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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第五章:島国の漂着者編
60/106

七話

あれは……。


海鳥の群れか?


今日もいい天気だなぁ……。


なぁ? ジジィ?


『なんじゃ?』


前に言ってた夢オチってのはさ……。


大変な事や、あり得ない事があって……。


それが夢でした~……ああ、良かった。


ってなる事なんだよ。


『分かっておる』


俺が目を瞑れば……ホテルのベッドで目が覚めるんじゃないか?


こんなのってないよ……。


なんで神様は、俺から幸せや目的を奪っちまうんだよ……。


『夢ではない……。一つ一つ考えてみる事じゃ』


運命ってのは、何でこんなに残酷なんだよ。


俺が死ねばいいのかよ……。


やってらんね~……。


****


一昨日のことだ……。


俺達は不思議な村に着いた。


特に特産物のない、漁で生計を立てている寂れかけの村。


その漁村は何故か、不思議な雰囲気を漂わせていた。


豊漁の祭りがあると言う事だが、何故か空気がとても重い。


村人は笑顔だし、村の各所で祭りの用意を忙しそうにしていた。


だから、それに気がついたのは俺だけのようだった。


仲間達は、祭りの雰囲気で浮足立っていたくらいだ。


村人達も、旅人の俺達に親切だった。


祭りのメインは翌日の事だったが、俺達が行った時には既に露店で色々な食べ物が売られていた。


人間の祭りが初経験と言う魔族の三人が、特に落ち着きなく俺とカーラに色々質問をしてきた。


リリムは綿菓子を気に入って三つも食べていた。


ゴルバの馬鹿に至っては、記念といってガキでもないのにお面を購入していた。


二人に落ち着けと言いながら、メアリーも終始ソワソワしていた。


俺も久し振りに焼きトウモロコシを購入して食べた。


そう言えば、カーラも安ものと分かっていながら貝殻のアクセサリーを購入しようか悩んでいたな。


本当にただの祭りに見えた。


ただ、俺には何か違和感が付きまとった。


あまりにも分かりにくく、最初は本当に何となくだった。


見ている限りは、普通の漁村の祭り。


本当に小さな違和感だった。


無料の海産鍋を振るまっているので是非にと村人から勧められ、村の神を祀る建物へ向かった。


そこで、俺はある女性に出会った。


彼女は神に仕える仕事をしていて、その付近での司祭に当たる女性だ。


見た事のない独特の服装を身に纏った彼女は、村人から拝まれるように頭を下げられていた。


今回の祭りで、彼女は重要な役割をすると村人から聞いた。


その祭りは海の神に豊漁を祈る物で、彼女の存在は村人達にとって重要なのだろうと俺達にもすぐに分かった。


彼女を見た時に感じたのは、真っ白で儚い雰囲気だった。


膝まで伸びた長い髪が綺麗な女性だった。


でも、俺に下心はわかない。


こちらに気がついて、笑顔で会釈をしてくれた彼女は、とても神聖なものに感じた。


色白で、とても美人だった。


それでも、俺にいつもの下心がわかない。


その雰囲気に何かを思い出しそうになったが……。


その時には分からなかった。


正直ただの気のせいだと、その時は思った。


もちろん、彼女を凝視してしまったせいで、俺は腹を殴られた。


呼吸がとまるほどの威力で。


