八話
拝啓、神様。
正直、今日ほど貴方に感謝した事はありません。
初めてかもしれません。
有難う御座います。
この気持ちは忘れません。
が……。
死ねや! このクソ外道が!
つけが溜まりまくってるんだよ!
てか、今回だけでも全く足りね~んだよ!
本当にヤバかったじゃないか!
ああ、もう!
やってらんね~……。
『結構余裕があるではないか……。ギリギリじゃぞ』
余裕なんてねぇぇよ!
今までで一番死ぬかと思ったよ!
なんだよこれ!
ふっ……ざっけんなよ!
確かに言ったよ! ああ! 言いましたとも!
三日はフル活動可能って!
でも、誰も五日活動できるなんて言ってないからね! 一言も!
死ねよ、チクショォォォォォ!!
『急げ……。もう全く魔力が残っておらんぞ!』
分かってます!
全力で波に逆らっております!
もうチョイ! 後……少し!
あ……。
セーフ……。
砂浜に向かい泳いでいた俺の足が、やっと地面についた。
六日ぶりの……地面……。
****
海から砂浜へ上がった俺は、仰向けに寝転がり、動けなくなった。
もう……限界……。
もう無理!
死ぬ……かと思った。
『わしも本当に限界じゃ。今回は駄目かと思った……』
ああ……。
今回は……本当にありがとう。
ジジィがいなかったら間違いなく死んでたよ、くたばれクソジジィ。
『うむ……よくやった。今回はわしも、心が折れそうに何度もなったが、よく乗り越えた。褒めてやるぞ、そして死ねクソガキ』
ああ~……駄目だ。
動けね~……。
これが本当の限界か……。
てか、よく死ななかったな。
嵐に海獣……。
『津波にモンスター……』
まさか、五日不眠不休で泳ぎ続けるとは思いもしなかった。
『わしも、全魔力を体力回復にあてるとは思いもせなんだ……』
ここまで、本気で殺しに来るとは思わなかった……。
今回はサバイバルですらなかった……。
『完全な自然の拷問じゃな……』
海での災厄フルコースじゃねぇぇか!
ここまで神に嫌われてると思わなかった……。
俺が粘るからか!?
それなら次は何をしてくるんだよ! 怖~よ!
さすがにもう駄目だ……。
『……わしも限界じゃ』
指の一本も動かない……。
こうして、俺は意識を手放した。
戦闘力以前に、ライフゲージが一桁しか残ってなかったんだよ。
てか、生きてる事が奇跡的です。
眠ったのか意識を失ったのか分からない。
それほど疲労が限界に来ていた。
****
俺が、次に目を覚ますと……。
見た事のない場所に……。
良かった~。
あのまま死んでる可能性があったから……。
本当に良かった~……。
さて、ここはどこだろう。
喉が渇いた。
つか、腹へって死にそうだ。
う~ん……。
怪我の手当てがされて、布団の中……。
多分、誰かに助けられたんだよな……。
部屋が見た事もない構造だ。
来た事のない場所だろうけど……。
ここは何処なんだよ。
「目が覚めたか」
開いていた扉? から二人の女性が顔をのぞかせた。
助けてくれた人……だよな。
「大丈夫か? 分かるか? 痛いところはあるか?」
「あ……大丈夫」
二人とも茶髪……。
「そうか。では、腹は減っているか?」
俺は、頷いた。
すると、一人の女性が奥に引っ込み。
食事を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「気にするな。さあ、早く食え」
俺は、食事を夢中でかきこんだ。
女性二人は、その光景を笑顔で眺めている。
ああ……。
生きてるって、素晴らしい。
「まる二日も目を覚まさないから、死んでしまうかと思ったぞ」
「あ……本当にありがとうございます」
「で、何があったのだ? 船が難破でもしたか? 訳を教えてくれるか?」
「えぇぇ……海で大渦に飲み込まれて……。六日間飲まず食わずでした」
「そう言う事か! では、お代りはどうだ?」
「あ……お願いします……」
何? この展開?
何も見返りなく優しくされるって……。
俺死ぬの!?
もしくはここは天国ですか!?
おじいちゃんとおばあちゃんは!?
あまりにも死なないから、お迎えをこの可愛い子二人にしてくれたの?
「さあ、これを!」
俺は、女性から差し出された変な味の飲み物を飲みほした。
不味くはないけど、初めての味だ。
一息ついた~……。
「でっ! お前は何処から来たのだ?」
「あ……レーム大陸から……」
「ふ~む……。聞いた事もないな」
ああ、やっぱり?
