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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第五章:島国の漂着者編
61/106

八話

拝啓、神様。


正直、今日ほど貴方に感謝した事はありません。


初めてかもしれません。


有難う御座います。


この気持ちは忘れません。


が……。


死ねや! このクソ外道が!


つけが溜まりまくってるんだよ!


てか、今回だけでも全く足りね~んだよ!


本当にヤバかったじゃないか!


ああ、もう!


やってらんね~……。


『結構余裕があるではないか……。ギリギリじゃぞ』


余裕なんてねぇぇよ!


今までで一番死ぬかと思ったよ!


なんだよこれ!


ふっ……ざっけんなよ!


確かに言ったよ! ああ! 言いましたとも!


三日はフル活動可能って!


でも、誰も五日活動できるなんて言ってないからね! 一言も!


死ねよ、チクショォォォォォ!!


『急げ……。もう全く魔力が残っておらんぞ!』


分かってます!


全力で波に逆らっております!


もうチョイ! 後……少し!


あ……。


セーフ……。


砂浜に向かい泳いでいた俺の足が、やっと地面についた。


六日ぶりの……地面……。


****


海から砂浜へ上がった俺は、仰向けに寝転がり、動けなくなった。


もう……限界……。


もう無理!


死ぬ……かと思った。


『わしも本当に限界じゃ。今回は駄目かと思った……』


ああ……。


今回は……本当にありがとう。


ジジィがいなかったら間違いなく死んでたよ、くたばれクソジジィ。


『うむ……よくやった。今回はわしも、心が折れそうに何度もなったが、よく乗り越えた。褒めてやるぞ、そして死ねクソガキ』


ああ~……駄目だ。


動けね~……。


これが本当の限界か……。


てか、よく死ななかったな。


嵐に海獣……。


『津波にモンスター……』


まさか、五日不眠不休で泳ぎ続けるとは思いもしなかった。


『わしも、全魔力を体力回復にあてるとは思いもせなんだ……』


ここまで、本気で殺しに来るとは思わなかった……。


今回はサバイバルですらなかった……。


『完全な自然の拷問じゃな……』


海での災厄フルコースじゃねぇぇか!


ここまで神に嫌われてると思わなかった……。


俺が粘るからか!?


それなら次は何をしてくるんだよ! 怖~よ!


さすがにもう駄目だ……。


『……わしも限界じゃ』


指の一本も動かない……。


こうして、俺は意識を手放した。


戦闘力以前に、ライフゲージが一桁しか残ってなかったんだよ。


てか、生きてる事が奇跡的です。


眠ったのか意識を失ったのか分からない。


それほど疲労が限界に来ていた。


****


俺が、次に目を覚ますと……。


見た事のない場所に……。


良かった~。


あのまま死んでる可能性があったから……。


本当に良かった~……。


さて、ここはどこだろう。


喉が渇いた。


つか、腹へって死にそうだ。


う~ん……。


怪我の手当てがされて、布団の中……。


多分、誰かに助けられたんだよな……。


部屋が見た事もない構造だ。


来た事のない場所だろうけど……。


ここは何処なんだよ。


「目が覚めたか」


開いていた扉? から二人の女性が顔をのぞかせた。


助けてくれた人……だよな。


「大丈夫か? 分かるか? 痛いところはあるか?」


「あ……大丈夫」


二人とも茶髪……。


「そうか。では、腹は減っているか?」


俺は、頷いた。


すると、一人の女性が奥に引っ込み。


食事を持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


「気にするな。さあ、早く食え」


俺は、食事を夢中でかきこんだ。


女性二人は、その光景を笑顔で眺めている。


ああ……。


生きてるって、素晴らしい。


「まる二日も目を覚まさないから、死んでしまうかと思ったぞ」


「あ……本当にありがとうございます」


「で、何があったのだ? 船が難破でもしたか? 訳を教えてくれるか?」


「えぇぇ……海で大渦に飲み込まれて……。六日間飲まず食わずでした」


「そう言う事か! では、お代りはどうだ?」


「あ……お願いします……」


何? この展開?


何も見返りなく優しくされるって……。


俺死ぬの!?


もしくはここは天国ですか!?


おじいちゃんとおばあちゃんは!?


あまりにも死なないから、お迎えをこの可愛い子二人にしてくれたの?


「さあ、これを!」


俺は、女性から差し出された変な味の飲み物を飲みほした。


不味くはないけど、初めての味だ。


一息ついた~……。


「でっ! お前は何処から来たのだ?」


「あ……レーム大陸から……」


「ふ~む……。聞いた事もないな」


ああ、やっぱり?


