表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第七章:終末の旅人編
84/106

五話

「お代はきっちり頂きました~。毎度~」


「待って! 待ってよ!」


断る!


「私……。あなたに辛く当って……」


事故とはいえ、ベランダから突き落とされた時は……。


正直、殴ろうかと思いましたっ!


「貴方は何者なの? いえ、誰でもいい! 私も……」


「只の行商人ですよ~。早く帰らないと、またお父さんに怒られちゃいますよ~」


「私は! 私は貴方の事が……」


嫌いで結構だ! このビッチが!


【違うと思いますけど?】


けっ! あの婚約者のデブと結婚して、セレブでも気取ればいいわ!


【それは無いと思いますよ?】


それでバカみたいなガキを産んで、幸せな家庭でも築けばいいわ!


【ですから……】


『若造よ。あのお嬢ちゃんを、こいつが単純に好んでおらんだけじゃ。好きに言わせておけ』


【ああ! 見た目だけじゃなくて、中身も見るようになってきたんですね? いい事です】


五月蝿いわ!


「あっ! お願い! 待ってよ!」


「また、どこかで見かけたら御贔屓に~」


離脱!


俺は飛び上がると、空中を蹴って港から逃げ出した。


これ以上、あんなわがまま女に付き合い切れるか!


さて、次は……。


走りながら、師匠から貰った地図を広げた俺は、顔をしかめる。


う~ん。


『かなり離れておるな』


【そうですね~。早くても、普通なら一週間はかかるでしょうか?】


も~!


時間ないのに!


仕方ない、可能な限り不休で走るか。


【それしかありませんね】


****


そこから俺は、ほとんど不眠不休で四日ほど走り続けた。


盆地を抜け、山を飛び越え、砂漠を駆け抜ける。


さすがに……。


もう、駄目だ……。


『まあ、よくやった。明日には着くじゃろう』


【お疲れ様です】


マジで限界!


眠いし、腹減った!


あっ! 湖!


森の上空を走っていた俺は、夕日を反射した湖面を目にした。


休憩だ!


【そうしましょう。敵の前でへばっては、元も子もないですから】


うん! 休む~!


『もう、日も暮れそうじゃ』


今日はさすがにここで眠ろう。


一日一時間の睡眠じゃあ、身体がもたん!


俺は、湖のほとりで食事をとり、眠る事にした。


****


「ザバッ……パシャ……」


うん?


六時間ほど眠っただろうか、俺は深夜に水の音で目を覚ました。


夜行性の動物か何かが、水を飲みに来たか?


どうすっかな?


食料を確保するか?


俺は、ほふく前進で草陰から湖を確認した。


おおう!?


お……おおう!?


【覗きは犯罪ですよ?】


月明かりに照らされているのは、水浴びをする裸の女性だった。


物凄くスタイル抜群!


無駄な脂肪がついてないのに、出るところは出てる!


おおう!


ウェーブのかかったロングヘアー!


【犯罪ですってば】


全身から立ち上るフェロモン!


まさに大人のおねいさん!


【駄目ですってば!】


五月蝿い!


こんなチャンスめったにないんだ!


裸見られたくらいで、死んだりしねぇぇよ!


お! おう!


【犯罪だって言ってるでしょうが!】


ちっ……。


分かったよ……。


ん? あれ~?


なんか、あのおねいさん……角生えてる。


それも、魔力が……。


【えっ? あ! Aランク以上ですよ!】


ヤベ……。


亜人種じゃない!


魔人かなんかだ!


うお!


俺の伏せていた地面に、いきなり魔方陣が浮かび上がった。


反射的に、俺はその場から飛び退いた。


マジかよ!


さっきまで俺が伏せていた場所は、一瞬で焦土に変わっていた。


俺は、急いでカバンを背負う。


脱出!


はっ!?


しまった!


逃げようと振り向いて走り出した先には、魔方陣が浮かび上がっていた。


急に止まれなかった俺は、そのままその魔方陣へと、飛び込んでしまう。


気を抜き過ぎた! ヤベェ! やられる!


****


やられ……あれ?


飛び込んだんだけど……。


あれ~?


ここは何処?


