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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第四章:新大陸の定め編
50/106

十話

俺は傭兵兼使用人として雇われてから、ほとんど自室で食事をとっていた。


酒を飲んで馬鹿騒ぎをする傭兵達とは、俺が一緒にいたくない。


使用人仲間達は、俺が傭兵も兼ねている事を知っており、気を遣われ過ぎるので同じ場での食事はこっちまで疲れてしまう。


だから、多少味気なくても一人で食べる。


まあ、慣れてるからいいんだけどね。


何よりも、一人なら山積みのなぞ解きを、誰にも邪魔されずにじっくり考えられる。


敵側から来てくれると楽なんだけどな~。


『アホ……』


誰がアホだ!


でも、あんまりノンビリも出来ないんだよな~。


リリス達怒らせると、殺されそうだしな~。


はあ~……。



えっ?


いやあの、これ?


ええ?


どうなってんのこれ?


『……予想外じゃが、糸口が掴めるかもしれんな』


その前に……。


人をアホ呼ばわりした事! 謝んなさいよ~!


敵の方から来てるじゃんか!


謝んなさいよ~! 俺に!


『ほれ、早く行かんと犠牲者が出るぞ』


くっ!


後で謝れよ! この野郎!


珍しくその日は二度目の襲撃があった。


それも、何時もの気配意外に一つだけ違う魔力を感じる。


強い魔力だが、なにか新しい展開にはなるだろう。


あれ? なんで玄関に気配が近付いてんの?


『見てみるしかあるまい』


ですよね~……。


****


「なんだ! お前は!」


「取り押さえろ!」


「きゃぁぁぁ!」


ええ~……。


何してたんだよ……。


玄関ホールに行くと、白いフードをかぶった男の周りに、何時もの昆虫が三匹。


傭兵達は、その昆虫に襲われている。


何故か玄関ホールにいるお嬢様二人と、数人の使用人が階段のところで、へたり込んでいる。


お前ら……。


敵の狙いはお嬢様なんだから、とっとと逃がしとけよ!


使えない奴らだ……。


「ひぃぃ!」


傭兵達が昆虫に襲われ、逃げ始めやがった。


その中の一人は転んで、小便まで漏らしてるよ……。


大の大人が情けない……。


高々でかいカマキリくらいで……。


さてと!


<ホークスラッシュ>


俺は三日月状の衝撃波を三発放つ。


衝撃波をカマキリ達が避け、傭兵達が安全圏へと逃れられた。


これはただの牽制だ。


「おおお! レイ! 頼む!」


オルコットさんの叫びに頷いた俺は、階段の上からフード野郎の前に降り立った。


フード野郎が俺を指さすと同時に、カマキリ達が迫ってくる。


無駄だって……。


昼間の襲撃で、動きは見切ってるんだから。


三匹の首を、昼間と同様に切り落とした。


確かに速いけど、フェイントも何もない動きが、そう何回も通じるわけないだろうが。


さて、このバカを殴り倒して情報を聞くか。


『気を抜きすぎるでないぞ!』


分かってる……。


かなり魔力が強いな……。


舐めていいほどの相手じゃない。


『相変わらず、戦闘だけは頭が回るのぉ』


だけって言うな!


「なるほど……。これじゃあ、いくらしもべを差し向けても効果がないわけだ」


男がフードをとる。


何だ? こいつ?


髪が真っ白だ……。


でも顔は若いよな……。


生まれつき? 遺伝とかか?


「その剣は、かなり特別な物のようだね」


相手にペースを持って行かれたくない。


ここは無視だな。


「てめぇの目的を喋ってもらおうか」


「ふ~ん。なるほど、君が僕の試練ってわけだね?」


さっきから何一人で納得してるんだ? この馬鹿は!


「喋りたくないなら……」


「ああ、そんなに聞きたいのかい? かまわないよ。世界をメシア様の導き通りにするのが、僕の目的さ!」


はぁ~?


何言ってんのこいつ?


「なんだい? 君は俺の試練なのに、何も知らないのかい?」


お前の言ってる事が、さっぱりわからん!


「ふぅ……。僕が全部説明しないといけないのかい? 面倒だな。僕の計画だけで、いいだろう? どうせ、君はここで使命を終えるんだし」


こいつ……。


むかつく!


『見た目がか?』


イケメン嫌い!


