二人の勇者に強化や防御の魔法をかける。


もう、最終局面かよ!


「くっ……我が魔法で……」


うん?


ミアの動きが止まった!? ヤバい!


故意的に封じられたんだ!


「奥義! 神竜滅殺!」

「くらえ! 雷火封神斬!」


<カノン>!


「ぐあああ!」

「があああ!」


俺は、衝撃砲で二人の勇者を吹っ飛ばした。


何とか間に合った。


【剣を構えるのはまずいのでは?】


そうだな。


魔剣を戻すと、勇者パーティに近づく。


「お前! やっぱり魔王の手下か!」


「みんな! 気を抜かないで!」


ああ、そうなっちゃいます?


構えられた……。


後ろに、四天王までいますからね~。


「みなさん危なかったですね~。危うく大魔王が復活する所でしたよ~」


「何を言ってるんだ!? 貴様は!?」


「魔王さんを倒すと、大魔王が復活する仕組みですよ~。世界が滅ぼされちゃいますよ~?」


「その話の根拠は!?」


「どの道、魔王は倒さないといけない相手だぞ!?」


「そうだ! 魔王を倒すんだ!」


五月蝿い奴らだ……。


ミアは固まったままだな。意識を封じられたか?


「では、俺が調べた情報を話しますよ~。それを聞くだけは聞いて下さいね~」


二千年ほど前、風の谷と呼ばれる亜人種の隠れ里で、悲劇は起こった。


亜人種と人間の子供が友達になったのだが、人間の子供の後をつけた亜人種嫌う大人達に里は滅ぼされてしまう。


その人間の子供も、友達である亜人種の子供を守り殺された。


一人生き残ったその亜人種の女の子は、人間に見つからないように惨め逃亡生活を送った。


そして、似た様な境遇の四人の仲間と共に、人のいない死の谷へと逃げ延びた。


そこにいたのは、大昔に封印されていた大魔王。


少女の激しい憎悪に反応し、半覚醒となった大魔王は取引を持ちかける。


五人に力を与える代わりに、魔王として君臨しダンジョンに人間達を招き入れろと言う事だった。


他にすがる者のない少女達は、それを承諾した。


「まさか……それが、魔王と四天王なの!?」


「そうですよね~?」


「あ……ああ」


俺の問いかけにゴメスが返事をした。


「何でダンジョンに人間を? 目的が……」


「目的は、大魔王も教えてくれなかったんじゃないですか~?」


「その通りよ……。ただ、この城とダンジョンを死ぬまで続けろと言われただけよ」


リンダが目を伏せて答える。


「で、ここから調べてきた事ですが、このダンジョンは人間の魔力を少量ずつ吸収するように出来ています」


「吸収? 私達の魔力を!?」


「ええ、その魔力で大魔王が復活する予定なんですよ~。ですよね~?」


俺は、いつの間にか姿を現した、二人の仮面の男に問いかける。


まぁ、返事はしないか。


「もうすぐ、目的の量に達するんですよ~。たとえば、魔王さんの魂を吸収すれば一発で完了するくらいじゃないですかね~」


「なっ? それじゃあ……」


「ああ! あの二人は号外を配ってた!」


「くっそ……。踊らされていたのか……」


「じゃあ、ダンジョンへ冒険者達が入らないようにすれば、復活を阻止できるのか?」


「多分、そんなことすれば魔物で町を襲わせて、どうにか魔王を倒させようと仕向けてきますよ~」


「くっ! 犠牲者を増やそうって事!?」


「魔王を倒せば大魔王が復活するし、倒さなければ魔物が襲ってくるなんて……。どうすればいいんだ!?」


「大魔王復活阻止はほぼ無理なんじゃないか? それなら、敵が増えないように魔王を殺した方が……」


また、自分勝手な意見だな~……。


『それは、お前が魔王側から見ておるからじゃ』


う~ん……。


人間側からなら、魔王を殺すのが一番効率的なのかな……。


まあ、やらせないけどね!


