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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第三章:帝国と陰謀編
28/106

一話

歌?


母さん達が歌ってる。


俺や父さん達は、焚き火にあたりながらそれを聞いている。


俺は何をしていたっけ?


まぁ、どうでもいいか。


今は気持ちいいこの場所で……。


あれ? みんなどこに行くの?


俺も行く!


待って! なんで? 体が動かないんだ!


待ってよ! 置いていかないで!


父さん! 母さん!


待って……。待ってよ……。


置いていかないでよ……。


セシルさん……。


オーナー……。


俺もそっちに行きたい……。


俺の……。


俺の居場所……。


俺のいていい場所……。


****


「……んん……」


ここは……。


俺は眠ってたのか?


そうだ! 成層圏から落下して……。


おや? これってもしかして……。


俺死んでないか?


あれだけの苦痛味わったのに!


なに? あれは只の死ぬ前の嫌がらせだったの?


目の前に、羽がはえた可愛い女の子がいるんですけど!


これって俺を迎えにきた天使だよね?


俺、死んでるよねぇぇぇぇぇぇ!!


お迎え来ちゃったよ!


ジジィちゃんと仕事しなさいよ! 後継者死んじゃってますよ!


いいんですか? これぇぇぇぇぇぇ!!


……。


こうなればあれだよね……。


天使の胸揉んでもいいよね。


いや! 揉むべきだ! うん! 揉みしだく!


だって! この天使ちゃん可愛いもん!


彼女出来なかったんだから……。


これはもう仕方ない!


きっと天使だって許してくれるはずだ!


『地獄に堕ちるぞ、エロガキ……』


うっせ! ジジィ!


ん? なんでジジィがついてきてるんだ?



うお! 天使も爺さんになった!


天使ってもしかして、心が読めるのか? 胸を揉もうとしたことがばれた?


しまった! チェンジ!


最後くらい女の子をお願いします!


チェンジィィィィィ!


もう変なことしないからぁぁぁぁぁ!


『腐っとる……』


だから! なんでついてきてんだよ! ジジィ!


ああ……。


爺さん嫌だぁ……。 女の子がいい……。


『腐りきっとる。よく見ろ……』


えっ? ああ!


さっきの可愛い女の子が、戻ってきてくれたぁぁぁ!


はぁ、よかった。


『違うわ! 馬鹿もん!』


誰が馬鹿だ! 折るぞ! ジジィ!


「よかった~……。これお粥……。食べられる?」


あ~れ~?


俺もしかして……。


『生きとるわい!』


でも、天使……。


『有翼族じゃ……』


あ……。あはっ。


あははははははっ!


わ……わわ……分かってたさ。


『嘘もそこまでいくと清々しいのぉ』


「あの……。大丈夫? 言葉わかる?」


天使ちゃんが、俺の顔を覗きこんできた。


めっちゃ可愛い!


「大丈……痛ったぁぁぁぁぁぁ!!」


起き上がろうとした俺は、全身からの痛みで叫んでしまった。


「まだ動いちゃ駄目! 生きてるのが不思議なくらいの重症なんだよ?」


分かってる……。


今、身に染みて分かってる……。


「あの……。え~……。だ……大丈夫……」


「よかった~……。五日も目を覚まさないから心配したんだよ~」


「あっ……君が助けてくれたの? ありがとう」


「えへへ~……。何か欲しいものある? お粥食べる?」


や……優しい……。


可愛い……。


「じゃあ、水を……」


俺は痛みを我慢して、上半身を起こした。


「無理しないで! じい! 水お願い!」


「かしこまりました、お嬢様……」


羽の生えた爺さんが、明かりの漏れる穴から梯子で下りていく。


ここは……何か懐かしい匂いが……。


『屋根裏部屋じゃ……』


ああ……。今回もこの扱いか……。


でも、手当てはしてくれてる……。


体中包帯だらけで、両足にはギブス、右腕にも添え木か。


酷いもんだなぁ。


うん? 火傷した場所に、薬を塗ってくれたのか?


くっさ!


『人の好意を、お前は……』


だって、臭いよ?


『我慢せい!』


「私、リリム! あなたの名前は~?」


おっと……。


天使ちゃんはリリムってのか。


名前も可愛いな。


「俺はレイ……。あの……、ありがとう。助けてくれて……」


「レイだね! 宜しくね!」


可愛い!