いやいや……。


態度が一番むかつくんだよ!


イケメンなのもムカつくけど!


このタイミングで、しょうもない合いの手入れるな!


「僕の計画には魔力の強い女性が必要なんだよ。だから、そこのお嬢さんの一人を貰い受けたい。二人いるし、一人くらいいいだろ?」


はいそうですかって、言うわけないだろうが!


間違いない! こいつ馬鹿だ!


魔剣を両手でつかんだ俺は、正眼に構える。


「ふぅぅん……。引いてくれそうにないね。ま~、当然か」


分かってるなら言うな! 馬鹿!


「君のせいでしもべが半分になってしまったんだよ。だから……」


なんだ!?


俺は勘だけで、後ろに跳びのいた……。


俺の後ろにあった階段が、崩れ落ちる……。


おいおい……。


何も見えなかったぞ。


「君は僕が始末するよ。しかし、僕の<糸切り>を避けるなんてさすがだねぇ」


涼しい顔をしてやがる。


てか! ジジィ! あれ!


『……そんな馬鹿な』


何だ?


オリハルコンってのは露天かなんかで、バーゲンセールでもしてるもんなのか?


なんであの馬鹿が、オリハルコンの剣なんて持ってるんだよ!


『伝説の金属のはず……』


はず、じゃねぇぇよ!


目の前にあるじゃんか!


てか、なんで涼しい顔して人殺そうとする奴に限って、持ってんだよ!


ずるいぞ!


売ってる場所教えろ!


「さて、じゃあ……。本気で行くよ!」


馬鹿が俺に向かって、剣を数回振るう。


それほど速くはない……。


でもなんかやばい!


直感からの警告に従って、俺は再びその場所から跳びのいた。


俺の近くに居た傭兵と柱が、切断された……。


何あれ!?


攻撃が見えもしないんだけど!


『衝撃波か?』


それなら俺は感知できるの!


何も感じないの!


またか! またチート武器か!


「驚いた……。僕の攻撃を二回かわしたのは、君が初めてだよ」


見えてませんけどね!


「んっ? 君のその髪は……」


はっ?


髪?


「なるほど、君は選ばれなかったって訳だ。 彼が言っていた試練と言うのは、こういう事か」


だから!


さっきから何一人で納得してんだ! このバカ!


<ホークスラッシュ>


俺は一人で頷いている馬鹿に、衝撃波を二発放った。


しかし、俺の放った衝撃波は馬鹿が剣を一降りするだけで、消し飛んだ。


どうする!?


むやみに近づいて避け損なえば、一巻の終りだ。


どうすればいい?


こっちの遠隔攻撃は斬り裂かれた……。


斬り裂かれる?


見えない攻撃……。


『試してみるか?』


ああ!


<カノン>乱れ撃ち!


俺は衝撃砲を、碁盤の目の様に等間隔で放った。


「無駄だよ」


奴は剣を数度振るい、それらを消し飛ばした。


分かったぞ!


奴一降りで消えたのは、三つ。


原理は全くわからんが、見えない斬撃も俺の衝撃波と似た軌道をたどっている。


俺は自分の衝撃波で、奴の斬撃の軌道を読み取ることに成功した。


一度剣を振れば、細長い横幅三メートルほどの何かが飛んでくるんだ。


距離をおいても、その大きさは変化しない。


見えなくても、軌道さえ読めれば問題ない!


こいつがさえ倒せばお嬢様達も、もう襲われないはずだ!


行くぞ!


『うむ!』


どんなもんかが分かれば怖くない!


前に攻略した新型の銃と同じだ!


出所を見てれば避けられる!


俺は、馬鹿に向かって走りだす。


「そっ……馬鹿な!」


馬鹿はテメーだ!


見えない斬撃を避け、間合いを詰める。


俺の動きに反応してるって事は、馬鹿の戦闘力もかなり高いんだろう。


だが、しかぁぁし!


俺のが速い!


鈍い衝撃音が、玄関ホール内に響く。


嘘だろ!


俺の斬撃が、何かに阻まれた。


見た事もない、真っ白い魔法障壁。


この馬鹿が咄嗟に出したのか?


魔剣の軌道をずらされた。


並の障壁じゃない。


「があああ!」


何とか、魔剣の先が馬鹿の片目にヒットしたが、致命傷ではない!


やばい!