『なんじゃ!? 何があった?』


玉座がある……。


作りから言って……。


【城の中でしょうか?】


ぽいよね……。


『どうしたんじゃ?』


どうなってるんだ?


【もしかして、さっきの魔方陣は……】


見た事ないタイプだが、転移だろうな。


くっそ……。


気を抜いちまった……。


【本当に、女性が絡むと……】


『何があったんじゃ!? ここはどこじゃ!?』


分かってるよ。


俺は、女に弱いよ!


くっそ!


やってらんね~……。


てか、この魔力は……。


【かなりの数ですね……】


囲んでフルボッコにしようってか?


裸見たくらいで、心の狭い……。


『ちょ! 説明を……』


五月蝿い!


後でしてやるから、ちょっと黙ってろ!


****


「魔王様の御前だ!」


「心せよ! 人間!」


玉座の両サイドに、仮面をつけた男がいきなり現れた。


魔王!?


あれ?


俺って、もしかして目的に最短ルートで到着した?


もしかして、棚ぼた?


玉座に転移してきたのは……さっきのおねいさん!?


ああ、もう服は着たんですね。残念。


【この状況で……】


「そう構えるな。少し話をしようではないか」


うん?


「何でしょうか~?」


少し様子をみるか……。


「私の魔法を、あれほど完璧に避けた人間は、お前が初めてじゃ」


「そいつはどうも~」


「お前、名は何と言う?」


自分から名乗るのが、礼儀だと思うけどな。


「レイと言いますよ~」


「そうか。では、レイよ」


「はい。何でしょうか~?」


「何故そのような喋り方をする? それはわざとであろう?」


おっと……。


「仕事中は、大体この喋り方なんですよ~」


「そうか。そなたの商売とはなんじゃ?」


「旅の行商人ですよ~」


なんだろう?


多少煽ってるつもりだけど、全く怒りを表さないな。


【そうですね。逆に、興味津津のように見えます】


「では、そなたは何を売っている? 面白いものがあれば、買ってもいいぞ」


へっ?


どう言う事!?


「大体が、マジックアイテムですよ~。今お勧めは、この一時的に魔力が強くなる秘薬ですかね~」


「ほう。もっとこちらに寄って、よく見せてくれ」


罠か?


【用心はしましょう】


おう!


神経をとがらせた俺は、おねいさんの座る玉座へと歩み寄っていく。


「どうぞ~」


「ふ~む。これを貰おうか」


えっ? 買ってくれるの?


「へい、毎度~」


「これで足りるな?」


金貨!?


ぬう! これはいかん!


【いい事ですが。変な所だけは、真面目ですよねぇ】


うっさい!


「貰いすぎですね~。これと、これをつけますよ~」


「そうか。で、これはなんじゃ?」


「はぁ、こっちが魔力を薄める薬で、こっちが体の回復を早める薬ですよ~」


「それは、面白い。おい!」


「はっ!」


魔王の合図で、三人の魔物が現れ、躊躇なく俺の渡した薬を飲んだ。


****


「おお! これは面白い!」


おねいさんは……その魔物をわざとつけた傷が、みるみる回復するのをみて喜んでいる。


なんだ? この状況は。


「あの~」


「なんじゃ? レイ?」


「なんで、俺はここに連れて来られたんでしょうか?」


「私は、もう二千年も生きておる。毎日が退屈で仕方ないのじゃ」


二千年か……。


まぁ、暇だろうね。


【封印されていた訳ではないようですが……】


ああ……。


どうするかな……。


「他にはないのか?」


「そうですね~」


おねいさんは、俺の出すマジックアイテムを金貨で買い取り、部下と思われる魔物で試して遊んでいる。


なんだか、本当に悪意を感じないな……。


裸見た事も、怒られないし。


「他にはないのか?」


「今の手持ちは、こんなもんですよ~」


「そうか……」


「あの~、帰ってもいいですか?」


「なにっ? 帰りたいか?」


あれ? なんか悲しそうな顔に……。


【残念そうですね】


元々美人だから、可愛いと感じてしまう……。


【相手は、二千年も生きてる魔王ですよ?】


分かってるんだけど……。


「まあ、仕事がありますんで」


「もう少しだけここに留まらんか? お前に興味がある」


うん?