「おい! 貴様はそれだけ調べたんだ! 何か案は無いのか?」


「ありますよ~」


「なんだ?」


「魔王さんを殺さずに、大魔王を復活させて倒せばいいんですよ~」


「なっ!?」


「それだと、大魔王を復活させない前提が意味ないじゃないの!」


「復活させないんじゃなくて、復活させて倒すなら魔王を殺すべきだろうが!」


ふ~……。


「魔王さんを殺すと、大魔王が本当に自由になってしまうんですよ~」


「回りくどい! 早く喋れ!」


「大魔王が封印された状態で、外界へ干渉する為に魔王さんとの魂の契約が必要だったんですけどね~。完全復活する時には、それが足かせになってこの城から出られなくなっちゃうんですよ~」


「足かせ?」


「ええ、魔王さんはこの城から逃げ出さないようにされてるんです。出る場合は、ある特定の場所だけにあの仮面男達を連れて行かないといけないはずです」


「それが何で足かせになるのよ?」


「もしかして、魔王と繋がっている大魔王もその足かせに囚われると?」


「そうですよ~。何せ、魂が繋がっちゃうとほぼ同一人物として、契約が働いちゃいますからね~」


「そうか……。それで、魔王を殺させて復活を……」


「じゃあ、どうすれば?」


さっき言っただろうが!


「ここに、大魔王を復活させられるだけの魔力を貯め込んだ、水晶を用意しました~」


「そうか! それで、大魔王ごと魔王を殺すんだな!」


「違いますよ~。魔王さんを助けて、大魔王だけ殺すんですよ~」


「はぁ? お前は何を言ってるんだ!?」


「そうだ! 魔王を殺さないでどうするんだ!」


「大魔王を倒せるかも分からないのに、何をふざけた事を!」


はぁ~……。


「誰もお前等に、大魔王を倒せなんて言わね~よ」


「なんだと!?」


「仮にも勇者を名乗るなら、二千年も苦しんだ女を犠牲にしようとするな! 馬鹿どもが!」


「ぐっ!」


「心配しなくても、人間を脅かす復活した怪物共は俺の獲物だ! お前等は、そこで勝手に眺めてろ!」


「あっ!」


俺は手に持っていた水晶を、床へ叩きつけた。


二人の仮面男が煙となり、ミアの頭上で真の姿に戻って行く。


真っ黒い霧状の体に、金属のような大きな爪が生えた手と、仮面の様な顔だけ。


その仮面のような顔には、ギョロッとしたむき出しの目玉が三つ並んでいる。


これが、大魔王?


なんだか小ざっぱりしてるな~。


【あの霧状の体は……。多分私達のように、魔力を直接攻撃できない武器では傷付けられないようになっているんでしょうね】


『抜かるな! 魔力が……』


分かってるよ。


大魔王って言うより、邪神クラスだな。


「悪いが、預かっててくれ」


「レイ……」


俺は、カバンとローブをフィスに預けると、二本の剣を呼び出した。


うん!


やっぱり本体が現れたら、見えるようになった!


自意識の無くなったミアは、まさに操り人形のように見える。


ぼやけていた大魔王との魂のつながりが、はっきりと見える。


あの違和感を覚えた魔力はこういう事か、魂のパイプのような物? から大魔王の魔力が流れ込む仕組みのようだ。


あのつなぎ目から切断出来れば、ミアは自由になるはずだ!


『しかし、まさに針の穴に矢を通すような難しさじゃな』


でも、可能性がゼロじゃない以上……。


やるだけだ!


「レイ!お前は……」


俺は、敵に向かって加速していく。


****


くっそ……。


立ち止まった瞬間やられるな……。


接近し過ぎても駄目か……。


ミアが手をかざし、俺の足元に魔方陣を描く。


その魔方陣からは、灼熱の炎が噴き出し、全てを焼き尽くす。


近づきすぎても、大魔王が直接大量の魔力を乗せた爪で攻撃してくる。


聖剣の防御壁を切り裂くって……。


魔剣の何倍威力があるんだよ……。


うわあ!


危ねぇぇ! つか、いてぇ!