「あの、ここはどこですか?」


「ここはジパング国の里中村で、私の家だ」


…………。


ま~た、変なところに来ちゃった!


サトナカ村ってなんだよ!


「お前、名は?」


「あ……レイって言います」


「では、レイよ。お前は、これから苦労することになるぞ!」


何宣言してんの? この子?


もう十分苦労してますよ!


「そうだ! まずは、お前を見つけたこちらの美鈴ひ……美鈴に礼を」


ミスズヒ? ミスズ?


まあ、いいや。


「有難う御座いました」


「いえ、よかったです。あの、それでお礼と言ってはなんですが……」


おおう?


いきなり金銭要求!?


ポケットに多少の金は入ってるけど、この国で使えるの?


金なかったら、捨てられるとか?


「国外の事、色々と教えてくれませんか? 知っての通りこの国は鎖国中でして……」


サコク? 何それ? おいしいの?


「ん? その顔は、全く分かっていないのか?」


「はぁ……全く分かりません」


「なるほど、姫……。このレイは、本当に偶然流れ着いたようですね」


今、姫っつった!


この子馬鹿だ!


ミスズ姫ね……。


お忍びとかかな?


ここは、聞かなかった事にしてあげよう。


恩人だし、アホの子には優しくしないとね。


「では……そうですね~。まず、現状の説明をした方がいいかしら?」


「出来れば、お願いします。全く状況が理解できません」


「分かった! では、私……遅くなったが、私は琴音だ」


コトネ……。


変わった名前。


「あ、宜しくお願いします」


「うん! 説明しよう!」


こうして、俺は自分の置かれた状況を理解した。


****


最悪……。


もう、マジで勘弁して下さい……。


そんなに俺の不幸が楽しいか!


ああ……もう……。


「分かったか?」


「はい。この国は他国との交流を禁止していて、国内で戦争中なんですね?」


「そう言う事だ。それで、このひ……美鈴に、国外の事を教えてくれないか?」


もう、言っちゃえよ。面倒くさい。


「それくらいでしたら……」


****


俺は、自分の国や旅でまわった国の話をした。


それを二人は興奮気味に聞いてくれた。


てか、最悪の国に来てしまった……。


鎖国ってなんだよ!


俺が今いるのはジパング国でも、西に位置する安岐のアキノカミ領地なんだそうだ。


東は覇王を名乗る立川輔沖タチカワスケオキが、占領しているらしい。


元々、東は水戸のミトノカミが納めていたそうだが、怪物を引き連れた立川っておっさんが占領してしまったらしい。


西側も攻め込んできたらしいが、安岐のアキノカミがそれを何とか阻止。


そして、内乱状態が五年も続いているそうだ。


この国は元々、他国との交流が少なかったらしいが、現在はそれが全部禁止。


その禁止の事を、鎖国って言うんだってさ……。


国外に船が出ていない……。


俺……帰れない……。


何? 俺は今回立川っておっさんを倒すか、隠れて船を出さないといけないの?


ああ……へこむ……。


最悪の気分だ。


「それでどうしたのだ!」


「続きを早く!」


ああ、もう五月蝿い。


こっちは本気でへこんでるのに。


「それで、復活してしまった魔道兵機を、魔剣士が倒したんです」


「どうやって?」


「その者は強いのか?」


食い付きすぎ~。


「それなりに強いと思いますよ。一体は真っ向から斬りあって倒しましたから……」


「やはり、国外にも強者はいるのだな!」


「いいから! 続きを!」


「え~……。もう一体のフィールドを張るやつなんですが……」


俺は、その後この大きなガキ二人に、レーム大陸で経験した話をした。


実は、風土や文化の話もしたんだけど、そちらよりも俺の戦いの話の方がお気に召したようだ。


****


四時間喋らされた。


日が暮れ、ミスズ姫が帰り、眠る事にした。


俺は体中が打撲打身筋肉痛で、まともに動けない。


姫は帰り際に、明日も続きを話してほしいと言っていた。


休ませろよ……。


恩人だからむげにもできないが……。


もの凄く疲れてるんだよ?


あ~あ……。


これからどうしよう。


魔力が尽きて、ジジィも眠ったまんまだし。


ん? 声?