急いでその場から上空へ跳び上がったが、むちゃくちゃに剣を振るう馬鹿の一撃が、足にヒットしてしまった。


左足のひざから下が無くなった。


くっそぉぉぉぉ!


なんだ! あの防御!


『分からん!』


魔力の無効化防御か?


『いや! 魔剣と同等の魔力で相殺された感じじゃった!』


マジかよ!


攻撃も防御も反則級かよ!


ジジィ! あの攻撃にフィールドは無効みたいだから、回復に全部回してくれ!


『承知した!』


片足で、何処まで避けられる?


ちょっと、やばいな……。


「ああああ! 僕の! 僕の目がぁぁぁぁぁ!」


って……えっ?


血が流れ出す片目を押さえて、馬鹿がもだえ苦しんでる。


何?


オリハルコンは、根性無し以外もてないのか?


まぁ、回復時間が稼げるか……。


馬鹿がもだえている間も、俺の左膝部分から煙が上がり、失った部分が再生されていく。


勝てるかな?


「くっそ! くそぉぉぉぉぉ!」


えっ!?


このバカ!


苦し紛れか、剣を振り回して斬撃を乱射してきやがった!


あれは!


間に合えぇぇぇぇぇぇぇぇ!


斬撃の軌道上に、彼女がいた……。


俺は右足を全力で蹴りだし、彼女を突き飛ばす。


ぐっ!


彼女を押した右腕が、俺の身体から離れ、宙を舞う。


斬り落とされちまった。


馬鹿が! なんて事するんだ!


俺に突き飛ばされた彼女が立ち上がり、俺に駆け寄ってくる。


「なんで?」


ええ? まず第一声がそれ?


「当然だろうが! お前は怪我してないか、オリビア?」


彼女は震えながら頷く。


あああ!


馬鹿が、馬に乗って逃げようとしてる!


待て! このバカ!


って、はい?


なんで?


魔力切れ?


おい! ジジィ!


回復が止まってるぞ!


……。


ジジィ!


いや、マジで!


あれ?


何時もならすぐに止まる流血が、全く止まらない。


どうなってるんだ?


やばいって! 出血多量で意識無くなる!


死ぬ!


もしかして……。


俺は、魔剣を握ったままの右腕まで這っていくと、傷口同士をくっつけた。


その瞬間から煙が傷口から上がり、回復が始まる。


やばかった……。


『わしも焦ったぞ……』


俺の方が焦ったわ!


なに? 紋章ごと切り離されるとこうなるの?


『そうみたいじゃ……』


みたいって……。


もしかして。


『わしも初経験じゃ……』


それぐらい知ってろよ! 死にかけてるじゃないですか!


やばかった~。


てか、逃げてくれて助かった~。


馬鹿でよかった~。


『今後は気をつけんとな』


そうだね~。


死んじゃうもんね~。


オリビアは座り込んでしまっており、俺の隣で相変わらず震えている。


「心配するな。すぐ回復するから」


オリビアは瞳に涙を溜めて、ただ頷いた。


なんだ、ちゃんと感情があるじゃんか。


「ちょっと! どいて! 大丈夫、レイ?」


ビクトリアお嬢様がオリビアを突き飛ばし、俺の手を握る。


いだだだだ!


触るな! 馬鹿!


そこまだ回復中なんだよ!


右腕取れたら死んじゃうんだよ!


「お嬢様、そこはまだ回復中なので……」


「あ! ごめんなさい!」


「回復できるのですね?」


ソフィアお嬢様も、俺の隣に座る。


「もうしばらくで……」


二人はみるみる生えてくる左足を見て、安心したようだ。


「これも魔剣の力?」


「そうです。即死を免れさえすれば、何とかなる事が多いです」


「そう、よかったわ……」


ジジィが今回は真面目に働いたので、数分で回復した。


そして、問題なく動く所を見せる。


お嬢様二人と、少し離れた場所でまだ俺を見ているオリビアにも……。


くそ~……。


でも、元凶の馬鹿をとり逃した。


『仕方あるまい……』


「俺は服を着替えます。お二人も部屋でお休み下さい」


「もう、大丈夫なのですか?」


「看病とか、いるんじゃない?」


はぁ?


「必要御座いません。では、俺は部屋に戻りますので」


今日は馬車の中で散々な目にあったんだ。


バカ姉妹には、これ以上付き合えん!