羽を軽くパタパタしながら笑ってくれてる!


人間の彼女はもう無理だから、リリムちゃんで行こう!


あれ……?


でも……有翼族って……。


『魔族じゃのぉ……』


ですよね~……。


「リリムちゃん……、ここは何処なのかな?」


「リリムでいいよ! ここはバーゴ帝国にある、有翼族の村の、じいの家の屋根裏だよ!」


そうだよね~。


後、リリム何気に喋り方馬鹿っぽいね。


「どうぞ……、お嬢様」


「ありがとう~! じい! はい!」


俺はリリムから差し出されたコップを受け取り、水を一口飲んだ。


うっ! おぉぉぉ!


痛っっっっったい……。


『まぁ、体がこれだけボロボロなんじゃ……』


水飲むだけで激痛が走るって、どんだけだよ!


いって~……。


「レイは何族の人~? バンパイア? 人間? 魔王様の隠し子?」


何いってんだ?


何かを勘違いしてるだろうな。


でも、魔族の前で不用意に人間なんていうと、すまないし……。


「あ~……えっと……」


どうする? ジジィ!


『……』


なんか言えや!


「その紋章は王家の紋章でしょ~? バーゴ様の隠し子だったりするの?」


さっきから何言ってるんだ? この馬鹿女は……。


『彼女にしたいとか言っておった命の恩人に……』


それとこれとは、また別問題です!


彼女にするなら、頭の軽い子は歓迎だけど、馬鹿過ぎるのは問題だ!


『それが彼女の一度も出来た事がない者の言う言葉か?』


おっと……。痛いところを……。


王水なら、ミスリルって溶けるかな?


『いちいちわしに殺意を抱くな! お前はえり好みする立場にないじゃろうが!』


だって~……。


かなり馬鹿っぽいよ?


うん?


俺の右腕に何かついてるのか?


リリムが凝視してきてる。


おんやぁぁ? これ何? 刺青?


まさか! 罪人の印でも寝てる間に刻まれたのか?


『馬鹿者! それが魔剣の正統後継者の証じゃ!』


はっ?


何でいまさら……。


あっ! そうか、魔力を使い切ったのか……。


『そうじゃ。もう少し回復してから言うつもりじゃったが……』


分かってる。


俺は父さんの魂で助かったんだな?


『そう言う事じゃ……』


俺はまだ、父さんに守られていたんだ。


二度目にジジィの記憶を見て、知った。


魔剣との契約は、自分自身の魂を引き換えに行われる。


今までの後継者のほとんどは、自分の命を使い切り死んでいった。


でも俺は、父さんの魂で今までは使えていただけ……。


魔剣の正統な後継者は、父さんだったんだろう。


俺は本当に手違いで魔剣を使えていたにすぎない。


魂を擁護されながら戦っていたのに、命をかけるなんて……。


俺は本当に、馬鹿なガキだ。


今回で父さんからの魂の遺産は尽きた。


だから俺に、魂を共有する紋章が刻まれたんだ。


でも……。これさ~。


バーゴ帝国の紋章に、そっくりなんだけど……。


『まぁ……それはそうじゃろう』


どう言う……。


「レイ? 大丈夫?」


うお! リリム近い! 顔近い!


お前ガードゆるすぎるぞ!


「ね~、レイ?」


「あ……、ごめん。ちょっとぼーっとなってた」


「まだ体痛いよね? 大丈夫?」


そんな泣きそうな顔で見つめないでくれ。


キスしてしまいそうだ。


顔が近いからね!


『煩悩の塊じゃな……』


思春期の男子の半分は、下心でできています!


ほっていてくれ!


「お嬢様……。人間なのでしょう、彼は」


爺さん!


別のこと考えてた俺が悪いけど、それをさらっと言うな!


「やっぱりそうか~……」


リリムに殺されるとかありえない!


有翼族は魔族の中でも、戦闘力がかなり高い種族だ。


今の俺では、抵抗すらできずに殺されるだろう。


やっばい……。


散々引っ張って、こんなバッドエンド?


嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


「でも、困ってる人は助けないと~!」


おう?


