一話
歌?
母さん達が歌ってる。
俺や父さん達は、焚き火にあたりながらそれを聞いている。
俺は何をしていたっけ?
まぁ、どうでもいいか。
今は気持ちいいこの場所で……。
あれ? みんなどこに行くの?
俺も行く!
待って! なんで? 体が動かないんだ!
待ってよ! 置いていかないで!
父さん! 母さん!
待って……。待ってよ……。
置いていかないでよ……。
セシルさん……。
オーナー……。
俺もそっちに行きたい……。
俺の……。
俺の居場所……。
俺のいていい場所……。
****
「……んん……」
ここは……。
俺は眠ってたのか?
そうだ! 成層圏から落下して……。
おや? これってもしかして……。
俺死んでないか?
あれだけの苦痛味わったのに!
なに? あれは只の死ぬ前の嫌がらせだったの?
目の前に、羽がはえた可愛い女の子がいるんですけど!
これって俺を迎えにきた天使だよね?
俺、死んでるよねぇぇぇぇぇぇ!!
お迎え来ちゃったよ!
ジジィちゃんと仕事しなさいよ! 後継者死んじゃってますよ!
いいんですか? これぇぇぇぇぇぇ!!
……。
こうなればあれだよね……。
天使の胸揉んでもいいよね。
いや! 揉むべきだ! うん! 揉みしだく!
だって! この天使ちゃん可愛いもん!
彼女出来なかったんだから……。
これはもう仕方ない!
きっと天使だって許してくれるはずだ!
『地獄に堕ちるぞ、エロガキ……』
うっせ! ジジィ!
ん? なんでジジィがついてきてるんだ?
うお! 天使も爺さんになった!
天使ってもしかして、心が読めるのか? 胸を揉もうとしたことがばれた?
しまった! チェンジ!
最後くらい女の子をお願いします!
チェンジィィィィィ!
もう変なことしないからぁぁぁぁぁ!
『腐っとる……』
だから! なんでついてきてんだよ! ジジィ!
ああ……。
爺さん嫌だぁ……。 女の子がいい……。
『腐りきっとる。よく見ろ……』
えっ? ああ!
さっきの可愛い女の子が、戻ってきてくれたぁぁぁ!
はぁ、よかった。
『違うわ! 馬鹿もん!』
誰が馬鹿だ! 折るぞ! ジジィ!
「よかった~……。これお粥……。食べられる?」
あ~れ~?
俺もしかして……。
『生きとるわい!』
でも、天使……。
『有翼族じゃ……』
あ……。あはっ。
あははははははっ!
わ……わわ……分かってたさ。
『嘘もそこまでいくと清々しいのぉ』
「あの……。大丈夫? 言葉わかる?」
天使ちゃんが、俺の顔を覗きこんできた。
めっちゃ可愛い!
「大丈……痛ったぁぁぁぁぁぁ!!」
起き上がろうとした俺は、全身からの痛みで叫んでしまった。
「まだ動いちゃ駄目! 生きてるのが不思議なくらいの重症なんだよ?」
分かってる……。
今、身に染みて分かってる……。
「あの……。え~……。だ……大丈夫……」
「よかった~……。五日も目を覚まさないから心配したんだよ~」
「あっ……君が助けてくれたの? ありがとう」
「えへへ~……。何か欲しいものある? お粥食べる?」
や……優しい……。
可愛い……。
「じゃあ、水を……」
俺は痛みを我慢して、上半身を起こした。
「無理しないで! じい! 水お願い!」
「かしこまりました、お嬢様……」
羽の生えた爺さんが、明かりの漏れる穴から梯子で下りていく。
ここは……何か懐かしい匂いが……。
『屋根裏部屋じゃ……』
ああ……。今回もこの扱いか……。
でも、手当てはしてくれてる……。
体中包帯だらけで、両足にはギブス、右腕にも添え木か。
酷いもんだなぁ。
うん? 火傷した場所に、薬を塗ってくれたのか?
くっさ!
『人の好意を、お前は……』
だって、臭いよ?
『我慢せい!』
「私、リリム! あなたの名前は~?」
おっと……。
天使ちゃんはリリムってのか。
名前も可愛いな。
「俺はレイ……。あの……、ありがとう。助けてくれて……」
「レイだね! 宜しくね!」
可愛い!