「お前の魔力は人間のレベルではない。しかし、お前はどう見ても只の人間じゃ」


ちっ……。


魔力が読める相手には、隠しきれないか。


「少し訳ありです。でも、喋るほどの事ではありませんよ」


「ふふふっ。それが本来の口調か? そちらの方がいいのではないか?」


「まあ、色々あるんですよ。でも、時間が無いのは本当でして」


「な……何とか、一晩だけでも留まれんか?」


「申し訳ないのですが……」


「真紅の魔女と呼ばれた、私の頼みでもか?」


真紅の魔女?


着てる服、紫ですが?


血で真っ赤とか、そんな怖い感じですか?


「本当にすみません。やる事があるもんで……」


「……駄目じゃ!」


うん?


眼光が鋭くなった魔王さんのその声で、魔物が十体ほど出現する。


はっ! Bランクじゃね~か。


【どうやら、魔力の量は誤認してくれているようですね】


通常時は、おさえ込んでるからな。


後、変質してるんだっけ?


「お前は私の相手をするのだ! これは、命令じゃ!」


魔物ににじり寄られて、俺は開かれているベランダに向けて後退した。


うわお!


【この城は、空に浮かんでいるんですね】


ベランダから下を見てみると、とんでもない高さに自分がいる事が分かった。


「どうじゃ? 諦めがついたか? 通常の転移で出入りが出来ぬように、結界も張ってある」


はぁ~……。


はい! 残念!


「また、どこかで見かけたら御贔屓に~」


「馬鹿者!」


俺は、ベランダから飛び降りる。


そして、結界を魔剣で切り裂いて逃げ出した。


さすがに、敵意が無い奴は斬れん。


魔王は、空中を走る俺を呆然と眺めていた。


まあ、予想外でしょうよ。


****


『もういいか? そろそろ、説明を』


結界を抜けた所で、ジジィの我慢は限界を迎えたらしい。


【先程の魔王が、湖で水浴びをしていたのを覗いて、掴まったんです】


ええ!?


何? その説明?


悪意を感じますが?


『またか、このエロガキ』


ええ!?


すぐに納得した?


俺への信頼は無いんですか?


『無い!』


ですよね~。


てか、ここって……。


【もしかして、目的の国ですか?】


あの紋章はそうだよな?


空中を走っている俺の眼下には、大きな町並みが続いていた。


あれ?


もしかして、今回のターゲットはあのおねいさんなの!?


あれ~?


『情報収集しかあるまい』


できれば、あのおねいさんは斬りたくないな~。


はぁ~。


あ! 宿屋発見!


【もう、日が昇り始めてますよ?】


一日短縮出来たんだ。


もう少しだけ眠らせてくれ……。


【まあ、仕方ないですよね】


『うむ。わしもまだ眠い』


****


ふぅぅぅぅぅ!!


HPもMPもフル回復だ!


【少しだけって言ったのに……】


うん! 体の調子がいい!


さあ! 飯でも食いに行くか!


『昼過ぎまで寝おって! この馬鹿者が!』


よし! 今日はパンはなし!


『あ……』


【貴方は、本当にやる気があるんですか?】


よし! パスタもなし!


【あ……】


何を食べようかな~っと。


宿屋のカウンターの金を置いた俺は、出入り口から差し込む日の光に目を細めた。


「お客さん。これでお支払いですか? 本当によろしいんですか?」


あれ?


「駄目なのか?」


「いえ、この通貨も両替は出来ますが、かなり遠くの国ですからね~。レートが安いですよ」


マジで?


う~ん……。


あっ!


「じゃあ、この金貨はどうだ?」


「なんだ! ちゃんと持ってるなら出して下さいよ。じゃあ、おつりは銀貨八枚と銅貨五十枚ですね」


おお……。


魔王から貰ったお金って、ここの通貨だったのか。


商品いっぱい売っといてよかった。


さあ、飯と情報収集だ!


宿を出た俺は、商店街へと向けて歩き出す。


****


『パンを……』


ノーの方向で!


【あの!】


なんだよ若造?


【お二人の好物は、移動中も食べられます! でも、パスタは……】


なんだ? そんなに食べたいのか?