その日は民宿に荷物を預け、祭りを楽しんだ。


夜には花火も上がり、翌日も祭りを楽しんでいこうと皆盛り上がっていた。


本当にあんなことさえなければ、只の通過点だったはずだ。


****


その日も俺は日課である、修練の為に海岸へと足を運んだ。


そこからだろう……。


俺が、この事件に巻き込まれ始めたのは……。


俺がいい場所は無いかと歩いていると、歌が聞こえてきた。


とても透き通ったいい歌声だった。


気になって、歌が聞こえる方へ歩くとそこには彼女がいた。


まだ司祭の服を着ていたので、神事の最中かとも考えたが、一人で埠頭に立ち歌っていた。


とても心に響く不思議な歌と声だった。


俺は彼女……ジェーンが歌い終わるまで、その場で聞き入ってしまった。


歌が終ると、自然に手を叩いていた。


そして、俺は彼女と知り合った。


彼女は俺より二つほど年上で、司祭一家の養子だと語ってくれた。


この村に赤ん坊のころ捨てられていたのを、司祭一家に拾われ、実の子のように育てられたそうだ。


村人からも、将来の司祭としてとてもよくして貰ったそうで、翌日の祭りでみんなにお返しがしたいと笑顔で語った。


その月明かりに照らされた笑顔が、俺には何故かとても儚く映った。


彼女の瞳から感じた強い意志の理由を、その時は汲み取れなかった。


ただ、他人の俺が根掘り葉掘り聞くのもどうかと考えて、その日は修練をすることにした。


どうしようもないし、理由も分かるはずがない事だったが、彼女の歌声に向かい手を合わせ、涙を流す老婆を見かけた俺は、違和感の理由に気が付いてしまった。


その時はもしかして? という程度だったが、翌日村を周り俺の予感は確信へと変わった。


村人全員が何かに悲しんでいる。


祭りに対しての喜びは嘘ではなさそうだが、その瞳の奥には明らかに悲しみが漂っている。


それを俺は無視……出来なかった。


本当に自分の性格が嫌になる。


仲間達に疲れたので民宿で休むと言い、一人で調査を開始した。


もちろん、村人の口は固かった。


色々と鎌を掛けてみたが、手掛かりがまったく掴めなかった。


分かった事は、ジェーンが村人に本当に好かれており、捨て子ではあったが大切に育てられたと言う事。


何故そう思ったかと言うと、実に簡単で彼女の事を本当に村人達は嬉しそうに語っていたからだ。


高齢の住民に至っては、自分の孫だと思っていると話してくれた。


ただ、楽しそうに語った後、瞳の悲しみが深くなるのが分かった。


夕暮れまで村中を駆け回ったが、理由を突き止められなかった。


唯一気になったのは、村中に点在する石碑。


明らかに数が多い。


しかし、文字の読めない俺には何を意味しているものか、全く分からなかった。


事件をひも解くきっかけは、腹が減った俺が露店でパンを購入した事だった。


村外から来たそのオヤジの話では、この豊漁祭りは二十年に一度行われるそうで、この祭りがある年には百パーセント豊漁に恵まれるそうだ。


もちろん、それだけではこの話の全容が見えたわけではない。


しかし、一つだけ思い当たる事があった。


師匠から貰った地図には、海の海流などの情報も記載されていた。


その村の近くを、その大きな海流が流れている事を思い出した。


海流とは周期的に流れを変えると本で読んで事のあった俺は、この豊漁がその海流のせいだと推測を付けた。


ただ、それだけで何故村人は悲しむのか?