「あの、ここはどこですか?」
「ここはジパング国の里中村で、私の家だ」
…………。
ま~た、変なところに来ちゃった!
サトナカ村ってなんだよ!
「お前、名は?」
「あ……レイって言います」
「では、レイよ。お前は、これから苦労することになるぞ!」
何宣言してんの? この子?
もう十分苦労してますよ!
「そうだ! まずは、お前を見つけたこちらの美鈴ひ……美鈴に礼を」
ミスズヒ? ミスズ?
まあ、いいや。
「有難う御座いました」
「いえ、よかったです。あの、それでお礼と言ってはなんですが……」
おおう?
いきなり金銭要求!?
ポケットに多少の金は入ってるけど、この国で使えるの?
金なかったら、捨てられるとか?
「国外の事、色々と教えてくれませんか? 知っての通りこの国は鎖国中でして……」
サコク? 何それ? おいしいの?
「ん? その顔は、全く分かっていないのか?」
「はぁ……全く分かりません」
「なるほど、姫……。このレイは、本当に偶然流れ着いたようですね」
今、姫っつった!
この子馬鹿だ!
ミスズ姫ね……。
お忍びとかかな?
ここは、聞かなかった事にしてあげよう。
恩人だし、アホの子には優しくしないとね。
「では……そうですね~。まず、現状の説明をした方がいいかしら?」
「出来れば、お願いします。全く状況が理解できません」
「分かった! では、私……遅くなったが、私は琴音だ」
コトネ……。
変わった名前。
「あ、宜しくお願いします」
「うん! 説明しよう!」
こうして、俺は自分の置かれた状況を理解した。
****
最悪……。
もう、マジで勘弁して下さい……。
そんなに俺の不幸が楽しいか!
ああ……もう……。
「分かったか?」
「はい。この国は他国との交流を禁止していて、国内で戦争中なんですね?」
「そう言う事だ。それで、このひ……美鈴に、国外の事を教えてくれないか?」
もう、言っちゃえよ。面倒くさい。
「それくらいでしたら……」
****
俺は、自分の国や旅でまわった国の話をした。
それを二人は興奮気味に聞いてくれた。
てか、最悪の国に来てしまった……。
鎖国ってなんだよ!
俺が今いるのはジパング国でも、西に位置する安岐の守領地なんだそうだ。
東は覇王を名乗る立川輔沖が、占領しているらしい。
元々、東は水戸の守が納めていたそうだが、怪物を引き連れた立川っておっさんが占領してしまったらしい。
西側も攻め込んできたらしいが、安岐の守がそれを何とか阻止。
そして、内乱状態が五年も続いているそうだ。
この国は元々、他国との交流が少なかったらしいが、現在はそれが全部禁止。
その禁止の事を、鎖国って言うんだってさ……。
国外に船が出ていない……。
俺……帰れない……。
何? 俺は今回立川っておっさんを倒すか、隠れて船を出さないといけないの?
ああ……へこむ……。
最悪の気分だ。
「それでどうしたのだ!」
「続きを早く!」
ああ、もう五月蝿い。
こっちは本気でへこんでるのに。
「それで、復活してしまった魔道兵機を、魔剣士が倒したんです」
「どうやって?」
「その者は強いのか?」
食い付きすぎ~。
「それなりに強いと思いますよ。一体は真っ向から斬りあって倒しましたから……」
「やはり、国外にも強者はいるのだな!」
「いいから! 続きを!」
「え~……。もう一体のフィールドを張るやつなんですが……」
俺は、その後この大きなガキ二人に、レーム大陸で経験した話をした。
実は、風土や文化の話もしたんだけど、そちらよりも俺の戦いの話の方がお気に召したようだ。
****
四時間喋らされた。
日が暮れ、ミスズ姫が帰り、眠る事にした。
俺は体中が打撲打身筋肉痛で、まともに動けない。
姫は帰り際に、明日も続きを話してほしいと言っていた。
休ませろよ……。
恩人だからむげにもできないが……。
もの凄く疲れてるんだよ?
あ~あ……。
これからどうしよう。
魔力が尽きて、ジジィも眠ったまんまだし。
ん? 声?
