三話
「……と言う事なのだが」
「分かりました! では、調べてみます!」
「そ! そうか! では、頼んだぞ!」
「お任せを!」
う~ん……。
何かいいねぇ! こういうの!
「どうしたの? あんた……」
「何が?」
「だって……ねえ?」
「そうですね……。何か気持ち悪い」
なんですかぁぁ!?
「うん~。リリムもそう思う~」
なんですかぁぁ!?
「だよね~。私も……」
お前等!
人に向かって気持ち悪いとか、言っていいと思ってるのか!
最悪だよ! こいつ等!
一回好きとか言ったくせにぃぃ!
なんだ? 倦怠期で離婚したい奥さんか? お前等は!
言ってみなさいよ!
もう、俺の事好きでも何でも無くなってるだろう!
はぁ~……。
やってらんね~……。
「ねえ? 何が目的?」
「別に、目的なんてね~よ」
「なんか悪い物でも食べたの?」
「なんだ? 何が気に入らないんだ? 世話になった、マルカ国王の頼みを聞いて何が悪い?」
「だって~……。レイなんかおかしいよ~?」
「だから! 何がだよ!」
「レイは何時もやる気がなさそうなのに……。何故今回に限って、そんなにやる気があるんですか?」
ああ……。
そう言う事か……。
う~ん……。
言えない……。
王様から直接依頼を受けるなんて、なんか旅の勇者になったみたいで嬉しかったなんて……。
なんかまた色々言われる。
「ただ、久し振りに普通の仕事が出来るからってだけだ」
嘘なんですけどね。
「そうなの? う~ん……」
「まあ、いいです。どの道、王の申し出はむげに出来ませんし」
「そうね。じゃあ、まずどうする?」
なんか、これから冒険アドベンチャーの予感が!
テンションが上がってまいりましたぁぁぁぁぁ!!
これこそ!
これこそ俺が求めていたものだ!
女に、財宝に、伝説の武器!
俺~、勇者になれるんじゃね?
やっふぅぅぅぅぅぅぅ!!
「ねえ? どうするの?」
「まずは情報収集だ! 行くぞ!」
「やっぱり、変ですね」
「リリム、やっぱり気持ち悪い……」
「さあ! 行くぞ!」
「分かったわよ! ちょっと待ちなさいよ!」
****
でも……広い町だな……。
どうするか……。
やっぱり無難に、行くべきだよな。
「情報収集だし、別行動にしよう」
「そうですね……。でも! レイは一人にしませんよ!」
ええ~……。
「そうよ! あんたを一人にすると、ろくな事が無いんだから!」
ええ~……。
「じゃあ、どうするんだ?」
「三人と二人で二組に分かれましょう。これで効率は倍です。集合は、今が十三時ですから……十八時にここに集合で」
「分かった! じゃあ、出発!」
痛い痛い痛い……。
腕を曲がらない方に引っ張るな!
何!?
「まだどう分かれるか決めてないでしょうが!」
そうだった……。
「どうする? 取り敢えず、俺とゴルバチームに分かれるか?」
「じゃあ~……リリムはレイと行く~!」
「なっ! 勝手に決めないでよ!」
「そうです! ここはじゃんけんです!」
「え~……」
「え~じゃないです! いいですか? 最初は……」
う~ん……。
「なあ、ゴルバ?」
「なんだ?」
「あれはいつ決まるんだ?」
「…………」
喋りなさいよ!
俺の目の前で、三人のあいこが続いている。
理由は簡単で、三人が凄い速さで相手に合わせて手を変えている。
同速度だな……。
これ~……。
永遠に終わらないんじゃね?
高々チーム分けで、そこまで本気出すなよ。
どんだけ負けず嫌いなんだよ。
「ゴルバ。リリムの手を頼む」
「了解した」
といや!
「なっ!?」
「何するんですか?」
俺がカーラとメアリーの手を掴み、ゴルバがリリムの手を掴んだ。
「埒があかん! 今出してるので決着だ」
「え~……。リリム負けてる~……」
「我慢しろよ……」
「まだ勝負はついてないです!」
「駄目!」
「ま……まあ、私はいいわよ」
勝ったカーラだけが賛成してくれたので……。
「じゃあ! 十八時な!」
「あっ!」
「レイ~!」
カーラを抱えて緊急脱出!
もう付き合いきれん!
さてと……。
「さすがに、この時間から酒場は開いてないよな~」
「ちょ! いいから降ろしなさいよ! もういいでしょ!」
ちっ!