羽を軽くパタパタしながら笑ってくれてる!
人間の彼女はもう無理だから、リリムちゃんで行こう!
あれ……?
でも……有翼族って……。
『魔族じゃのぉ……』
ですよね~……。
「リリムちゃん……、ここは何処なのかな?」
「リリムでいいよ! ここはバーゴ帝国にある、有翼族の村の、じいの家の屋根裏だよ!」
そうだよね~。
後、リリム何気に喋り方馬鹿っぽいね。
「どうぞ……、お嬢様」
「ありがとう~! じい! はい!」
俺はリリムから差し出されたコップを受け取り、水を一口飲んだ。
うっ! おぉぉぉ!
痛っっっっったい……。
『まぁ、体がこれだけボロボロなんじゃ……』
水飲むだけで激痛が走るって、どんだけだよ!
いって~……。
「レイは何族の人~? バンパイア? 人間? 魔王様の隠し子?」
何いってんだ?
何かを勘違いしてるだろうな。
でも、魔族の前で不用意に人間なんていうと、すまないし……。
「あ~……えっと……」
どうする? ジジィ!
『……』
なんか言えや!
「その紋章は王家の紋章でしょ~? バーゴ様の隠し子だったりするの?」
さっきから何言ってるんだ? この馬鹿女は……。
『彼女にしたいとか言っておった命の恩人に……』
それとこれとは、また別問題です!
彼女にするなら、頭の軽い子は歓迎だけど、馬鹿過ぎるのは問題だ!
『それが彼女の一度も出来た事がない者の言う言葉か?』
おっと……。痛いところを……。
王水なら、ミスリルって溶けるかな?
『いちいちわしに殺意を抱くな! お前はえり好みする立場にないじゃろうが!』
だって~……。
かなり馬鹿っぽいよ?
うん?
俺の右腕に何かついてるのか?
リリムが凝視してきてる。
おんやぁぁ? これ何? 刺青?
まさか! 罪人の印でも寝てる間に刻まれたのか?
『馬鹿者! それが魔剣の正統後継者の証じゃ!』
はっ?
何でいまさら……。
あっ! そうか、魔力を使い切ったのか……。
『そうじゃ。もう少し回復してから言うつもりじゃったが……』
分かってる。
俺は父さんの魂で助かったんだな?
『そう言う事じゃ……』
俺はまだ、父さんに守られていたんだ。
二度目にジジィの記憶を見て、知った。
魔剣との契約は、自分自身の魂を引き換えに行われる。
今までの後継者のほとんどは、自分の命を使い切り死んでいった。
でも俺は、父さんの魂で今までは使えていただけ……。
魔剣の正統な後継者は、父さんだったんだろう。
俺は本当に手違いで魔剣を使えていたにすぎない。
魂を擁護されながら戦っていたのに、命をかけるなんて……。
俺は本当に、馬鹿なガキだ。
今回で父さんからの魂の遺産は尽きた。
だから俺に、魂を共有する紋章が刻まれたんだ。
でも……。これさ~。
バーゴ帝国の紋章に、そっくりなんだけど……。
『まぁ……それはそうじゃろう』
どう言う……。
「レイ? 大丈夫?」
うお! リリム近い! 顔近い!
お前ガードゆるすぎるぞ!
「ね~、レイ?」
「あ……、ごめん。ちょっとぼーっとなってた」
「まだ体痛いよね? 大丈夫?」
そんな泣きそうな顔で見つめないでくれ。
キスしてしまいそうだ。
顔が近いからね!
『煩悩の塊じゃな……』
思春期の男子の半分は、下心でできています!
ほっていてくれ!
「お嬢様……。人間なのでしょう、彼は」
爺さん!
別のこと考えてた俺が悪いけど、それをさらっと言うな!
「やっぱりそうか~……」
リリムに殺されるとかありえない!
有翼族は魔族の中でも、戦闘力がかなり高い種族だ。
今の俺では、抵抗すらできずに殺されるだろう。
やっばい……。
散々引っ張って、こんなバッドエンド?
嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「でも、困ってる人は助けないと~!」
おう?