俺は重たい身体を引き摺り、眠っていた建物ではない、もう一つの建屋へ向かった。


そこでは、コトネが修練をしていた。


コトネは、道場の師範代理をしているらしい。


へぇぇ……。本当にそこそこ腕は立つようだ。


コトネの親父さんと兄は、戦に備えて出ているらしい。


「ん? レイか。眠れんか?」


「いえ、声がしたんで」


「起こしてしまったか? すまないな」


「いえ、起きてました」


「そう言えば、お前は武道をたしなむか?」


「……多少は」


「そうか! では、身体がよくなったら、私の稽古に付き合ってくれんか?」


「ああ……いいですよ」


手加減しないとな……。


「そう言えば、ひ……美鈴が明日染髪剤を買ってきてくれるそうだ!」


「染髪剤? 何でです?」


「ああ……お前は知らなかったな。この国は単一民族国家で、国外の人間は色々と面倒なんだ」


それって、もしかして……。


「お前は、このように茶色に髪を染めていないと、面倒になるからな!」


自分の髪をつかんだコトネが笑う。


髪の色を染めろって事ですか……。


ここは言う事を聞くしかないよね……。


さて、寝よう。


明日もきっと面倒だろうな……。


でも、また戦争を一人で止めるなんてごめんだ。


なんとかこの国を脱出しないと……。


****


翌日ミスズ姫の買ってきてくれた薬で、俺は髪を茶色に染めた。


そして、また話の続きを二日間……。


いい加減勘弁して下さい……。


「もう終り? 他には?」


「さすがに、もう知ってる話はこのくらいです」


「そうか、残念ね~」


「しかし、本当にその魔剣士殿には会ってみたいな!」


目の前にいますけどね。


「そうですね! きっと立派な英雄なんでしょうね!」


いや、みすぼらしい遭難者です。


「出来れば、手合わせしたいな!」


約束で、今日の午後手合わせしますけどね。


「琴音なら、いい勝負が出来るんじゃないですか?」


「そうだろうか? ああ……国外に一度は出てみたいな」


「そうね~」


なんだか二人は、国外に思いをはせている。


そんないいもんじゃないけどな~。


『ふむ……。まあ、人間は好奇心が強い生き物じゃ』


おお! ジジィ! 久し振り!


『微々たる物じゃが、魔力が回復できたぞ』


そうか……。


やっぱりモンスターでも倒さないと、回復出来ないよね~。


もう、父さんの魂も無くなってるし。


『うむ。今の状態では、わしが起きているのもきついのぉ』


まあ、今回は五体満足だから、そのうちモンスターを狩りに行くわ。


『うむ……』


****


話を終えた俺は、二人と飯を黙々と食べる。


コトネは家事がかなり下手糞だった。


なので、身体の動くようになった昨日から、俺がお礼として家事をしている。


てか、よほどの空腹じゃなければ、コトネの飯は食えたもんじゃない。


「それにしても、レイが作ってくれる外の料理はおいしいですね~」


「あ……ありがとうございます」


「うん! お前はいい主夫になるぞ!」


嬉しくね~よ。


「あら? 琴音はレイが気にいったの?」


「なっ! 違います!」


「うふふっ。嘘よ。琴音の好みは強者ですもんね~」


「そうです! 私の旦那になるなら、父上よりも強くなくては!」


はいはい……。


確かに二人とも可愛いけど、期待なんてしませんよぉぉ。


****


飯を食った俺は、道場で木刀を持ったコトネと対峙する。


さて、手加減して……。


って……。


あれ~?


なんで~?


あれ~?


えぇぇぇぇぇぇぇ?


なんでぇぇぇぇぇぇ?


なんで俺が、天井を眺めてるの~?


あれ~?


「うん……。お前スジは悪くないと思うがまだまだだな。特に気を使いこなせていない……」


気?


魔力の事? それとも殺気とかの気合の事?


さっきの変なのそれ~?


なんで~?


どうなったの~?


「さあ、立て! もう一本だ!」


その日、俺は女の子に負けた……。


なんですか~? これは!?


「レイは全く気を使えていないな! よし! 明日から私がお前をしごいてやる!」


気ってなに?


なんで、瞬発的に物凄く速くなるの?


何それ~?


確かに、ハンデはあったけど……。


女の子にボコボコにされるなんて……。


あり得ない……。


あり得ないって!


****


翌日から俺は、コトネの道場の門下生兼お手伝いさんとして働くことになった。


なんですか!?


この展開は!?


男の子のプライド、ズタズタなんですけど!


最悪だ……。


やってらんね~……。

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