【一か月も食べてませんし……】


どうしよっかな~!


なんかパスタって気分じゃないんだよな~。


【そんな……】


『パン……』


うけけけっ!


【貴方は! そうやって人が困る事を平気で言う!】


『わしにパンをよこせ!』


あ~もう、五月蝿い。


俺は、一軒の店の前で立ち止まる。


ほれ、あの店ならパスタとパン両方食えるよ。


人もいっぱい入ってるし、多分味も悪くないはずだ。


『おお! でかした!』


ここで食わないと、延々恨みごと言いそうだもん。お前等。


さて、あのわがまま女のせいもあって、久し振りのまともな食事だ!


****


俺は、その繁盛している食堂で、十人前を平らげる。


勿論、食べている間も人の噂話には、聞き耳を立てていた。


へぇぇ……。


この国には、二人も勇者がいるのか。


黒と白の勇者ね~。


もてるのかな?


『まあ、これだけ人気があるんじゃ。当然もてるじゃろうな』


死ねばいいのに……。


銅貨五十二枚を支払い、店を出た俺は、東の空を見上げる。


町の真上ってわけじゃないけど、そこには魔王の居城が浮いている。


****


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!! デュラル様よ!」


「ああ! ウインス様もお帰りになられたわ!」


うん?


【あれが、さっき聞いた勇者でしょうかね?】


多分な……。


俺と身長が同じくらいの真っ黒い鎧を着た男と、白い鎧を着た俺より十センチはでかい短い金髪を切りそろえた男が、仲間達と胸を張って通りを歩いていた。


まさに白と黒だな。


どうやら、別々にパーティを組んでいるようだな。


それぞれが、四人組みで歩いている。


おおう!?


あいつ……。


なんてうらやましい……。


黒の勇者は、パーティーの可愛い女性の首へ腕をまわして……。


胸もみやがった!


ああ!


なんか女性も嫌そうじゃない!


照れて、止めてほしそうにはしてるけど!


なんだ? 彼女とラブラブパーティーってやつか?


死ねっていうか、殺す!


おおう!?


よく見ると、黒の方パーティー全員女の上に、みんな可愛い!


うわ! 超モテモテじゃないっすか!


【この過剰反応、どうにか出来ないんでしょうか?】


『慣れろ、若造』


はうあああ!


白の方も、物凄い美人の神官ぽい女の人がいる!


なんだ? そんなに、ムキムキのアゴが割れた男がいいのか?


あれ?


何か白と黒が口げんかし始めた。


「仲が悪いのかな?」


「は!? あんた知らないの? 白のウインス様も黒のデュラル様も幼馴染で、ライバルなのよ!」


おっと、口に出してたか……。


俺の言葉に、勇者達へ手を振っていた女性が振り返って……少々怒り気味に返事をしてくれた。


「そうなの?」


「あんたよそ者ね? 有名な話よ! 聖騎士のウインス様と、魔剣士のデュラル様! ああ……かっこいい!」


いいな~。


俺、そんなの言われた事が無いよ。


「あの二人は、強いんだよな?」


「もちろんよ! あの二組だけが、唯一魔王城まで行って帰ってきたんだから!」


俺もなんだけどな……。


戦闘はしてないけど。


はん!


人がわぁぁきゃぁぁ言われてるのなんて、見てても気分が悪い!


情報収集だ!


****


勇者達に背を向けて歩き出した俺は、日が暮れるまで町で情報を集めた。


そして、晩飯ついでに酒場による。


あ~気分悪い。


【本当に、あの二人が嫌いなんですね】


誰に聞いても褒めるんだもん!


唯一、デュラルの女癖が悪いくらいしか聞かなかった。


はぁ~……。


でも、まあこの町で食うに困る事は無いな。


『そうじゃな』


この町は、驚く事にギルドはなく、冒険者達と商人達だけで成り立っていた。


あの魔王は、三か月に一度この町に魔物を攻め込ませる。


その魔物と戦う為に、多くの冒険者と傭兵が集まってきた。


ただ、三か月に一度攻めてくるだけなので、日頃そいつらは魔王上に繋がっているダンジョンを攻略しようとしているそうだ。


ダンジョンって……。


ゲームじゃないんだから……。


魔王城の直下にあるダンジョンは、入るたびに迷路が変わっているそうだ。


その上、魔物がお金を落とすらしいし、宝箱の中にアイテムまであるらしい。


そのお金とアイテム、そして国からかけられた魔王への賞金目当てに、今日も冒険者達はダンジョンに向かう……って事らしい。


最深部の転移魔方陣から、魔王城へ行けるそうだが、何故か最深部に近づけば近づくほどどんどん魔物が強くなるそうだ。


と言うよりも、入口付近の魔物が弱いんだろう。


何のゲーム!?


