六話
ホテルを抜け出した俺は、町から北へ走る。
目的は謎の集団が住み着いた廃墟……。
多分、白の教団って奴らだろう。
もしかすると、馬鹿の仲間だったりするかも知れん。
てか、出来ればそうであってほしい。
あんな馬鹿ども、早く潰すにこした事はない。
『お前、関係ない情報も集めておったが……』
必要な情報が、必ずその通り手に入るとは限らないだろうが。
ああいう場合は、関係ない情報でも、集めておいて損はないんだよ。
『まさか、あれが真面目だったとは思いもせなんだ……』
だから真面目って言ったじゃん!
確かに、勇者みたいって浮かれてた俺も悪いけども!
真面目にやってたんだよ?
『お前は、どこまで真面目なのかさっぱり分からん』
全部真面目じゃい! ボケ!
それをあいつらは……。
そうだよ!
何でだよ!
俺、なんか物凄く怒られたじゃん!
でも、俺正しかったじゃん!
なんだよ~。
俺一人で、重要な部分全部やってるじゃん!
俺! 約束破ったりしてないじゃんか!
なんで信頼が無いんだよ!
ふざけんなよ~……。
はぁ~……。
やってらんね~……。
****
聞いていた場所に到着したが……。
何も無いな。
廃屋が消えるなんてあり得ない。
となると……。
ふ~ん……。
本当に何処までも予想通りだよ……。
『そうじゃな』
魔力の反響を確認し、廃屋があるらしい地点で気配を消す。
う~ん……。
不可視の結界か、かなり高等な魔法だよな?
『うむ。並みの魔法使いには、ここまでの規模の結界は不可能じゃろう』
やっぱり、馬鹿の仲間の可能性が高いよな~。
一人で来て正解だった。
オリハルコン持ちから四人を守るなんて、正直キツイからな。
しかし……。
『気取られず入るのは、難しいかも知れんな』
魔剣で結界切り裂いたらばれるよね?
どうすっかな~。
うん?
ラッキー! 人の気配だ!
三人か……。
こんな何もないところに来るのは、教団の奴しかいないはず!
これで、入り方が分かるか?
茂みの陰から三人が結界の前に来るのを見つめる。
おいおい……。
ジジィ、あの服装……。
三人が纏っている服装。
それを初めて見たのは、ゲッシー達と町に買い物に行った時だったか?
この大陸のほとんどの町で見かける、ある宗教団体の物だった。
マジですか?
敵って、物凄く大規模じゃないの?
『奴らが悪さをしていると考えて……。今考えられるのは、三パターンかのぉ?』
いや、四パターンだろう?
馬鹿とは関係なく、この支部が暴走しているか、この宗教全体が元々ヤバいか。
もしくは、馬鹿と関係があってこの支部が人をさらってるか……。
『最悪は……』
ああ、馬鹿の団体がデカイ上に真っ黒……。
今回も、最悪の想定で行かないといけないよね~……。
『今回は……いや、今回も最悪じゃろうな』
あああああ……。
メンドくせぇぇぇぇ!
絶対これ面倒な事になるって!
なんか、あれ! あれが欲しい!
『なんじゃ?』
今回の件に詳しい強い仲間とか!
大陸も違うし、この宗教団体を倒す為の勇者とか!
そう言うのが欲しい!
『……アホ』
アホじゃありませ~ん!
『それよりも……あれは……。急げ! 多分、あのあいつらが今出したカードが、解錠の魔法アイテムじゃ!』
ヤバッ!
入れなくなる!
何もないように見える空間に、結界のトンネルが発生した。
俺は急いで三人に見えない速度で、その中へ侵入した。
間に合った~……。
俺が中に入って、すぐにトンネルは消える。
草むらの中に身を潜めた俺は、周囲をうかがう。
結界の中は本当に、只の廃屋が建っているだけだった。
予想外だな、改装ぐらいしてると思ったのに……。
明りも点いてないや。
『気を抜くな』
分かってるよ。
気配を消したまま三人の後をつける。
ははっ……。
俺~、アサシンになれるね。
三メートルくらいしか離れてないのに、全く気付かれないよ。
『お前がその気になれば、何にでもなれるじゃろう』
****
へ~……。
地下への階段か。
厳重だね。
それにしては、門番とかがいないよね?
『あの結界からは、簡単に外には出られないようになっておるのじゃろう……』
なるほど、侵入者は皆殺しってところか?
『そうじゃな……』
地下からあの気持ちの悪い魔力が……。
やっぱ、最悪の方だった~。
くっそ!
何体いやがる?
でも、百もいないな……。
今回は少し楽をさせて貰えるんだろうか?
『期待はせんことじゃ』
ですよね~。
****
「我らのメシアが人類を救うのです! さあ! 皆さん! 共に新世界を築くのです!」
おお~……。
何人いるんだよ。
『二百……いや、三百人はおるようじゃ』
地下には大きな講堂が広がっていた。
そして、壇上には馬鹿の仲間がきているローブを纏った男が、かなり電波な事を大声で言っている。
恥ずかしくないのかな?
アホどもが熱心に祈ってるよ。
祈りってので、何か起こるとでも思ってるのか?