リリムが笑顔になった。


おお……。セーフ……。


リリムは、本当にいい子なんだな。


『そんな子を馬鹿呼ばわりとは……』


自分の心に、嘘はつけないものさ……。


『格好をつけるタイミングが、無茶苦茶しぎるわ』


もう、うっさいよ。ジジィ。


「じゃあ! じい! 後はお願いね~。私は……」


「分かっております。では、お気をつけて……」


「う~ん! じゃあ、レイ! 早くよくなってね!」


リリムは帰るのか……。


付きっきりで介護してほしかったなぁ。


****


リリムがいなくなると、毛糸の帽子をかぶっている羽の生えた爺さんが、話しかけてきた。


「リリム様に感謝するんじゃぞ。人間よ……」


うわっ……。


恩着せがましいな……。


「お嬢様が、村の皆や族長のリリス様に隠れて、ここへお主を運び込んだのじゃ」


「そうなのか……」


「わしとて唯の人間なら無理にでもリリム様を説得して、捨てておくつもりじゃったが、お主何者じゃ?」


何言ってんだ! この爺さん!


俺見殺しにされかけてるじゃないの!


体治ったら軽く刺していくか……。


『仕方あるまい……。有翼族と人間は……』


ルナリスで資料読んだから知ってるよ。


有翼族の血は人間にとって病気の特効薬になるから、大勢の有翼族が人間に……。


『そして、有翼族は魔族についたわけじゃ』


まあ、好かれてるはずないよね。


「答えんか……。まぁ、もう一生まともには動けん体じゃ……。その紋章のことと、魔力の事……。喋る気になれば喋れ……」


そういうと、爺さんはお粥以外に果物やパンを置いて、梯子を下りて行った……。


さて……。


ジジィ、どう言うことだ? 俺が魔王?


『初代の魔剣継承者は、魔王になった……』


ああ……。


なんとなく読めてきたぞ……。


魔王って確かバンパイアだったよな?


『そうじゃ、名はバラゴ……』


魔族の帝国は、魔王が変わるたびに帝国の名前が変わっている。


確か建国時はバラゴ帝国……だったと思う。多分。


『唯一生きたままわしを手放した者じゃ……』


バンパイアの寿命は大体五百年くらいだが、初代は確か二百年で死んでいたな。


『自身の魂を燃やし、バラゴは邪神を倒したんじゃ』


大体理解できた。


確か、魔族って呼び名ができたのは、バラゴ帝国建国以降だったはず……。


それ以前は……。


『うむ。魔族といっても所詮は亜人種じゃから、皆人間と言われておった』


魔族ってのは確か、人間とそりの合わない亜人種の総称。


有翼族のように人間に虐げられたか、オーク族やリザード族のように人間より力が強く、人間を虐げていた種族達だよな。


『バラゴは正義感の塊のような奴じゃったからのぉ。人間に虐げられる有翼族のような種族が、見過ごせなんだんじゃろう』


元をたどれば、俺たち人間のせいか……。


確かに、村人に見つかったら袋叩きだろうな。


『今お前は、左腕が無い事から始まって、全身の二割を火傷して、左足の骨折および、右足は骨折と複数箇所の腱や筋肉の断裂。最後に右腕の骨折じゃからな……』


ははっ……。


よく生きてるな俺……。


そういえば、秘言を唱えて強制的に回復はできないのか?


『あれは、攻撃以外に魔力を転化できん……。なんとかモンスターを倒さねば……』


いっそ、さっきの爺さん刺し殺すか!


『アホか! お前は恩人を!』


う~そ~で~す~よ~。


さすがにそこまで腐ってません。


『くっ……、このクソガキ……』


こうなると、自然回復で骨折が直るまではどうしようもないな。


何ヶ月動けないんだよ。


やってらんねぇ~……。


『仕方あるまい……』


まあ、仕方ないよねぇ。


俺は、痛みを我慢して口で直接おかゆを食べると、寝る事にした。


****


それから二週間、毎日リリムは俺のお見舞いにきてくれている。


頭は若干軽いが、やっぱりいい子だ。


見た目もやわらかそうなフワッとしたピンクのロングヘアーに、大きな紫の瞳。


何より着ている服装が俺好みだ。


魔族軍のベレー帽に、背中の大きく開いたレオタード!


まあ、濃い色のタイツは邪魔だけど……。


有翼族の戦闘服らしいから、本人にそのつもりは無いんだろが……。


骨折れてなかったら襲いかかりそうです。


その上でリリムは、ガードが緩い。


もお、ゆるゆるだ!