炎を避け損ねた左足首から先が、消し炭になった。


もちろんすぐに回復させるが……。


【同じ場所にコンマ一秒も留まれませんね】


なんて連射速度だ……。


あの細い魂のつなぎ目を斬らないといけないのに、集中する時間が取れない……。


どうする?


****


「なんなんだ!? なんなんだよ! あれは?」


「あれが、本当の魔王の力なの!? 私達と戦った時の比じゃない」


ミアの真の力を見た人間達が、驚きをそれぞれで表現していた。


「それよりも、あの行商人はいったい……。姿がほとんど目視できん」


「人間の動きじゃないぞ!? 化け物か!?」


ある程度までだが、俺の動きが見えている勇者二人は、顔を見合わせてお互いに問いかけていた。


「ああ! もしかして噂の……」


黒の仲間である女性が、一番最初に噂の事を思い出した。


「あれ、本当だったのか!? 伝説の化け物を狩っているハンターがいるって」


「なんだ!? その情報は?」


「噂だよ。旅行者から聞いた話しだ」


「封印されていた伝説上の化け物達から、人間を守っているハンターがいるって噂があるのよ」


「そう言えば、あいつ自分でもそんな事言ってったな……」


「まさか本当に実在するなんて……」


「くそっ! 気付いてたのに!」


黒い方が、顔をしかめて拳を握る。


「デュラル?」


「奴に剣を向けた時、瞬きもせずに眺めてやがったんだ! それも、剣の軌道を目で追いながら……」


****


くっそぉぉぉぉぉぉ!!


全く近づけなくなってきた!


【状況が悪化してますね。やはり、力を抑えたままでは……】


駄目だ!


俺達の攻撃力は高すぎる!


ミアの魂を傷付ける可能性の方が高い!


【せめて、時間の遅延を!】


『あの能力自体に集中力が必要じゃ! その状態では、魂など正確に斬れん!』


せめて……。


せめて、一瞬でも隙が出来れば……。


「レ……イ……」


ミア!


虚ろだったミアの瞳に、ほんの少しだけ光が戻る。


今しかない!


本当に一瞬ではあるが、魔方陣の展開が遅れた。


その瞬間、両足の魔力を爆発させた俺は、ミアの頭上へと飛び込む。


可能な限りでいい! 任せるぞ!


【はい!】


大魔王の直接攻撃を無視し、俺は魂を切る事だけに集中する。


聖剣側に回してあった魔力を使い、防御壁が三重に展開された。


空間を切るときとは逆に、指の先まで神経を研ぎ澄まし、全てをコントロールする。


防壁を突き破った爪が、俺の左の胸を貫通し皮と少しだけの肉だけで繋がった左腕が、ダラリと垂れ下がった。


それと同時に、目的のラインに寸分たがわず、俺は剣を振り抜く。


「馬鹿なぁぁ!」


俺が剣を振り切ると同時に、ミアがその場に倒れ込んだ。


よし!


成功だ!


「受け取れ!」


魔剣を戻し、右腕だけでミアを四天王の方向へ投げつける。


「ぐうう!」


その場から飛退いたが、追撃の爪を避け切れなかった俺の右足は、膝から下が無くなっていた。


流石は大魔王、やってくれる……。


****


「ミア様! ミア様!」


「う……お前達……」


「あああ! よかった! よかった……」


「よく! よくご無事で……」


四天王達に抱きかかえられたミアは、意識がはっきりすると同時に、体を起こして状況を知ろうと首を左右に振る。


「レイ……レイは!? レイはどうした!?」


「それが……」


「どうしたと言うのだ! レイは!?」


「ミア様を救うために深手を……」


「多分あれではもう……」


大魔王は全ての目を血走らせ、必死の形相でミアに向かって飛んでいく。


「逃がさん! 逃がさんぞ! ミアラルダァァァァァァ!」


「よくも! よくもレイを! 殺してやる!」


「駄目です! ミア様はもう……」


「逃がさんぞ! お前を殺さねば私の呪いが!」


焦ってるね~。


しかし、呪いってのは色々面倒なんだな。


『そう言うものじゃ。かけられた側もかけた側もリスクを背負う』


【多分彼女の人間を怨む気持ちが、原動力だったんでしょうねぇ】


ミアを殺して、その呪いのごと力を吸収しないと、完全復活は無理って事か?