祈りなんて……時間の無駄だろうが……。
『で? どうするんじゃ?』
気配を消したまま情報収集だな。
なにせ、相手の事が全く分かってないからね。
『うむ』
****
俺は、その地下を探索した。
ベッドがビックリするくらい並んだ部屋に、これまた大きな食堂か。
ここで生活してやがるのか……。
どこもかしこもかび臭くて、汚い。
なんか身体に悪そうだな。
『信者を、使い捨て程度にしか思っておらんのかもしれんな』
魔力はさらに足元から感じるから、ここを調べるのは後回しにしよう。
****
更に階段を降りた俺は、ある埃だらけの部屋の中で立ち止まる。
う~ん……。
この部屋は……。
『書庫じゃな。情報が手に入る……無理か?』
字が読めないからね~……。
読めたら、これほど役に立つ場所は無いんだけど……。
う~ん……。
新約聖書ねぇ……。
これさえ読めれば、奴らの目的が分かるのに~……。
って、あれ?
読めるな……。
『読めるのか!?』
うん……。
どう言う事!?
こんな文字見た事ないのに……。
なんだ? 誰にでも読めるように、魔法でもかかってるのか?
いや、魔力は感じない……。
あれ?
でも、こっちの新しい本は読めないよ?
なんで!?
どうなってるの!?
なにこれぇぇぇぇ!?
『落ち着け……。他に読める物は無いのか?』
え~……。
これと、これと……あとこれが読めるな。
なんで!?
『ふ~む……。どうやら古い書物は読めるようじゃな』
形から言って、この新しい本は新約聖書っていうのの、別の言語版だよね?
『うむ。街中で見た文字の形に似ておるな……。ここの布教用と考えて間違いあるまい』
って事は、こっちの古いのは原本か?
う~ん……。
ここで悩んでも仕方ないよな。
中は……。
はっ!?
何じゃこれ!?
電波サイコさんが書いたのか!?
こえ~よ!
だってこれ!
人間が滅亡するって書いてあるぞ!?
封印されていた化け物が復活して、あの世の亡者がはい出して、地獄の門が開く!?
その上、天変地異でこの世は地獄に変わるって……。
こえ~よ!
『終末思想とはそういうものじゃ……』
超こえ~よ!
何だよこれ!?
『残念じゃが、わしには読めん。そこには何を?』
ああ?
え~と……。
地獄から選ばれた人間を救うのが、メシアって奴なんだって。
それ~から……。
なんか世界は何回もこの地獄をループするようになってて、二万年に一度終末が来るらしいよ。
『そのたびにメシアが生まれると?』
言い回しが難しいけど、多分そう言う意味らしいよ。
おっかね~……。
へ~……。
『何じゃ?』
この世界って、四回目の世界なんだって。
三回ほど、これに書いてある事があったらしいよ。
嘘くせ~。
二万年前の情報を誰が知ってるんだよ。
今四回目で、メシアが現れてるって事は……。
『約八万年じゃな……』
そんな昔って、人間に文明とか無いだろう~。
これ絶対嘘じゃん!
『う~む……』
なんだ? ジジィ信じるの?
キモッ!
『う~む……』
あれ? 反応なし?
『お前も知っている通り、わしは五千年の時を超えてきた。そして、まだ普通の人間だったころに人の歴史について、遺跡や地層などを調べた事がある』
もしかしてそれって……。
『うむ。最古の文明は、約一万五千年~二万年とわしは見ておる。さらに言うと、地層からその時代に大きな天変地異があった事も事実じゃ』
マジで!?
じゃあ、これって本当の事!?
ヤベ~じゃん!
世界もうすぐ滅びるじゃん!
『そうとも言えん……。過去に天変地異があり、それを元に書かれているだけかも知れん』
あ……そっか。
あの世や地獄なんて、嘘っぽいもんね~。
それに、八万年前はさすがに文明も何もないよね?
『そう思うんじゃが……』
何!?
まだ何かあるの!?
言っちゃえよ! ここまで来てもったいぶるなよ!
『あのお方が……最初にこの地へ降臨されたのが、確か四万年前じゃ』
師匠が!?
師匠の趣味ってたしか……。
『趣味ではない! ……が、人を救おうとする御方じゃ』
やばくない!?
なんか話しが繋がってない!?
ちょ! やばくない!?
師匠の電話番号知らない?
ちょ! 聞こうよ!
マジで世界を救う奴をボコッたら……ヤバいって!
俺、人類皆殺し犯! とか洒落にならんて!
『あのお方とは、向こうからコンタクトを取っていただけん限り、連絡のしようが無い』
あ~もう! 使えね~!
でも、メシアの仲間ってみんなバカばっかりで、いい事してるとは思えないんだけど……。
やっぱり、妄想で突っ走ってる馬鹿の集団なのか?
『分からん……』
ああ! もう!
どうすりゃいいんだよ~!
俺に選択肢とか止めて下さ~い!
正解する自信がありませ~ん!
ん?
んんんんんんん?
あの……これ……。
ミルフォスじゃね!?