包帯を取り替えるときに胸が当たったり、お粥を口でふぅふぅして食べさせてくれたり……。


ムラッとします!


つっても動けないから、なんだか軽い生殺しだ。



そんなリリムは、毎日軍の仕事で忙しそうだ。


でも、人間との争いは落ち着いているはず……。


何と戦っているんだ?


俺は窓のカーテンを村人に見つからない様に少しだけずらし、外を見ることがある。


そのたびに、有翼族の戦士が負傷していたりする光景を、目にしていた。


有翼族の軍人にダメージを与えるなんて、Bランク上位のモンスターでも大量発生したのか?


それか、どっかの国の軍が全力で攻めてきてるとか?


体の動かない俺は毎日瞑想してイメージトレーニングをすることしかできないので、物音がすると毎日外を覗いていた。


今日は有翼族軍が大人数で整列して、族長らしき人物が全体に指示を出している。


大規模な戦闘が、これから行われるのだろう。


本当に、何してるんだ?


うおっと!


族長がこちらに目線を向けてきた。


急いで隠れたから見つかってないと思うけど……。


あの族長、相当勘が鋭いな。


リリムそっくりなくせに、侮れん奴だ。


そう言えば、リリムもお嬢様って言われてたし……。


お姉ちゃんとかかな?


目つきがきつくて、髪の色が青いところ意外は、そっくりだ。


双子とかだったりして……。


「あまり外を見るでない……。リリス様は魔族五将軍の一角。見つかれば、わしまで怒られてしまうわ」


五将軍?


マジでか!?


となると……。


Bランク以上の戦闘力があるのか……。


俺がアルティアで倒した魔人並の可能性も……。


恐ろしい戦闘力だな。見つかったら確実に殺される。


それに爺さんの喋り方からして、族長は人間に友好的ではないだろうし……。


俺……本当にギリギリですね。


もし、リリムと姉妹だったとしてリリムに変なことしたら、殺されるんじゃね?


てか、俺逃げたほうがよくね?


はぁ~……。


キレて無茶しすぎた。


おとなしくイメトレでもしよう。


俺は大変な勘違いをしているが、この時は分からなかった。


翌日、リリムが何時もの様に俺の看病に来たとき、俺の不運が再び爆発する。


えっ? そうなの?


もう痛いのとか嫌だ! 俺に楽させろよ!


てか、彼女よこせよ! クソ神様!


****


「じゃあ! 早くよくなってね~!」


「ああ、ありがとう……」


リリムが爺さんの家を出てすぐ、村の中から悲鳴が聞こえた。


俺が窓から外を見ると、モンスターに村人が襲われている。


ハウンドウルフの群れ?


いや! マジか!


あれはケルベロス!


ケルベロスはBランク上位で、以前戦ったオルトロスの上級モンスターだ!


三本の首がある巨犬。


おいおいおい! やめろ!


いくら軍人だからって!


リリムが大型の魔道砲を構えて、ケルベロスに立ち向かおうとしていた。


殺されるって!


くそっ! 体が動かない!


「ぐあぁぁぁぁ!」


階下から、爺さんの悲鳴が聞こえた。


俺は必死で這いずりながら、梯子までたどり着いた。


爺さんが扉を破って進入してきたハウンドウルフに、馬乗り押さえ付けられ、腕を噛まれている。


くそっ! どうする? 今の俺で勝てるか?


「があああ!」


爺さんは、今にも腕を食いちぎれそうだ。


くっそ!


俺は転がり落ちるようにして、天井裏から降りた。


物凄く痛いが、今はそれどころじゃない。


「何を! 隠れておれ!」


爺さん……。


自分が殺されそうな時に人の心配かよ……。


まったく……。


引けなくなるだろうが!


「こいや! 犬っコロ!」


俺は、ギブスの硬さと机の角を利用して無理やり立ち上がり、ハウンドウルフを挑発した。


ハウンドウルフは爺さんから口を離すと、こちらに向き直り、跳びかかる為に低く身構える。


すべてはタイミング……。


タイミングさえ合えば!


「グルルル……グワァァ!」


ハウンドウルフが大きく口を開き、跳びかかってきた。


今だ!


俺はハウンドウルフに跳びかかられたタイミングで、自ら倒れこみ、魔剣を呼び出す。


「レイ!」


爺さんが、ハウンドウルフに馬乗りにされた俺に駆け寄ってくる。


何とか成功だ……。


『お前の無茶は、今に始まったことではないが……』


まぁ、結果オーライ!