【そのようですね。少しだけ読み間違えましたね】


いやいや、そこを推測したのジジィだから……。


「来たぞ! ミア様を守るんだ!」


「下がれ! お前達まで!」


「いいえ! その命令は聞けません!」


「私達は四天王である前に、貴方の友なのですから!」


「それに、今のミア様は俺達より弱くなってるでしょう? ここは俺達が時間を……」


「なっ!? お前達?」


ミアを庇うように構えた四天王の隣に、勇者達と呼ばれた二組のパーティーが並ぶ。


「俺達は魔王を倒しに来たんだ……。亜人種をいじめに来たわけじゃない!」


「へっ……。綺麗事を……。ウインス、俺はお前のそういう所が嫌いなんだよ。こいつを倒して! 賞金は俺が頂く!」


「全く……私達のリーダーは本当の馬鹿ですね」


「ああ……。それに付き合う俺達も相当な馬鹿だけどな!」


ミアの前で、魔王軍四天王と二大勇者パーティの連合軍が結成された。


ふ~……。


『死なすには……』


惜しいな。


「退け! ウジ虫共が!」


「きゃあぁぁぁぁ!」


「がは! この……」


残念な事に連合軍は、圧倒的な力の大魔王に、衝撃波だけで吹き飛ばされる。


「何か……。何か切り札は無いのか!?」


「下がれ! お前達まで死んでしまう……」


ミアのその言葉を聞いて、勇者達が剣を杖代わりに立ち上がる。


「へっ! お優しい魔王様だ!」


「ここで引けば、俺達は男じゃなくなるな!」


「ああ! なんて貧乏くじだ! だが……」


「そうね! 命をかける価値があるわ!」


あ~あ……最悪。


その一分に満たないやり取りで、何故か俺はむかついてたはずの勇者共が嫌いじゃなくなっていた。


勇者ってのは、人を引き付ける何かあるんだよな~。


カリスマってのか?


『完了じゃ!』


****


俺は、大魔王がミアに気を取られている時間で、回復を完了させた。


万全の状態に戻った俺は、ミアに向かって振り下ろされようとしていた大魔王の爪に、衝撃波をぶつける。


「なっ!? 馬鹿な!」


攻撃を弾き飛ばされた大魔王が、驚愕していた。


「生憎と、あれくらいじゃ死なないんですよ~っと」


「レイ! ああ……」


頼むから泣かないでくれよ、魔王様。


「貴様はいったい……何者だ!」


「旅の行商人ですよ~」


「ふざけるな! 私の崇高な計画な邪魔をするな! 何が目的だ!」


ふ~……。


「気に入らないんだよ」


「なんだと!?」


俺の体から立ち上る、白と黒のオーラに大魔王がたじろぐ……。


「この力は……!?」


「二千年も、こんな美人に血の涙を流させたクソ野郎が気に入らん! 俺の戦う理由なんて、それで十分だ……」


「ぐうう! 舐めるな! 人間がぁぁぁぁぁぁ!!」


行くぞ!


『うむ!』

【はい!】


玉座の間に、大きく鈍い衝撃音が発生した。


自分に向かってきた魔力の乗った爪を、俺が剣ではじき落としたのだ。


「くっ!」


遅い……遅い! 遅い! 遅いんだよ!


魔力を十分の乗せた聖剣と魔剣は、爪に乗せた魔力を相殺する。


全速力になった俺に対して、魔力処理をさせていたミアを切り離し、魔方陣の展開が遅くなった大魔王の魔法は当たらない。


「このゴミムシが!」


大魔王の体が、変化する。


手が八本か……。


魔法を捨てて、そっちに集中したのはいい判断だ。


だが……それじゃあ足りない!