『何じゃ? 何が書いてある?』
地獄の悪魔達と戦う為に、神様が天使を使わすって書いてあるんだけどさ~。
羽がはえてて、黄金の鎧と剣にオーラを纏った人間のような奴って書いてある。
『ミルフォス……そのままじゃな』
やっべ~!
俺マジもんの天使殺してる!
もうヤバい事しちまった後じゃん!
もう取り返し付かないよ!
あの……これぇぇぇぇぇ!
悪魔と戦う奴、いなくなってるぅぅぅぅぅぅ!
てへ! 殺しちゃった! って誤魔化せば……。
ボ……ボコられる。
全人類にボコられる!
ん?
でも、大丈夫かな?
『じゃから! 先に読め!』
なんか、天使が神の意思で悪魔殺した後に、人間へ攻撃してくるんだって。
それを倒すのがメシアになってる。
セーフ!
ようは、メシアが悪魔退治すればいいって事じゃないか!
ギリギリ……セーフ!
『それでいいのか?』
そうでないとヤバいです。
俺の命が!
てか! 俺信じね~!
こんなの信じね~!
『何を根拠に?』
だって、師匠の記述が無いもん!
師匠が関わって、影響が無いなんてあり得ん!
それこそ、悪魔秒殺してもおかしく無いって!
『それはそうじゃな。百パーセント嘘ではないかもしれんが、わしらまでこの宗教に染まる事はあるまい』
さて……。
この本持っていくかな?
相手の目的が分かるかも知れないし……。
『そうじゃな』
次は……やっぱ下か?
下手に戦闘になって、一般人巻き込まないようにしないと……。
メンドクセ~……。
ん?
この本は……。
聖剣誕生? 信徒?
気になるな……。
『確かに……しかし、優先するのは……』
分かってる!
行方不明者の確認が先って事だろ?
でも! これで!
オリハルコンが、どこに行けば買えるか分かるかも~!
『あくまで買う物なのか?』
いや、だって!
選ばれた人間しか使えないとかだったら、俺使えないじゃん!
オリハルコンさえ手に入れれば!
ジジィを捨てて、ついに勇者デビューっすよ!
これは燃えるね!
『ちょ! お前!』
俺は……仲間の為にもお前を倒す! とか言って~!
俺~、超カッコイイ!
チートで魔王ボコッて、姫と結婚して幸せになるんだ!
うん! それいい!
それがいい!
今みたいな痛いの、もう嫌だ!
いちいち死にそうなのは、もう勘弁!
『妄想するのはかまわんが、そううまくいくかのぉ?』
そんなの!
いいじゃない。
妄想するくらい……。
妄想でくらい幸せが欲しいんだよ……。
『悪かった! わしが悪かった! 好きに妄想せい!』
お前の許可などいらん!
妄想は勝手にする!
さて、先に下を見に行くか。
『……こいつは』
****
地下で俺達が見たのは大量に並んだ、バイオポッド……。
クソが……。
『……やはり、あの化け物の材料は生きた人間か』
クソ気分が悪い……。
『人間の……女性だけのようじゃな』
「なんでこんな可愛い子達を犠牲にするんだ! 馬鹿か!?」
これが、世界を救おうとしてる奴のする事か!?
ふざけるな!
こんな救済なんて論外だ!
大を活かすために小を殺すとでも!?
こんなの認めるか!
「認めてたまるか! こんなクソみたいな事!」
『落ち着け!』
「落ちつけるか! 舐めた事しやがって!」
『落ち着かんか!』
「潰す! こんな事潰してやる! 亡者も悪魔も俺が皆殺しにしてやる! だからこいつ等を潰すんだ!」
「人間は、みんな最初女性だったのさ。だから、男性より女性が加工しやすいんだ」
なっ!?
振りかえると、ローブを着た白髪の馬鹿……。
こいつは?
「久し振りだね。博物館以来かな?」
「そうだよ!」
お前には記憶力が無いのか? このクソが!
「今まで何人か、君のようなイレギュラーが発生したけど……。君は何か他と感じが違うんだね?」
はぁ~!?
「何の事だ?」
「あれ? 君は本当に神の啓示を全く受けていないのかい? 驚いたな……」
こいつの言ってる事は、さっぱり分からん!
「君は本当に変わっているね~。仕方ない、説明くらいはしてあげるけど……聞く気はある?」
こいつ……。
本気でイラつかせてくれる……。
『落ち着くんじゃ……』
分かってる……。
情報を頂く……。
その後、殺す!
「話せ……」
「おっ? 聞いてくれるのかい? じゃあ、まず僕達は神に作られた人間なんだよ。その識別は髪の色だ。昔は僕も君のように灰色だったんだよ? そして、神の啓示を受けて……」
確かに思いだせば、変な色じゃなかったけど……。
灰色の髪は、自分以外に見た事がなかった……。
それが証拠!?
「おや? 驚いてるね? 僕達以外にその髪の色の人間は存在しないから、思い当たるだろ? で、続きだけど……」
嘘かどうかは分からない……。
分からないが、俺は情報を手に入れた。
その結果、俺は何処に行っても、嫌われ者の落ちこぼれだって事が分かった。
ったく……。
やってらんね~……。