あの魔王は、冒険者をおちょくって遊んでるの?


俺なら、最強の魔物を入口に待機させるけどよ?


でもまあ、これで仕事に困らないか……。


『そうじゃな、久し振りに冒険者に……』


ああ!


ダンジョン内でアイテム売れば、大儲けだ!


『そっちか!?』


えっ? 他に何が?


【普通は、冒険者側になるんじゃないですか?】


ああ……。


それより、アイテム売る方が儲かりそうだし、あのおねいさんを斬りたくない。


『お前には、一生勇者とか無理じゃ』


酷い事言うな!


****


「だから! あのモンスターには、攻撃あるのみなんだよ!」


「そうじゃない! それだと最深部まで着く前に、魔力が無くなるんだ!」


「あんなの、炎を剣に乗せればいちころなんだよ!」


「攻撃を受けては、元も子もないだろうが! 神術で防壁を張るんだ!」


大きな喧嘩腰の声が聞こえて、俺はカウンター席から後ろへと視線を向けた。


あれは……白と黒?


酒呑んで喧嘩してる。


【モンスターの退治方法で、揉めているようですね】


確か、黒が攻撃魔法を使う魔剣士で、白が神術で防御を固める聖騎士だったっけ?


【らしいですね。剣術は同じ道場で学んだらしいですが】


でも、仲が悪いみたいなのになんで一緒に飲んでるんだ?


『情報交換ではないか?』


あっ、そっか。


あの二人だけ、他とレベルが違うんだよな?


【そうですね。他の相手では、情報交換の価値が無いんでしょう】


ただの喧嘩友達って、見かたもできるけどな。


喧嘩が出来る友達……親友かぁ……。


俺には、いなかったなぁ……。


仲裁のふりして、ちょこっと刺そうかな?


【駄目ですよ! 何考えてるんですか!】


えっ? ちょっとした殺人計画ですが、何か?


【ちょ!】


しかし、あの二人確かに人間にしては魔力が強いな。


『そうじゃな。学生時代のお前と、同等の戦闘力があるかも知れん』


魔王……真紅の魔女ミアラルダの城に、この五十年で入れたのあの二人だけだって言ってたしな。


本当にあの二人なら、魔王の元に到達するかも知れないな。


う~ん……。


『余計な事を考えておらんか?』


まぁ、場所はここで間違いないんだ。


あの城を調べないといけないんじゃないか?


『そうじゃが……』


大丈夫だ……。


どうしてもの場合は、誰だろうと斬るさ。


それが俺の責任だ……。


『うむ……。うん? どうした? 若造?』


【まだ、切り替えについていけません。頭が痛い】


ついて来いよ~!


さて、今日は酒でも飲んで眠ろう。


明日は、朝一からダンジョンで商売だ!


****


「へい、毎度~」


「あの……。お前……」


「なんですかい?」


「何故俺よりも先に、下の階へ着ているんだ?」


「そういう仕様ですよ~」


「そうなのか……。じゃあ、また頼むぞ」


俺は予定通り、日が上る前から宿で作ったマジックアイテムを、ダンジョン内で売りさばく。


くくくっ! よく売れるぜぇ!


「また御贔屓に~」


さて、もう少し潜るか。


「ぐおおおお!」


角を生やした、下半身が毛むくじゃらのおっさんが、叫びながら俺に向かって走ってくる。


う~ん……。


やっぱり魔王は、人間をおちょくってるのかな?