どれくらい回復する?


『左足と右腕の骨折は、何とかなるじゃろう……』


十分だ!


そう俺は、ハウンドウルフの勢いをそのまま生かし、魔剣を口の中に突き刺しながら倒れこんだ。


うまく、ハウンドウルフの脳天を魔剣が貫き……。


ちょっとだけど魔力回復!


これで、ギブスがあれば多少は動ける!


「その剣は……。お主はいったい……」


爺さんはその光景を、呆然と見つめている。


「説明の時間は無いんで勘弁してくれよ? あ! その腕! 早く治療したほうがいいぞ」


俺はすぐに起き上がると、爺さんに喋りかけてから家の外に出る。


****


戦闘人員はリリムだけかよ!


ハウンドウルフに村人達が襲われている。


リリムはケルベロスを牽制して、魔道砲を乱射しているが当たってない。


何気に魔力が強いせいだろうが、リリムの魔道砲は威力が半端じゃないな。


まぁ、当たらないと意味無いけど……。


どうする?


この場合は……くそ! 先に村人だ!


ちょっと持ちこたえろよ! リリム!


『残り四体じゃのぉ……』


戦法は……。


村人には悪いが、襲い掛かって動きが止まったところを斬るぞ!


『仕方あるまい!』


俺は気配を消し、村人に馬乗りになったり噛み付いたところで、ハウンドウルフを斬り捨てた。


これはもう勘弁してもらおう。一応、俺のが重症だしね。


『よし! 右足もほぼ回復じゃ!』


ハウンドウルフ全てを片付けた所で、火傷と無くなった左腕および、右手の指以外はほぼ回復した。


「きゃあ! んっ!」


うお!


リリムが村のはずれにある大岩まで吹き飛ばされて、逃げ場をなくしている。


急ぐぞ!


『うむ!』


俺は、ギブスを魔剣で切り裂くと、大岩に飛び乗った。


今にもケルベロスがリリムに食いつきそうだ。


ここは! 〈トライデント〉


俺は、落下と回転を利用した三連撃を、大岩から飛び降りながら放った。


ケルベロスにはまさにベストな技だ。


三本の首をすべて両断されたケルベロスは、その場に倒れこみ、塵に変わっていく。


『これで指も回復できるな』


俺の右手から煙が立ち昇り、無くなっていた指が生えてきた。


魔剣って便利。


でも、さすがに左腕までは無理か。


『動けるようになったんじゃ……。文句を言うな』


へいへい……。


****


っと……。


リリムは気を失ってるのか?


おおおおおぅ!


『なんじゃ!?』


倒れてうなだれてるから、レオタードの股間部分! 丸見え!


『くさっとる……』


いかん、いかん。下手なことすると、族長に殺される。


ゆすって起こそう。


「リリム? 怪我はないか?」


「何故ここに人間がいる?」


えっ?


リリムの声が、いつもより数段低い。


あれ? 髪の毛の色が……。


「私は、何故ここに薄汚い人間がいるかと……聞いている……」


リリムの声は低くなっただけでなく、どすがきき始めている。


どう言うこと!?


リリムの髪が、紫から青へと変化した。


髪が完全に青に変わった所で、リリムは顔を上げる。


あれ~? この目つき……。


リリスじゃん! 族長っじゃないですかっ!


てか! 魔族の五将軍じゃん!


「リリムが、最近私に隠し事をしているようだったが……。貴様のことだったか人間……」


うおおぅ!


全身から魔力がオーラになって立ち上ってる!


これって殺気? 殺気だよね?


俺殺す気だよね!


「リリムは私のもうひとつの人格だ……。さて、人間……」


なに?


村人救ったから見逃す気があるとか?


「死ぬ準備はいいな?」


出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


そんな準備する奴いませんって!


ここはどう考えても、リリムのフラグが立つイベントだろうが!


何でバッドエンド側のフラグが、強制的に立ってるんだよ!


五将軍なんかと一対一で勝てるかぁぁぁぁぁ!!


一思いに殺せとは言ったけども……。


なんだよこの展開!


無理やり殺そうとすんな!


殺すなら自然に殺せよ!


神様! こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!


やってらんね~……。

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