大魔王への殺意が、俺の脳を満たしていく。


ミアの苦しみを千分の一でも味わえ! クソ野郎!


****


「あれがレイの本当の実力なのか?」


「大魔王と真っ向から切り結ぶなんて……」


「いや! よく見ろ! 大魔王の攻撃が徐々に……当たらない!?」


俺と大魔王の戦いに、ミアを含めた全員が息を飲む。


「くっそ! あんな化け物がいるなんて!」


「お互い井の中の蛙と言う事だな……」


俯いて頭を掻く白も、表情は暗くなっていた。


「なんで? なんであんな力があって行商人を!?」


「分からん……」


勇者達へ、ミアが自分の推測を喋り出した。


「今分かった……誰かに称賛される為でも、ましてや自身の利益の為には戦っていない」


「ミア様? では、奴は何を?」


「レイは……。世界を背負って戦っているのだ。たった一人で……」


顔をしかめた黒が、悔しそうに床を殴りつけて叫ぶ。


「クソがぁぁぁぁぁぁ! 何が黒の勇者だ! 本物がちゃんといるじゃないか……」


「真の道化は俺達か……」


「あの行商人……レイと言うのよね? 彼の事をもっと知りたい……」


「大丈夫じゃ! 奴は……負けぬ! 絶対じゃ!」


****


左……右……左……下段から……。


「ぐうう! 何故当たらない! 何故だ!」


既に、ゾーンに入り数手先まで読み切っている俺に、大魔王の攻撃は届かない。


しかし、有り余る魔力で展開されている幾重もの魔法の防御壁が、俺の攻撃を遠ざける。


完全に魔力の削りあいになってしまった。


もちろん、魔力が尽きるのは、俺の方が先だろう……。


どうする?


【時間遅延は魔力残量から言って、一瞬だけすね。ですが……】


ああ!


防壁の修復と展開が、遅らせられるなら……。


『ならば、今が魔力の限界点じゃ!』


トップスピードに乗った俺は、魔力を三割だけ残し二本の剣に回した。


<ミラージュ>


「何ぃぃぃ!?」


十人になった別々の方向から斬りかかってくる虚像の俺に、焦った大魔王は防御のすき間をあける。


そこだ!


顔の奥、人間の頸椎部分にあるコアへ向かい大魔王の目線と手が重なる死角から、一気に飛び込んだ。


「き……さ…………ま………………」


半径五メートルに張った特殊なフィールドは、大魔王の動きを遅延させる。


反対の両型に背負うように構えた剣を、刹那の瞬間だけずらして振り抜いた。


<デュオドラゴンバスター>!


聖剣が全ての防御壁を切り裂き、コアをむき出しにする。


そして、魔剣がコアを切り裂いた。


時間遅延が解除され、俺が地面に降り立った時には、吸収した魔力で魔剣が脈動する。


「ぐがああああああああ!」


大魔王は、断末魔と共に塵へと変わる。


敵が完全復活してなかったおかげで、今回爆発はなしだ。


へへぇ。俺にしてはスマートな終わり方……。


『無理じゃな……』


俺達は、大魔王のコアとは別の、ダンジョンで溜め込んだであろう魔力の塊を感じとる。


【城が崩れ始めました。このまま地上に落ちれば……】


半径何キロくらい消滅するんだろうね~……。


あああ! もう!


なんで、いい事はないのに、悪い事は次から次に降り注いでくるんだよぉ!


【仕方ありませんよ】


『お前じゃからな』


ですよね~。


『急げ! あまり余裕はないぞ?』


へいへい。


「レイ!」


ミア達に駆け寄った俺は、大きな声で問いかける。


「おい! 誰か、転移の魔法は使えるか?」


「えっ!?」


「あの、私が……」


白の勇者パーティの美人さんが、恐る恐る手を上げた。


「この全員を転移出来るか?」


「はい、魔力をすべて使えば何とか……」


よし!