俺は重たい身体を引き摺り、眠っていた建物ではない、もう一つの建屋へ向かった。
そこでは、コトネが修練をしていた。
コトネは、道場の師範代理をしているらしい。
へぇぇ……。本当にそこそこ腕は立つようだ。
コトネの親父さんと兄は、戦に備えて出ているらしい。
「ん? レイか。眠れんか?」
「いえ、声がしたんで」
「起こしてしまったか? すまないな」
「いえ、起きてました」
「そう言えば、お前は武道をたしなむか?」
「……多少は」
「そうか! では、身体がよくなったら、私の稽古に付き合ってくれんか?」
「ああ……いいですよ」
手加減しないとな……。
「そう言えば、ひ……美鈴が明日染髪剤を買ってきてくれるそうだ!」
「染髪剤? 何でです?」
「ああ……お前は知らなかったな。この国は単一民族国家で、国外の人間は色々と面倒なんだ」
それって、もしかして……。
「お前は、このように茶色に髪を染めていないと、面倒になるからな!」
自分の髪をつかんだコトネが笑う。
髪の色を染めろって事ですか……。
ここは言う事を聞くしかないよね……。
さて、寝よう。
明日もきっと面倒だろうな……。
でも、また戦争を一人で止めるなんてごめんだ。
なんとかこの国を脱出しないと……。
****
翌日ミスズ姫の買ってきてくれた薬で、俺は髪を茶色に染めた。
そして、また話の続きを二日間……。
いい加減勘弁して下さい……。
「もう終り? 他には?」
「さすがに、もう知ってる話はこのくらいです」
「そうか、残念ね~」
「しかし、本当にその魔剣士殿には会ってみたいな!」
目の前にいますけどね。
「そうですね! きっと立派な英雄なんでしょうね!」
いや、みすぼらしい遭難者です。
「出来れば、手合わせしたいな!」
約束で、今日の午後手合わせしますけどね。
「琴音なら、いい勝負が出来るんじゃないですか?」
「そうだろうか? ああ……国外に一度は出てみたいな」
「そうね~」
なんだか二人は、国外に思いをはせている。
そんないいもんじゃないけどな~。
『ふむ……。まあ、人間は好奇心が強い生き物じゃ』
おお! ジジィ! 久し振り!
『微々たる物じゃが、魔力が回復できたぞ』
そうか……。
やっぱりモンスターでも倒さないと、回復出来ないよね~。
もう、父さんの魂も無くなってるし。
『うむ。今の状態では、わしが起きているのもきついのぉ』
まあ、今回は五体満足だから、そのうちモンスターを狩りに行くわ。
『うむ……』
****
話を終えた俺は、二人と飯を黙々と食べる。
コトネは家事がかなり下手糞だった。
なので、身体の動くようになった昨日から、俺がお礼として家事をしている。
てか、よほどの空腹じゃなければ、コトネの飯は食えたもんじゃない。
「それにしても、レイが作ってくれる外の料理はおいしいですね~」
「あ……ありがとうございます」
「うん! お前はいい主夫になるぞ!」
嬉しくね~よ。
「あら? 琴音はレイが気にいったの?」
「なっ! 違います!」
「うふふっ。嘘よ。琴音の好みは強者ですもんね~」
「そうです! 私の旦那になるなら、父上よりも強くなくては!」
はいはい……。
確かに二人とも可愛いけど、期待なんてしませんよぉぉ。
****
飯を食った俺は、道場で木刀を持ったコトネと対峙する。
さて、手加減して……。
って……。
あれ~?
なんで~?
あれ~?
えぇぇぇぇぇぇぇ?
なんでぇぇぇぇぇぇ?
なんで俺が、天井を眺めてるの~?
あれ~?
「うん……。お前スジは悪くないと思うがまだまだだな。特に気を使いこなせていない……」
気?
魔力の事? それとも殺気とかの気合の事?
さっきの変なのそれ~?
なんで~?
どうなったの~?
「さあ、立て! もう一本だ!」
その日、俺は女の子に負けた……。
なんですか~? これは!?
「レイは全く気を使えていないな! よし! 明日から私がお前をしごいてやる!」
気ってなに?
なんで、瞬発的に物凄く速くなるの?
何それ~?
確かに、ハンデはあったけど……。
女の子にボコボコにされるなんて……。
あり得ない……。
あり得ないって!
****
翌日から俺は、コトネの道場の門下生兼お手伝いさんとして働くことになった。
なんですか!?
この展開は!?
男の子のプライド、ズタズタなんですけど!
最悪だ……。
やってらんね~……。