『かも知れんな……』


【二千年の倦怠による、お遊びでしょうか?】


俺は、襲ってきた魔物を斬り捨てる。


駄目だ……。


全然魔力が吸収できん。


『まあ、こいつ等はしょせん作られた疑似生命体じゃ。まともな魂が無い』


これじゃあ、俺は戦うだけ魔力消費するから損だな。


【逃げ回りますか?】


そうするわ。


こんな雑魚に捉まる事ないしな。


****


俺が逃げ回りながら三十分ほどで到達した、地下二十階。


ここまで来ると、商売相手がほとんどいないな。


うん?


あれは、黒……。


『向こうからは、聖騎士の気配もするな……』



気配を消した俺は、黒の戦いを見物する。


へ~……。


本当になかなかの戦闘力なんだねぇ……。


魔剣と聖剣なしなら、俺といい勝負するんじゃない?


【それはありません】


えっ?


『お前がたとえ丸裸でも、人間に負けるはずがない』


いや……。


それ褒めてるの? それとも人間扱いされてないの?


『……後者じゃ!』


ちょ! 待てよ!


「くそ! 魔力を消費しすぎた!」


あ……戦闘が終わった。


「仕方ありません、デュラル。一度帰りましょう」


「ちっ……。折角ここまで来たのに」


おお!


チャァァァァァンス!


「魔力を回復するアイテムはいかがです~?」


営業スマイルを作った俺は、柱の陰から飛び出した。


「はぁ!? なんだお前?」


「ダンジョン内の、臨時なんでも屋ですよ~」


「こんな奥まで、なんでも屋が!?」


「それよりも、魔力を回復するアイテムなんてあるの?」


「へい、ありますよ~」


「……じゃあ、貰おうか」


「へい、毎度~。ひとつ銀貨二枚です」


「高! あの……一つだけくれ」


なんだ? 貧乏人か?


「おっと! 動くなよ……」


黒は、俺の首筋に剣を突き付けてきやがった。


嘘だと思ってるのか?


殴るぞ! この野郎!


「おお!? 本当に回復した……」


「凄い……。こんな薬聞いた事ありませんね」


ジジィ印の怪しい薬を舐めるなよ!


『何回も言うが、怪しくはない!』


「お前……。何者だ?」


「只の行商人ですよ~っと」


「何故こんな薬を売っているんですか?」


「あれですよ。ダンジョンの攻略が進めば出てくる、レアななんでも屋です。よくゲームなんかであるでしょ?」


おや?


なんでまた剣を?


【その説明で納得するとでも?】


ふぃぃぃ。


男に容赦はしない主義なんだけどなぁぁ。


客にいきなり手をあげるのは、よくないかぁ。


「もうアイテムを売りませんよ~?」


「ぐっ! お前は、魔王側じゃあないだろうな!」


「違いますよ~。中立ですよ~。商売はそうあるべきですからね~」


「デュラル! あの……ごめんなさい」


「ちっ!」


「あの、そのアイテムを後十個頂けますか?」


「へい、毎度~。金貨二枚になります」


「じゃあ、これで……。あ、ちょっと待って下さい!」


俺の受け取るはずだった金貨が、一度引込められてしまう。


「なんですか~?」


「他に、もっといいアイテムはあるのかしら? もう少しお金はあるんだけど」


おお! 流石、勇者パーティー!


金持ってんじゃないかぁ。


「そうですね~……。この回復力を高める薬に、敵の魔法攻撃でダメージを受けにくくなるブレスレットとかお勧めですよ~」


「効果は保証してくれるのよね?」


「それは、当然ですよ~」


「じゃあ、これでさっきの薬も含めて……」


金貨七枚か……。


薬をそれぞれ八個、ブレスレットを人数分渡した。


「では、またお会いした時には御贔屓に~」


う~ん……。


あれだよね、このアイテム自分で使えれば最高なのにね……。


『前にも言ったが、お前の魔力は変質しすぎて秘薬の効果が無い。それにあのブレスレットで防げる魔法など、お前には当たりもせんわ』


便利なんだか、不便なんだか……。


それにしても……。


『気がついたか?』


ああ……。


俺のは、特殊で無理みたいだけどな……。


【魔力が、ダンジョン事態に吸収されている感じですね】


そうだな……。


う~ん。


もしかして、自分の魔力充填が魔王の目的か?