「取引だ! さっきの情報の代金として、ミア……魔王達も一緒に転移させてくれ!」


「それは構いませんが……」


ローブ纏い、カバンを手に持ち勇者達に金貨の入った袋を投げ渡す。


「この五人が、自立して生活できるようになるまででいい! かくまってくれ!」


「ああ……。お前はどうするんだ!?」


「奥に残った魔力を処理しないと、この国ごと消滅する! それは俺がやる! だから……」


「それじゃあ、貴方が……」


おおう!?


「何処にも行かないで……」


俺は背中からミアに抱きつかれていた。


胸の感触が……。


「頼む! 頼む……。もう私はお前なしでは……」


ミア……。


「何でもする! だから……。私を一人にしないでくれ……。お願いじゃ」


ここで、振り向けば……。


『………………』


ここで振り向いて、愛しい魔王様を抱きしめれば……。


俺は……。


【………………】


俺は……。


………………。


「ミア……。お前は一人じゃない」


俺に抱きついたミアの腕をそっと解くと、俺は振り向いた。


「レイ!」


ふぅ……。


美人の笑顔は兵器だねぇ。


「四人も親友がいるじゃないですか~」


ミアの笑顔が、悲しそうに歪む。


「また、その仮面をかぶるのか?」


ごめん……なんて、謝る資格も俺にはないよな。


「また、どこかで見かけたら御贔屓に~」


涙を流すミアの首に、そっと手を伸ばし、魔力で気を失わせる。


傷付けないようにそっと……。


そして、抱き上げた魔王様をゴメスに託す。


「レイ……お前……」


「あまり俺に近づくな……。死んじまうからな……」


少しだけ笑う俺の瞳から、強い意志を感じた皆が理解する。


俺を止める事が、出来ない事を。


「レイ……。貴方は一人でいいの? 辛くないの?」


ふ~……。


「ええ! 問題ありませんよ~! さあ! 時間がありません! お早くお逃げ下さい!」


****


俺が玉座の奥へと歩きはじめると同時に、転移の魔法による光がみんなを包む。


てか、おい! 二人とも! なんで無言だったんだ?


少しは、止めようとするんじゃないのか? 普通。


『そこまで野暮な事はせん』


【貴方は何処まで行っても、貴方なんでしょう? 心配なんてしてませんよ】


変なとこだけ信頼されてるな、俺。


『さあ、急ぐぞ!』


おう!


玉座の奥、隠された部屋の中には大きな魔力蓄えた機械が唸っていた。


「この世に漂いし、迷える戦士の魂よ! 我の元に集い……」


****


「あ……私は……」


ミアが目を覚ますと同時に、魔王城は大爆発を起こす。


全てを分かっている魔王様は、静かに涙を流す。


本当によく泣く魔王様だよ……。


いつか、全てが終われば……。


【いやいや……】


『アホか! お前は!』


【この状況でよくそんな台詞が言えますね……】


『走れ! 走るんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』


あああああ!


爆発が! 消滅の光がくるぅぅぅぅぅぅ!!


キャァァァァァァァァァ!!


【流石にあれは防げませんよぉぉぉぉぉぉぉ!!】


助けてぇぇぇぇぇ!!


死ぬぅぅぅぅぅぅぅ!!


魔王城の爆発は直下にあったダンジョンを消し飛ばし、破片が少し離れた町にも被害を与えてしまったようだ。


まあ、それくらいは勘弁してもらいましょう。


『危なかった……。さすがに肝を冷やしたぞ……』


俺も怖かったです。


最初の爆発で、衝撃に巻き込まれた俺は両足を骨折しながら走っていた。


日頃の速度どころか、音速さえ超えられなかったよ。


【回復が間に合って助かりましたね】


超怖かったです!


粉塵と爆発から飛び出した俺は、空中を蹴って次の目的地へ向かう。


おおう!?


かばんが急に軽く……。


ノォォォォォォォォォォ!!


俺の商品がぁぁぁぁぁぁぁ!!


カバンに穴がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


【瓦礫に埋まりますよ。あれは、もう諦めましょう】


イヤァァァァァァァ!!


あ~あ……。


なんで俺は事あるごとに損をするの?


も~……。


やってらんね~……。

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