合法セクハラタイム終了か……。
カーラは、相変わらずスベスベの肌してて気持ちよかったのに……。
「ふ~……。じゃあ、どうするの? 使用人の家は聞いてきてるけど……」
「まずは、そこから周るか。それと、兵隊の家は?」
「ああ、そのメモはメアリーが持ってるから周ってくれると思うわ」
「了解。じゃあ、行くか」
「そうね」
こうして俺達は、情報収集を開始した。
最初は使用人達の家から……。
そして、関係があると思える場所を周ってみる事にした。
****
最後に、十七時から開店し始めた酒場を周った。
「で?」
「北の廃屋に山賊かもしれないが、謎の集団が住み着いたそうだ」
おお!
なんかそれっぽい!
それっぽいぞ! 山賊を退治すれば次のイベントが来るのか?
「あんたは何を聞いてるのよ!」
「いや……それっぽい事」
「どう考えても今回の件と関係ないでしょうが! 行くわよ!」
ぬう!
俺の冒険が……。
まあ、次の奴に聞くかな……。
二人で酒場の客に、片っ端から聞き込みをした。
「ふ~……。なかなかいい情報が聞けないわね~。レイは……」
「それで?」
「何でも、その洞窟には伝説の武器が眠っているそうだ」
「なるほど!」
痛っ!
誰だ! 俺様の頭を殴るなんて!
「あんたは~……。何を聞いてるの! 関係ないでしょうが!」
怒らりた……。
「いや……。ちゃんと目的の事も聞いたんだぞ。他の事聞くくらい……」
いっ……たっ!
何回も頭を殴るな! 馬鹿になる!
「全くあんたは……」
約束の時間まで、まだ二十分ほどあるな。
「もうこの酒場で聞けそうな事は無いって。とりあえず、少し休憩しないか?」
「そうね……。他を周る時間もないだろうし」
俺達は席に付き、飲み物を注文した。
しかし……。
「酒場でお前と二人か……。なんか懐かしいな」
「そうね……。あれから二年も経つのよね」
「そうだな。でも、あの時は驚いたよ」
殺されると思ってね……。
「あの時は必死だったの……。どうしてもあんたが死んでると思えなくて……」
「まぁ、実際に生きてたしな。しかし、よく生きてるかも分からない俺を半年も捜したよな~」
「だって……」
う~ん……。
やっぱりカーラは、ビックリするくらいの美人だ。
それにお姫様だし……。
なんで、俺と旅をしてるんだ?
俺なんかより条件のいい男なんて、幾らでもいるだろうに……。
「王族の礼儀ってやつか? 生まれた時から色々背負ってるってのも、大変なんだな~」
「違っ! あれは……。その……」
「ん? 何? 詫びと礼の為に追いかけてきたんだろ?」
「それもあるけど! でも……」
んん?
なんで真っ赤になって口ごもるんだ?
訳が判らんな。
あっ!
「あのね……」
「おおい! こっちだ!」
「あら? レイ?」
メアリー達が酒場に入ってきたので、呼び寄せた。
「なんだ? ここに聞き込みか? 俺達が終わらせちまったぞ?」
「そうなんですか。ここを最後に帰ろうと思ってたんですけど、都合がよかったですね」
「そうだな」
あれ?
カーラが変な顔してる。
「どうしたんだ? カーラ?」
「なっ! なんでもないわよ!」
ふ~……、変な奴。
まあ、いいや。
「で? そっちはどうだった?」
「あら? ここで打ち合わせをしますか?」
「疲れただろう? ここで、休憩がてらでどうだ?」
「リリム、賛成~!」
「そうしましょうか……」
****
軽食と三人の飲み物を注文し、聞いた情報をまとめる。
「じゃあ、まず兵士の家族からですが、業務に関わる事で家族も認識していませんでした。情報はほとんど得られませんでしたが、失踪当日も、何時も通り帰ると言い残したそうですから、遠出はしていないと思います」
「使用人側は、共通点はみんな何か悩みを持ってた事ね。借金とか、家族関係とか理由はいろいろだけど」
「北の廃墟に山賊かなんかが住み着いたそうだ」
「俺達が聞いた情報だと、兵士たちは皆夜間いなくなっているようだ」
「使用人達が、いなくなる一週間前くらいから感じが変わったそうよ。ふっきれた様な顔になってたそうだけど……」
「西の大陸にある洞窟には、伝説の武器があるそう……」
あの……痛いです。
ナイフと爪をひっこめて下さい。
「レイは何を聞き込んでるんですか!」
「あんた本当にそんな情報しかなかったの!?」
「いや……その……」
「お前は今回の依頼内容を理解してるのか?」
あっ! 馬鹿にされた!
「分かってるよ! 城の使用人が次々に失踪して、その調査に向かった兵士もいなくなってるんだろ?」
痛い痛い痛い……。
「じゃあ、なんでその情報を聞いてないの!」
山賊退治とか、伝説の武器の方がそれっぽいじゃん。
なんて言うと、このナイフと爪が首に突き刺さるんですね?
分かります。
止めなさいよぉぉぉぉぉぉぉって!
確実に急所を狙うとかって、どうよ?