『そうかも知れんな……』


さて、白の方にも売りつけてから、もうちょっとだけ潜るか!


****


俺は、さらに二十階ほど地下に潜った。


あっ! 宝箱発見!


「おい……」


さて、中身は……。


なんだ……只の剣か……。


【魔力がこもってますから、それなりの武器だと思いますよ?】


俺の手は二本しかない!


お前らより、明らかに攻撃力の少ない武器なんて、いらん!


それとも口に咥えるか、股に挟めとでも?


『他の冒険者には売れるじゃろうが』


あっ! そうか!


じゃあ、回収っと……。


「おい!」


ん?


「なんですか?」


「お前は何を考えている? 昨日魔王様が連れてきた男だな?」


「そうですよ~」


「俺は、この階のボスだぞ?」


「ああ、そうなんですか~」


「お前! 舐めてるのか!」


まあ、舐めてますけど。何か?


「何故、ボスの後ろにある宝箱を、ボスを避けてあけるんだ?」


「中身が欲しいからですよ~」


「こいつ……。いくら、魔王様に気に入られていると言っても、もう許せん! てっ! おい!」


「じゃあ、そういう事で~」


う~ん……。


追いかけてくるな……。


「待てコラ! お前はこのゴメス様が殺す!」


けっ……。


誰が掴まるか!


****


俺はダンジョン内の魔物を全て躱しながら、ゴメスから逃げ回る。


下に続く階段は……。


あっ……。


魔方陣だ。


ここが最深部だったのか。


そおい!


俺が魔方陣に飛び込むと、城の内部らしき場所に転移された。


う~ん……。


ここからは上りか。


うん?


「はぁはぁはぁ……。待て!」


ゴメェェェェェス!


まだ追いかけてくるのか……。


「さあ! せめて勝負しろ!」


仕方ない……。


離脱!


「あああ! 待てぇぇぇぇぇぇ!!」


嫌ですよぉぉっと。


大きな広間を抜けると……。


うん? また変なのがいるな……。


「ここから先は俺を倒してから……。あれ? ゴメス?」


「フォビア! そいつを止めろ!」


「わっ……わかった!」


あっ! そおい!


もちろん、俺はフォビア? って奴を跳び越えた。


「嘘だろ!?」


「はぁはぁ! 追うぞ!」


「おっ……おう!」


あはははっ!


掴まえてごらんよ~!


絶対無理だけどね~!


お! 転移の魔方陣だ!


次の階へ! レッツゴー!


****


「待ちなさい!」


うおっ!?


この階は女の子が守ってるのか?


角が生えて、魔力も高いし……。


多分、ボスだよな。


「フィスゥゥゥゥ! 止めろぉぉぉぉぉ!」


「分かってる! 我ら魔王様の四天王! 逃がしはしないわよ!」


ふん!


「はあ? 何それ!?」


「馬鹿! 追うんだ!」


「分かってるわよ!」


フィス? は、俺の作った残像に見事に引っかかってくれた。


その女の子も一緒になって、追いかけてくるよ。


うけけけけっ!


****


「ここまでよ!」


おお……次の階もおん……メガネっ子か!


「はぁはぁ……リンダ……頼む……」


「だらしない! 高々人間に!?」


ふははははっ!


誰が掴まるか!


【なんで楽しそうなんですか?】


おちょくるの楽しぃぃぃぃぃぃ!!


テンションが……あがって来たぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!


【うわー……】


****


「お前……」


「へい、毎度~」


「はぁはぁはぁ……」


「はぁはぁ……ごほっごほっ!」


俺がわざと立ち止まったりと、おちょくりまくって玉座にたどり着いた時には、追いかけてきていた四人は完全にへばっていた。


「ま……魔王様には! 指一本触れさせん!」


メガネっ子……炎の球ですか……。


といや!