リリムが笑顔になった。
おお……。セーフ……。
リリムは、本当にいい子なんだな。
『そんな子を馬鹿呼ばわりとは……』
自分の心に、嘘はつけないものさ……。
『格好をつけるタイミングが、無茶苦茶しぎるわ』
もう、うっさいよ。ジジィ。
「じゃあ! じい! 後はお願いね~。私は……」
「分かっております。では、お気をつけて……」
「う~ん! じゃあ、レイ! 早くよくなってね!」
リリムは帰るのか……。
付きっきりで介護してほしかったなぁ。
****
リリムがいなくなると、毛糸の帽子をかぶっている羽の生えた爺さんが、話しかけてきた。
「リリム様に感謝するんじゃぞ。人間よ……」
うわっ……。
恩着せがましいな……。
「お嬢様が、村の皆や族長のリリス様に隠れて、ここへお主を運び込んだのじゃ」
「そうなのか……」
「わしとて唯の人間なら無理にでもリリム様を説得して、捨てておくつもりじゃったが、お主何者じゃ?」
何言ってんだ! この爺さん!
俺見殺しにされかけてるじゃないの!
体治ったら軽く刺していくか……。
『仕方あるまい……。有翼族と人間は……』
ルナリスで資料読んだから知ってるよ。
有翼族の血は人間にとって病気の特効薬になるから、大勢の有翼族が人間に……。
『そして、有翼族は魔族についたわけじゃ』
まあ、好かれてるはずないよね。
「答えんか……。まぁ、もう一生まともには動けん体じゃ……。その紋章のことと、魔力の事……。喋る気になれば喋れ……」
そういうと、爺さんはお粥以外に果物やパンを置いて、梯子を下りて行った……。
さて……。
ジジィ、どう言うことだ? 俺が魔王?
『初代の魔剣継承者は、魔王になった……』
ああ……。
なんとなく読めてきたぞ……。
魔王って確かバンパイアだったよな?
『そうじゃ、名はバラゴ……』
魔族の帝国は、魔王が変わるたびに帝国の名前が変わっている。
確か建国時はバラゴ帝国……だったと思う。多分。
『唯一生きたままわしを手放した者じゃ……』
バンパイアの寿命は大体五百年くらいだが、初代は確か二百年で死んでいたな。
『自身の魂を燃やし、バラゴは邪神を倒したんじゃ』
大体理解できた。
確か、魔族って呼び名ができたのは、バラゴ帝国建国以降だったはず……。
それ以前は……。
『うむ。魔族といっても所詮は亜人種じゃから、皆人間と言われておった』
魔族ってのは確か、人間とそりの合わない亜人種の総称。
有翼族のように人間に虐げられたか、オーク族やリザード族のように人間より力が強く、人間を虐げていた種族達だよな。
『バラゴは正義感の塊のような奴じゃったからのぉ。人間に虐げられる有翼族のような種族が、見過ごせなんだんじゃろう』
元をたどれば、俺たち人間のせいか……。
確かに、村人に見つかったら袋叩きだろうな。
『今お前は、左腕が無い事から始まって、全身の二割を火傷して、左足の骨折および、右足は骨折と複数箇所の腱や筋肉の断裂。最後に右腕の骨折じゃからな……』
ははっ……。
よく生きてるな俺……。
そういえば、秘言を唱えて強制的に回復はできないのか?
『あれは、攻撃以外に魔力を転化できん……。なんとかモンスターを倒さねば……』
いっそ、さっきの爺さん刺し殺すか!
『アホか! お前は恩人を!』
う~そ~で~す~よ~。
さすがにそこまで腐ってません。
『くっ……、このクソガキ……』
こうなると、自然回復で骨折が直るまではどうしようもないな。
何ヶ月動けないんだよ。
やってらんねぇ~……。
『仕方あるまい……』
まあ、仕方ないよねぇ。
俺は、痛みを我慢して口で直接おかゆを食べると、寝る事にした。
****
それから二週間、毎日リリムは俺のお見舞いにきてくれている。
頭は若干軽いが、やっぱりいい子だ。
見た目もやわらかそうなフワッとしたピンクのロングヘアーに、大きな紫の瞳。
何より着ている服装が俺好みだ。
魔族軍のベレー帽に、背中の大きく開いたレオタード!
まあ、濃い色のタイツは邪魔だけど……。
有翼族の戦闘服らしいから、本人にそのつもりは無いんだろが……。
骨折れてなかったら襲いかかりそうです。
その上でリリムは、ガードが緩い。
もお、ゆるゆるだ!