****


俺は補助階段から、二階にある自分の部屋に戻り、服を着替えた。


ジジィ、奴の技が分かった。


『分かったのか?』


ああ……。


斬られて見て分かった。


多分、昔師匠が言っていた空間ごと斬るって技だと思う。


『なるほど……』


てか! やっぱりオリハルコンずるい!


その技は剣を極めた、師匠みたいな達人中の達人にしか使えないはずなのに!


何であんな馬鹿が使えるんだよ!


ふざけんなよ!


むかつく!


まあ、いいや……。


次あったら殺す!


殺しきる!


****


着替え終えた俺は、斬り落とされた自分の左足の処理を忘れていた事を思い出し、部屋を出た。


自分の左足を処理するって……。


シュールすぎやしないかい?


『仕方あるまい。それよりも魔力を使いすぎたのでわしは眠るぞ?』


了解。


さて……。


部屋で一休みするか。


「お前いくつだよ!」


「ははははっ!」


「恥ずかしぃぃ!」


「うるせぇぇぇ! 殺すぞ!」


傭兵達の待機室から、笑い声が聞こえてくる。


どうやら、さっきお漏らしをした傭兵が、馬鹿にされているようだ。


まぁ……。


俺も仲間なら馬鹿にするかな。


「おいおい! 何処行くんだよ?」


「うるせぇ! 気晴らしだ!」


馬鹿にされていた男が、部屋から出てきた。


俺は何時もの癖で、気配を隠してしまった。


隠れなくても良かったんだが……。


気晴らしって何するんだろ?


ちょっと興味あるな。


大人の店とかに行くなら、ついていこうかな~。


****


「おい! 来い!」


はっ?


男は廊下を歩いていたオリビアの腕をつかむと、昨日の部屋へ連れ込んだ。


なんだよ、それ?


「へへへ……。今日は激しくしてやるからな!」


おいおいおい!


何してるんだ!


えっ? あの不細工の彼女なの?


違うよね?


どう言う事?


どうすんの? 俺?


ここで飛び込んでいって、二人が恋人同士だった場合は馬鹿だよね?


でも……。


いや……。


どうしよう……。


ええい! 男は度胸!


俺が鍵の閉まった扉を蹴破ると、ベッドに寝かされたオリビアは、服を破られてい。


そして、オリビアに覆いかぶさるように小便男が。


「なっ! レイ……」


俺は、その光景を黙って見つめる。


「お……俺が先だぜ! 順番だからな!」


う~ん……。


うん! 助けて大丈夫だ!


俺は殺気を小便男に飛ばす。


「ひっ! あ……あぁ……が……はひ……」


呼吸困難になった小便男に、俺は低い声で呟いた。


「俺がいなきゃ死んでたんだ。どの道今日が命日だったんだよ」


真っ青な顔で、小便男は涙を流し始めた。


そこで、殺気を和らげる。


「他の奴にも言っとけ。必要なら殺すって……」


これで正解のはずだ。


多分だけど……。


オリビアは、またあの何もない目で俺を見つめる。


そして、機械的な声で呟く。


その声は、俺の胸を強く締め付ける。


「……どうぞ」


無理に聞くってのも違うよな……。


「えっ?」


俺は、オリビアに手を差し出していた。


「きゃ!」


その手を訳も分からずに握ったオリビアを、起き上がらせる。


そして、上着をかける。


元の服は、さっきのお漏らし野郎に破られてるからな。


キョトンとするオリビアの手を引いて、自分の部屋に連れ込む。


その光景を見られているとは、考えもしなかった。


結構、脳のオーバーヒートギリギリの事してるからね!


心臓が破裂するんじゃないかと思うくらい、ドキドキしてるよ。


なんだかんだで、免疫ありませんからね!