「なっ! そんな馬鹿な!?」


もちろん、核に魔力を流し込み消し飛ばしました。素手で。


ちょっと熱かった……。


「やめておけ、この者は私の回避不能と言われた攻撃を、避けたほどの男じゃ」


「しかし! 魔王様!」


おお、流石四天王……。


もう息切れが回復してきてる。


『まあ、全員がAランクじゃ……』


「それで? レイよ。逃げ出したお前がなんの用じゃ?」


「もちろん商売ですよ~。後、少々情報が頂ければ」


「情報? まあ、よかろう! で? 今日は何を?」


興味津津ですな~。



「あいつ……本当に人間か!?」


「なんで、俺達以上の速度で三時間も走って、息切れしてないんだ!?」


「でも……魔王様。なんだ嬉しそう」


「そうね。あんな顔、ここ数百年は見てないわ……」



「はい! 今これをお買い上げいただくと~! なんと~同じものがもう一つ!」


「これは……二つもいらないのではないか?」


「まぁ……」


「半額で売ればどうじゃ?」


「これ邪魔なんで、在庫を処分したいんです……」


「なるほど……。最初からそう言わんか! おい! フィス! リンダ!」


「はい! 何でしょうか?」


魔王に呼び寄せられた、四天王の女性二人が玉座に近付いてくる。


「この幻術効果を和らげるアイテムを、買ってやろう」


「はっ! ありがとうございます!」


おお! 売れた。


「これは……首輪?」


「チョーカーですよ~。少し厳ついですけど~」


なんせ、鋲が付いてるからねぇ。


「ふん!」


おおう!


いきなり殴りつけてきたフィスの拳を避ける。


何するんじゃ! このクソアマ!


「やっぱり……幻術じゃなくて、純粋な速度で残像を作ってたのね……」


ええ~。


俺の商品を利用して攻撃してきやがった……。


「足には自信があるんですよ~。でも、攻撃は勘弁して下さいね~」


次やったら、そのデカイ胸を揉む!


「はあ!」


うわお!


次は魔法かよ!


「何するんですか~? リンダさん?」


殴るぞ! この発育不全が!


「まさか本当に、この距離で私の最速魔法を避けるなんて……。幻術じゃないわね」


えっ!?


まだ確認中だったの?


てか、多分お前等の攻撃が直撃したら、死ななくても大ダメージ受けるからな!


「ふふふっ……。お前は本当に面白いな」


うん?


ああ……。


この人の笑顔って……。


「人間でも我ら魔族でも、変わらず対応するんじゃな」


心が温かくなるような笑顔を、魔王は向けてくれていた。


「それが、行商人のスタンスですよ~。うん? それよりも、人間って……」


「このダンジョンは私の物だ。お前が入ったと気が付いてから、見ておったのじゃ」


「そうですか~」


うん?


「おい! ふん!」


ふん!


「がっ!」


背後から声をかけたゴメスの拳に、俺はカウンターを合わせた。


「な……なんで俺には、殴り返すんだ?」


「男に容赦はしないのがスタンスですよ~っと。なので、後ろからまた何かしようとしてるフォビアさんも、殴り返しますよ~っと」


「ぐっ!」


「ふふふふふっ……」


「本当に何者なの?」


「行商人ですよ~」


「何処の世界に、魔王と四天王と向かい合って商売する人間が居るのよ?」


馬鹿か?


「ここにいますよ~」


「あははははっ!」


「魔王様!?」


「あまり私を笑わせえるな! くくくっ……」


そんな腹を押さえて笑わなくても……。


あれ? なんか四人も笑ってる?


なんですか~?


「は~……あんたには負けたわ。私はフィス」


四天王達が、握手を求めてきたので、応える。


「ああ、皆さんの名前はもう覚えましたよ~。俺はレイです」


「じゃあ、レイ! これからも魔王様に笑いを提供してね」


ええ~……。


俺は芸人じゃないんだけどな……。


****


深夜までアイテムを売り続けた俺は……。


泊る事になりました!


『これで証明されたな!』


何が?


【魔王城に泊めて貰う勇者なんていません!】


あっ……。


『お前は勇者無理じゃ!』


五月蝿い!


勇者は、どうでもいいからもてたい!


【そんな身も蓋もない】


五月蝿い!


もういい!


寝る!


****


「う~ん……」


眠りについて数時間後、寝苦しさに俺は目を覚ました。


目を覚ますと……。


魔王が俺に馬乗りになり……。


首を絞めていました!


罠だったぁぁぁぁぁぁ!!


やってもうたぁぁぁぁぁぁぁ!!


はぁ~……。


やってらんね~……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