包帯を取り替えるときに胸が当たったり、お粥を口でふぅふぅして食べさせてくれたり……。
ムラッとします!
つっても動けないから、なんだか軽い生殺しだ。
そんなリリムは、毎日軍の仕事で忙しそうだ。
でも、人間との争いは落ち着いているはず……。
何と戦っているんだ?
俺は窓のカーテンを村人に見つからない様に少しだけずらし、外を見ることがある。
そのたびに、有翼族の戦士が負傷していたりする光景を、目にしていた。
有翼族の軍人にダメージを与えるなんて、Bランク上位のモンスターでも大量発生したのか?
それか、どっかの国の軍が全力で攻めてきてるとか?
体の動かない俺は毎日瞑想してイメージトレーニングをすることしかできないので、物音がすると毎日外を覗いていた。
今日は有翼族軍が大人数で整列して、族長らしき人物が全体に指示を出している。
大規模な戦闘が、これから行われるのだろう。
本当に、何してるんだ?
うおっと!
族長がこちらに目線を向けてきた。
急いで隠れたから見つかってないと思うけど……。
あの族長、相当勘が鋭いな。
リリムそっくりなくせに、侮れん奴だ。
そう言えば、リリムもお嬢様って言われてたし……。
お姉ちゃんとかかな?
目つきがきつくて、髪の色が青いところ意外は、そっくりだ。
双子とかだったりして……。
「あまり外を見るでない……。リリス様は魔族五将軍の一角。見つかれば、わしまで怒られてしまうわ」
五将軍?
マジでか!?
となると……。
Bランク以上の戦闘力があるのか……。
俺がアルティアで倒した魔人並の可能性も……。
恐ろしい戦闘力だな。見つかったら確実に殺される。
それに爺さんの喋り方からして、族長は人間に友好的ではないだろうし……。
俺……本当にギリギリですね。
もし、リリムと姉妹だったとしてリリムに変なことしたら、殺されるんじゃね?
てか、俺逃げたほうがよくね?
はぁ~……。
キレて無茶しすぎた。
おとなしくイメトレでもしよう。
俺は大変な勘違いをしているが、この時は分からなかった。
翌日、リリムが何時もの様に俺の看病に来たとき、俺の不運が再び爆発する。
えっ? そうなの?
もう痛いのとか嫌だ! 俺に楽させろよ!
てか、彼女よこせよ! クソ神様!
****
「じゃあ! 早くよくなってね~!」
「ああ、ありがとう……」
リリムが爺さんの家を出てすぐ、村の中から悲鳴が聞こえた。
俺が窓から外を見ると、モンスターに村人が襲われている。
ハウンドウルフの群れ?
いや! マジか!
あれはケルベロス!
ケルベロスはBランク上位で、以前戦ったオルトロスの上級モンスターだ!
三本の首がある巨犬。
おいおいおい! やめろ!
いくら軍人だからって!
リリムが大型の魔道砲を構えて、ケルベロスに立ち向かおうとしていた。
殺されるって!
くそっ! 体が動かない!
「ぐあぁぁぁぁ!」
階下から、爺さんの悲鳴が聞こえた。
俺は必死で這いずりながら、梯子までたどり着いた。
爺さんが扉を破って進入してきたハウンドウルフに、馬乗り押さえ付けられ、腕を噛まれている。
くそっ! どうする? 今の俺で勝てるか?
「があああ!」
爺さんは、今にも腕を食いちぎれそうだ。
くっそ!
俺は転がり落ちるようにして、天井裏から降りた。
物凄く痛いが、今はそれどころじゃない。
「何を! 隠れておれ!」
爺さん……。
自分が殺されそうな時に人の心配かよ……。
まったく……。
引けなくなるだろうが!
「こいや! 犬っコロ!」
俺は、ギブスの硬さと机の角を利用して無理やり立ち上がり、ハウンドウルフを挑発した。
ハウンドウルフは爺さんから口を離すと、こちらに向き直り、跳びかかる為に低く身構える。
すべてはタイミング……。
タイミングさえ合えば!
「グルルル……グワァァ!」
ハウンドウルフが大きく口を開き、跳びかかってきた。
今だ!
俺はハウンドウルフに跳びかかられたタイミングで、自ら倒れこみ、魔剣を呼び出す。
「レイ!」
爺さんが、ハウンドウルフに馬乗りにされた俺に駆け寄ってくる。
何とか成功だ……。
『お前の無茶は、今に始まったことではないが……』
まぁ、結果オーライ!