「湯船に湯を溜めて入れ」


俺は自分の部屋の風呂場に、タオル等洗面用具一式を入れてから、オリビアを押し込むと部屋を出た。


その足でクリーニングが終わった使用人の服が置かれ手いる場所に向かい、女性用を一着取ると部屋に戻る。


俺も使用人の仕事してるから、場所は知ってる。


案の定というか、俺の部屋の前に、お漏らし野郎が仲間三人と待っていた。


鍵閉めといて正解だったな。


この根性無しにも、プライドはあるのか。


「おい! あんまり調子に乗るなよ!」


あぁぁぁぁ……。


ブチンときた……。


「あ……ああああ」


俺が本気の殺気を放ち、黒いオーラを纏うと、馬鹿共はその場に固まる。


瞬殺してもいいが、それだと俺の気が済まないんでな。


俺の気当たりは、今やモンスターでも止めるほど強くなっている。


馬鹿共にゆっくり近づき、一人一人のわき腹を殴り、骨を砕く。


悲鳴すら上げられない馬鹿達は、全員涙を流す。


謝罪すら許さん!


お漏らし野郎以外の膝を蹴って、本来曲がらない方に曲げる。


そこで一度殺気を緩めた。


それでも、まともに動けるほどは緩めていない。


その場に全員が倒れ込むだけだ。


お漏らし野郎の髪をつかむと、最後の警告をする。


「次に、お前らの顔が俺の視界に入れば命がないと思え」


声も出せない状態で、馬鹿共はただ泣きながら頷く。


****


四人をつかむと、そのまま荷物のように運び、階段の無くなった二階から一階へ投げ捨てた。


「お前の足が無事なのは、そいつらを運ばせるためだ。拒否すればそれだけで殺す」


それだけ言うと殺気を消した。


もちろん、痛みと恐怖で四人が号泣をし始めた。


気持ちの悪い阿鼻叫喚だ……。


「どうしたんだ!?」


騒ぎに気がついたオルコットさんが、部屋を飛び出してきた。


「あいつらクビして下さい。金も払わなくていいです」


「えっ? あの……」


「お願いします……」


「わっ! わかった!」


俺の鋭くなった目つきに気が付いたオルコットさんが、焦りながらも了解してくれた。


あぁぁぁ……気分悪い!


殺しても良かったかな……。


クソどもが!


俺は部屋の前に置いておいた服を拾い、鍵を開けて室内に入る。


そして、バスルームの前に、その服を置いた。


しかし……。


勢いでやっちゃったけども!


どうすんの!? 俺!?


ノープランですよ?


この後どうすればいいの?


どうなるの? 俺?


う~ん……。


やっちゃった?


俺がベッドに座り悩んでいると、オリビアが風呂場から出てきた。


ええ~!


ちょ! ええ~!


服着てきなさいよ!


せっかく用意したのに!


なんでタオルだけ巻いて出てくるの!


何してんの? この子!


相変わらず、生気のない目で俺の前に立ってるよ。


何してんのぉぉぉぉぉぉ!


俺! 免疫ないんだってば!


ちょ! 助けて~!


じっと目を見てくるよ!


凝視してくるよ!


え~と……。


「身体が冷えるぞ?」


何言ってんの? 俺?


てか、何言えばいいの~!


しばらく俺を見ていたオリビアは、ベッドに仰向けになり布団をかぶった。


何してんの? この子!


違うよ!


服着なさいよ!


馬鹿なのか? 馬鹿なんだな?


勘弁して下さいよ~!


ああああ……。


胃が痛い……。


メッチャ痛い……。


やばい! やばいです! これ!


多分俺……。


血を吐いて死ぬ!


お前これ!


どんな殺し方!?


物理的に死なないからって……。


精神的に殺そうとしてくんな! 馬鹿!


なんかここ最近で一番破壊力あるわ!


やめようぜ~……。


いじめカッコ悪いぞ~。神様よぉ……。


ああ……。


なんだ? この拷問は!


俺がオリビアをちらりと見ると、彼女はビクッと反応する。


もちろん俺はすごい速さで目線を戻すさ……。


てか、あれ?


オリビアの目が死んでなかったような……。


確認するか?


いやいやいや……。


もっかい目が合ったら、俺が死ぬ!


多分胃に穴があいて死ぬ!


なに? こいつこのままここで寝る気?


まあ、俺は床でも眠れるけど……。


いや! 違う!


服着て、部屋に帰んなさいよぉぉ!


困ってるじゃないのぉ! 俺が!


なんかちょっと泣きそうじゃんか! 俺が!


ヤベ……。


胃酸が逆流してきた……。


吐きそう……。


う~ん……。


でも、死に方としてはましな方か?


いやいやいや!


何考えてんだ! 俺は!


胃に穴があいて死ぬって、絶対苦しいから!


この空間から動いていいかどうかすら判断出来んが、ここに居たくない!