殺そうとしてる、以外の意味があるなら教えなさいよ~!
「いや……なんか、みんな宗教にはまったらしいよ?」
「最初からそれを言いなさいよ! 馬鹿じゃないの?」
馬鹿じゃありませ~ん!
「全く……貴方は、何処まで本気なのか分からないですね……。」
ある種、全部本気なんだけどね。
でも! 言いませんよ~!
せっかく引っ込めてくれたナイフと爪が、次は刺さるはずだからね!
「じゃあ、その宗教について調べるのが早そうね」
「そうですね。明日はそれを重点的に……」
****
「おお! こりゃあ、とびきりの美人が三人もいるぞ!」
「おい! ね~ちゃん! 俺達と飲まね~か?」
俺が酒場にいると、チンピラにほぼ間違いなくからまれるな。
五人か……。
殺されるぞ?
「結構です! 出来れば大事な話をしていますから、話しかけないでくれませんか?」
「おっ! 気が強いね~……。へへっ……」
普通の人間ってのは魔力を感知できないから、怖いもの知らずだよね~。
「いいから、向こうに行きなさいよ!」
「いいじゃね~か。そんな奴らほっといて俺達と遊ぼうぜ~」
「こっちも気が強いな……。俺は強い女を従わせるのが好きなんだ」
「おいおい! また全員が楽しむ前に壊すなよ~」
ああ……馬鹿だこいつ等。
二人がキレそうになってるじゃんか。
この二人めちゃめちゃ強いんだぞ?
「こんなヤサ男二人より、俺達の方が絶対楽しめるって! なっ!」
え~と、ゴルバは……。
腕組んで目を瞑ってるよ……。
こいつ使えね~……。
また、俺が止めるのか……。
「まあ、二人とも落ち着けよ」
「レイ! あんたは、また~!」
「悔しくないんですか?」
「それより、ここが殺人現場にならないかが心配だ」
「へへへっ! この兄ちゃんの方が、聞きわけがいいじゃないか!」
「顔がいい奴ってのは、実力が無いって決まってるんだよ!」
「ちげぇぇねぇ! さあ! こっち来いよ!」
馬鹿が、お前等を守ろうとしてるのに~。
「こんな奴と旅してたら、命がいくつあったも足りないぞ?」
「俺達が、お前等を守ってやるからよ~! なっ?」
「あんた達ね~!」
「こんな奴に女が守れるわけないって! なあ!」
「へへへっ! その通りだ! 俺達がいい思いさせてやっからよ~!」
ああ……なるほど、死にたいのか。
『殺すでないぞ』
ジジィは、俺の感情の高ぶりで起きてきたようだ。
「レイ!?」
「あの……」
今にも男達に跳びかかりそうだった、カーラとメアリーが俺の全身から立ち上る真っ黒いオーラに気付き、動きを止める。
「な!? なんだこいつ?」
「なんだ~? やろうってのか?」
「へへへっ! かかってこ……」
五人いた男の二人が、その場に倒れ込む。
「はっ? 何を……」
さらに二人も崩れ落ちた。
「え? え? なんだこりゃ?」
「……お前……なんて言った?」
「くっそ! 舐めるなよ!」
俺は人間では回避不能な速度で、両腕をへし折る。
「ぎゃああああ! なんだ? なにが!」
「何を守れないって?」
さらに片足の骨を踏み砕いた。
「ああああ! 足が! 俺の手がぁぁぁぁ!!」
「……俺は質問をしている」
「やめっ! やめてくれ! あがああ!」
男の髪を掴み、顔を持ち上げた。
「俺に何が守れないんだ?」
「ひぃぃぃ!」
既に、男は涙と涎を垂れ流して戦意を失っているが……。
「答えろ……」
俺はさらに肋骨を砕く。
一本……一本……。
「ああああ……。助けて……」
さあ、恐怖して死んでいけ……。
「ちょ! レイ!」
「やめて! 死んじゃう! 死んじゃうって!」
「もういい! もう……」
男をいたぶる俺を、仲間達が必死で押さえていた。
ちっ……。
『……やりすぎじゃ』
通報により酒場へ飛び込んできた兵士たちに、メアリー達が事情を話している。
俺はただ、その光景をうなだれた様に椅子へ座り、眺めていた。
****
気まずい雰囲気のまま、俺達は無言で宿泊しているホテルへ帰った。
今回のホテルは一人一部屋になっている。
部屋の中で、くすぶったままの俺は修練をした。
気分が悪い……。
くっそ……。
何も言わないのか、ジジィ?
『人とは愚かなものじゃ……。今のお前にわしが言える事はなにも無い……』
そうかよ……。
くっそ……。
苛立って眠れん……。
それが、その日最大の苦しみになるとは思いもしなかった……。
全く……。
やってらんね~……。