どれくらい回復する?
『左足と右腕の骨折は、何とかなるじゃろう……』
十分だ!
そう俺は、ハウンドウルフの勢いをそのまま生かし、魔剣を口の中に突き刺しながら倒れこんだ。
うまく、ハウンドウルフの脳天を魔剣が貫き……。
ちょっとだけど魔力回復!
これで、ギブスがあれば多少は動ける!
「その剣は……。お主はいったい……」
爺さんはその光景を、呆然と見つめている。
「説明の時間は無いんで勘弁してくれよ? あ! その腕! 早く治療したほうがいいぞ」
俺はすぐに起き上がると、爺さんに喋りかけてから家の外に出る。
****
戦闘人員はリリムだけかよ!
ハウンドウルフに村人達が襲われている。
リリムはケルベロスを牽制して、魔道砲を乱射しているが当たってない。
何気に魔力が強いせいだろうが、リリムの魔道砲は威力が半端じゃないな。
まぁ、当たらないと意味無いけど……。
どうする?
この場合は……くそ! 先に村人だ!
ちょっと持ちこたえろよ! リリム!
『残り四体じゃのぉ……』
戦法は……。
村人には悪いが、襲い掛かって動きが止まったところを斬るぞ!
『仕方あるまい!』
俺は気配を消し、村人に馬乗りになったり噛み付いたところで、ハウンドウルフを斬り捨てた。
これはもう勘弁してもらおう。一応、俺のが重症だしね。
『よし! 右足もほぼ回復じゃ!』
ハウンドウルフ全てを片付けた所で、火傷と無くなった左腕および、右手の指以外はほぼ回復した。
「きゃあ! んっ!」
うお!
リリムが村のはずれにある大岩まで吹き飛ばされて、逃げ場をなくしている。
急ぐぞ!
『うむ!』
俺は、ギブスを魔剣で切り裂くと、大岩に飛び乗った。
今にもケルベロスがリリムに食いつきそうだ。
ここは! 〈トライデント〉
俺は、落下と回転を利用した三連撃を、大岩から飛び降りながら放った。
ケルベロスにはまさにベストな技だ。
三本の首をすべて両断されたケルベロスは、その場に倒れこみ、塵に変わっていく。
『これで指も回復できるな』
俺の右手から煙が立ち昇り、無くなっていた指が生えてきた。
魔剣って便利。
でも、さすがに左腕までは無理か。
『動けるようになったんじゃ……。文句を言うな』
へいへい……。
****
っと……。
リリムは気を失ってるのか?
おおおおおぅ!
『なんじゃ!?』
倒れてうなだれてるから、レオタードの股間部分! 丸見え!
『くさっとる……』
いかん、いかん。下手なことすると、族長に殺される。
ゆすって起こそう。
「リリム? 怪我はないか?」
「何故ここに人間がいる?」
えっ?
リリムの声が、いつもより数段低い。
あれ? 髪の毛の色が……。
「私は、何故ここに薄汚い人間がいるかと……聞いている……」
リリムの声は低くなっただけでなく、どすがきき始めている。
どう言うこと!?
リリムの髪が、紫から青へと変化した。
髪が完全に青に変わった所で、リリムは顔を上げる。
あれ~? この目つき……。
リリスじゃん! 族長っじゃないですかっ!
てか! 魔族の五将軍じゃん!
「リリムが、最近私に隠し事をしているようだったが……。貴様のことだったか人間……」
うおおぅ!
全身から魔力がオーラになって立ち上ってる!
これって殺気? 殺気だよね?
俺殺す気だよね!
「リリムは私のもうひとつの人格だ……。さて、人間……」
なに?
村人救ったから見逃す気があるとか?
「死ぬ準備はいいな?」
出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
そんな準備する奴いませんって!
ここはどう考えても、リリムのフラグが立つイベントだろうが!
何でバッドエンド側のフラグが、強制的に立ってるんだよ!
五将軍なんかと一対一で勝てるかぁぁぁぁぁ!!
一思いに殺せとは言ったけども……。
なんだよこの展開!
無理やり殺そうとすんな!
殺すなら自然に殺せよ!
神様! こんちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
やってらんね~……。