ベランダで寝るか?


いや! 流石に凍死する!


それ以前に、この部屋ベランダない!


ああああああぁぁぁ!


どうすりゃいいの! 俺!


「……なんで?」


はっ?


「なんで私なんかの事で、そこまで……」


散々黙ってた挙句に、それ!?


う~ん……。


「俺はやりたい事をやっただけだ……」


これはいい答えじゃない?


どうなの!?


今、自分を自分で褒めたいんだけど……。


返事がない!?


ミスった!?


何がダメなんだ! こんちくしょぉぉぉ!


ええぇぇぇ……。


なんかすすり泣く声が、聞こえてくるんだけど~。


何が悪いの?


神様よ! これは、ないわ!


なんかもう! 普通に殺せよ!


胃に穴をあけて殺すって!


どんだけ陰湿なんだよ!


「私は生まれてきちゃいけなかったの! 私は何も望んじゃいけないの! お姉さま達に尽くさないと生きてちゃいけないの! なんで邪魔するのよ! なんで優しくするのよ……」


なんかキレられた!


もう、何言ってるか分かんない!


女泣かしてまった!


イィィィィィヤァァァァァァァ!


たぁぁぁぁぁぁぁぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇ!


****


オリビアが泣きやむまで……。


約十分……。


ええ、そうです……。


拷問ですよ!


もうね! 一時間以上に感じましたよ!


いいから……。


誰でもいいから助けなさいよ! 速やかにぃぃぃぃ!


「……貴方はどこまで知ってるんですか?」


ああ、やっと泣きやんだ。


「多少の推測はしたが……。何も知らない」


「えっ!? 本当に?」


誰が嘘つくか! この馬鹿っ子!


「信じなくてもいいが、嘘をついた覚えはない」


それから、オリビアはポツリポツリと、自分の事を話し始めた。


予想通り、お嬢様達とは姉妹だった。


ただ、オリビアだけは町長の娘ではない。


母親の離婚後に生まれた、異父姉妹だ。


オリビアの父親は、彼女が四歳のころに流行病にかかり死んだらしい。


行くあてのない母親は、着の身着のままで町長を頼ったそうだ。


ただ、そこから運悪く母親も流行病を発症し、翌年には亡くなった。


それから行くあてのないオリビアは、ここの使用人として働き始めたらしい。


五歳の子供が……。


俺より不幸じゃないか……。


なんだかんだで俺は、アドルフ様がやさしくしてくれたからね。


毎日毎日、姉であるお嬢様の為に尽くせと言い聞かせて育てられてらしい。


最悪じゃないか……。


そりゃおかしくもなるよな。


その話の最中も所々涙声になっているところから、多分虐められて育ったんだろうなぁぁ。


俺より不幸な奴、始めてみたよ。


ビクトリアお嬢様って性格悪いから、虐められたんだろうな~。


聞いてるこっちまで鬱になってくるよ。


「そして、去年私が十八になったころ、屋敷の警備をしていた傭兵達の話を聞いてしまったの」


それだけでは、分かりませんよ。


「お姉さま達を襲おうって言う話を……」


性格はともかく、お嬢様達美人だからねぇぇ……。


だいたい、オチがよめた……。


自分を差し出したのね。


毎日、呪詛のようにお嬢様達に尽くせって育てられたからね~……。


「それから噂を聞いた人が、部屋に来るようになって……」


また、泣き始めたよ……。


勘弁してくれよ……。


「くる日もくる日も、好きでもない男達に……」


そこで、オリビアは泣き崩れた。


タオルとれて胸見えてますよ?


って……あれ?


俺! 何してんの? 俺ぇぇぇぇぇぇ!


身体が勝手に動く!


何? 何が起こってるの?


ストップ! 俺!


ハウス! 俺!


ここで動いてまた痴漢呼ばわりは嫌だぁぁぁぁぁl!


駄ぁぁぁぁぁ目だぁぁぁぁぁぁ!


止まらない!


俺は、オリビアの頭を抱えていた。


やってしまったぁぁぁぁぁ!


もう、どうしようもありません!


だって……。


俺なんかこの子、好きになっちゃってるもん!


この子に悪さした馬鹿を、全員殺して行きたいくらい好きだもん!


必要ならお嬢様達も殺せるくらい好きですわ!


理由?