俺は、もうひとつのカギを思い出した。


それは、その村で祀られている神の姿。


まるで、蛇のような神の像だった。


そして、俺はある推測を立てる。


最悪の推測だ。


出来れば、俺の勘違いであってほしいと願いながら、ジェーンの元へ走った。


そこで見たのは、涙を流すジェーンの養父母だった。


俺の予想ってのは、必ずそれよりも悪くなる。


本当に勘弁してほしい。


彼女には悪いが、時間が無いと判断した俺は二人に多少手荒な事をして、泣いている理由を聞き出した。


海の神とは、やはり蛇のような魔物だった。


村は、その魔物に二十年に一度生贄をささげる事で、見返りとしての豊漁を得ていた。


もちろん今回の生贄はジェーンだ。


漁をする事でしか生きていけない村は、この悪夢のような儀式をやめる事が出来なかったそうだ。


何より、一度やめようと生贄を出さなかったらしいのだが、神が村を襲い多くの犠牲が出たらしい。


ジェーンは捨て子などではなく、子供の生まれなかった養父母の養子として、奴隷商人から買ってきた子供。


生贄にするために育てた子供だった。


ただ、村人も養父母も頭がおかしいわけではないので、ジェーンが本当にかわいいようだ。


それでも村の犠牲にしなければいけない。


その事で、ジェーンの為に村を捨てるかどうかという、大きな会議までしたそうだ。


その会議へジェーンは自ら乗り込み、自分が犠牲になると言い放ったそうだ。


ジェーンは、性格も満点の女性だった。


村人達も豊漁は嬉しい事だが、ジェーンを犠牲にする事が悲しくて仕方がない。


しかし、彼女から笑って見送ってほしいと頼まれたらしく、無理に笑っているそうだ。


俺の感じ取った違和感は、そこだったらしい。


話を聞いた俺は、村人以外立ち入り禁止になっている海岸へと走った。


途中で、仲間が俺を目撃して追ってきたようだが、事情を話す時間が無かった。


目的の場所へ着いた俺は、多少の罪悪感はあったが、制止しようとした村人を吹き飛ばし、海に浮かぶ小舟へと走り出した。


その小舟にはジェーンが乗っている。


俺が船に到達すると同時に、海から多分魚類だと思うが魔物が姿を現した。


蛇のような身体だが、エラとひれが確認できた。


今回の件をジジィと推測し、一つの結論に至っていた。


この魔物はもちろん神ではなく海のモンスターで、海流に乗って海を旅している。


二十年に一度陸地に近づいた海流に乗り、人間を掴食するモンスター。


多分その海流が海の栄養を多く含んだもので、豊漁はそのせいだろう。


大昔にこの豊漁目当てに漁村が作られた。


しかし、何時しかその海流にこのモンスターが住み着き、人を襲い始める。


偶然なのかもしれないが、襲ってくる前に生贄をささげると被害が一人で済むと気がついた村人達は、この最悪の儀式を続けた。


確実とは言えないが、ほぼこの推測で間違いないはずだ。


俺がモンスターと対峙するように小舟に乗りこんだときには、すでにジェーンは気を失っていた。


分かっていても目の前に魔物が現れれば、そうなるのは仕方がない事だろう。


前回のイカでもそうだったが、俺の攻撃は海に潜られるとうまくヒットしない。


その上、衝撃波は敵の粘膜に阻まれ、ダメージを与えられない。


敵の海中から攻撃を避け、俺は反撃を試みるが、剣はことごとく空を切った。


数度の攻防を続けた時、敵の身体が小舟にぶつかってしまい、ジェーンが海に投げ出された。


それに気をとられた俺は、右足に咬みつかれ、海に引きずり込まれてしまう。


海中を振りまわされた俺が取った手段が……。


前回同様、<ファルコンスラッシュ>による、海中へ空気を取り込む方法だった。


かなり流れの強かった海流にわざと<ファルコンスラッシュ>をぶつけ、一瞬ではあるが海に空気の穴を穿った。


その瞬間に自分の右足を斬り捨て、全力でコアへ向かい<サザンクロス>を放った。


それにより、蛇野郎は塵に変わった。


その後は、ジェーンを掴んで近くの岩場へ引き上げたんだ。


****


何がいけなかった?


『まだ不十分じゃな』


え~っと……。


そのあと、ジェーンと頭がぶつかって海に落ちた事?


『補足してやろう。濡れて服の透けた娘に欲情したお前が、はだけた胸を覗こうと近づいた。そこで娘は目を覚ました。そして、急いで上体を起こした娘の頭が顎にクリーンヒットし、お前は海に落ちた』


し……仕方ないだろ!


片足無かったんだから!


バランス取れなかったんだよ!


『落ちた海は、お前の技と海流と、モンスターの爆発により大渦が出来ておった。その渦に飲まれた結果がこれじゃ!』


何が悪かったんだ……。


『お前が悪いんじゃろうが! そして、長いわ!』


だって……。


『確かに一つ一つ思い出せとは言うたが! 本当に丸二日の記憶を回想するな!』


え~……。


『お前は馬鹿か! 何をどう考えても、お前が最後に下心を出したせいじゃろうが!』


いや! それだけが原因か?


『それが原因じゃ! せめて、モンスターとの戦闘だけでいいじゃろうが! 長すぎるわ!』


いや~、暇だし。


『もう知らん! 付き合いきれん!』


ジジィ?


眠りやがった……。


あ~あ……。


また一人で海の上だよ。


リンゴも流木も人魚の薬もないよ。


遭難のたびに、生存のハードルが上がってるよ。


そんなに海にこだわって俺を殺したいか!


そこまで俺に溺死してほしいのか!


言ってみろ! 神様!


こんなのありかよ、チクショォォォ!


俺は海に近づくべきじゃないのか?


マジで……。


やってらんね~……。

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