分かりません!


適当にそっちで見繕って下さい!


ほれみろ! オリビアが俺の胸で本泣きしてるよ!


ああ、もう!


大好きだ! こんちくしょぉぉぉぉぉ!


可愛いじゃねぇぇかっ! バカヤロー!


****


俺はオリビアが泣きやむまでただ抱きしめた。


涙と鼻水でどろどろの顔押した彼女を……。


それでも可愛いと思えてしまうんですもの。


つか、こいつびっくりするくらい……好きなんですよぉぉぉぉ!


「なんで? 貴方は私になんで優しくするの? なんで私を命がけで助けたの?」


「俺の名前はレイだ……」


「えっ?」


「どうやら俺は、お前を好きになったみたいだ……」


「こんな……汚れた私を?」


「別に汚れてないんじゃないか? 俺には関係ない……」


「私なんかでいいの?」


「俺はお前じゃなきゃ嫌だ。もし嫌じゃなかったら、俺と……。頼むから泣かないでくれよ……」


「だって……だって」


「出来れば、今後は可能な限り笑ってほしいんだが……」


「あなたは……ずるい」


えっ?


もしかして、これでふられるの?


ヤベェェ……。


俺ならあり得る……。


「そんな事言われたら、私もあなたを好きになってしまったじゃないですか……」


えええぇぇぇ!


どんな会話!?


文章! 無茶苦茶!


あ……。


お前こそ反則だ……。


涙を流しながら笑うオリビアの笑顔は……。


オリハルコンより反則だよ……。


やっと泣きやんでくれたオリビアにチリ紙を渡して、バスルームから服をとって戻る。


ついでに自分も服を着替える。


オリビアの涙で、胸元がビチョビチョですからね。


「ねえ? レイ?」


「なに?」


「これ……」


「間違えた……」


彼女が着た服を見ると……。


すんげぇぇ、ブカブカ。


Lサイズ取って来ちゃったよ。


しまらないね、俺って奴は。


「ぷっ! あははははっ!」


なんだか可笑しくなった俺達は、二人で笑った。


そう言えば、こんなに笑うのは何年振りだろうか?


****


『(ふむ……。ここは二人きりにするべきじゃろうな……。)』


本気で殺気を出した時点で、ジジィが目覚めていた事を俺は知らない。


恥ずかしいわ! ボケ!


それから、俺達はお互いの話をした。


ほとんど不幸合戦だったけどね……。


それでも人生の中で最良の時間だった。


そして、手を握り合って眠った。


こんな幸せな気持ちで眠るのは、初めてじゃないだろうか?


えっ? それだけかって?


それだけですよ?


青い?


俺まだ十七歳だから!


未成年ですから!


実際に若いから!


文句あるならこっち来い! 斬り殺してやる!


『こいつはよく何かの電波を拾うな……。病気か?』


誰が病気だ!


『なっ! なんで会話できるんじゃ? 起きておるのか?』


企業秘密です。


『そんな馬鹿な!』


てか、俺にも分かんないんだけどねぇ。


寝てるからじゃねぇの。


起きたら忘れるだろうよ。


『夢オチと言うやつか?』


そうそ……違う!


それだと、オリビアの事全部夢になる!


それが夢なら、俺は間違いなく病気ですよ!


認めますよ!


でも、違うから!


それより!


彼女できたぞ! ジジィ!


『わかっておる……』


なんだかジジィの声がやさしかった……。


****


翌朝、オリビアよりも少しだけ早く目が覚めた。


寝顔がこれまた一段とかわいい……。


黙ってキスを……。


「んっ……おはよう」


目覚めやがった。


「ああ……」


俺は、昨晩風呂に入っていない事を思い出し、シャワーを浴びる。


さて、やることの目処がついた。


一つ目は、昨日の馬鹿を見つけ出して倒す。


二つ目は、町長を脅してでもオリビアを貰っていく。


三つ目は、カーラ達に合流。


この大陸に携帯電話が無いのが、痛いよなぁぁ……。


カーラ達と連絡取れない。


いや、それ以前にオリビアを連れてカーラ達と、合流すると……。


俺……殺されるんじゃね?


最低でも、三人からフルボッコにされるんじゃね?


じゃね? っていうか、間違いなく殺されるよね?


よく考えると最悪だ!


運も残ってないし!


やってらんね~……。

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