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Mr.NO-GOOD´  作者: 慎之介
第二章:魔法の国の傭兵編
23/106

九話

「どうなんだ?」


俺はアニスちゃんに、病院の集中治療室の前で詰め寄った。


「大丈夫、命に別条はありませんよ」


アニスちゃんの笑顔での返事に、俺はソファーに座り込んだ。


ふぅ~……。


魔剣の力で回復させたとはいえ、かなり不安だった。


とりあえずよかった……。


「血を多く失ったようで、一週間は安静が必要でしょうけど、問題ないと医師は言っていました」


「ああ、宜しく頼むよ」


まったく、知り合いが死ぬのとかは、もう勘弁してほしいからな……。


「そんなに……」


「ん?」


「そんなにカーラさんが心配ですか?」


「そりゃあ、知り合いが目の前で死んで、いい気分のする奴はいないだろう?」


何、当然のこと聞いてんだ?


まさか! この子も箱入り娘だから常識がないのか?


ちょっと狙ってるのに……。


俺の周りはこんなんばっかりかよ。


「そ……そうですよね! すみません、私、何を言ってるんだろう……」


よかった……。


カーラよりはましなようだ。


ギリギリセーフ!


「とりあえず、今夜の巡回は俺一人で行くよ。戦力としては問題ないと思うから……」


「はい。あの……でも、大丈夫ですか?」


「四将軍よりは、いい仕事をする自信はあるよ」


てか、俺のがつおい!


そこは疑ってほしくないな。


「いえ……。よければ私も……」


はぁ?


「それだと、西地区が手薄になるんじゃないか? 本末転倒なんじゃ……」


「そ……そうですね。すみません」


何だよ……。


そんなに落ち込むことないのに……。


何が気に入らないんだ?


まさか!


痴漢を一人にするなとか、イリアさんに言われてるとか?


あああああ! タイムマシーンがほしい! あれは本当に違うのに!


はぁ~……。


やってらんね~……。


「じゃあ、私は仕事がありますので……」


「あ……ああ……」


何故避けるように、逃げ去るんだ!


それも顔真っ赤にするとか……。


変態と話すのが嫌とかですか?


何だよちくしょう……。


何回も言うけど、ドノーマルなのに……。


確かに最近女の子の裸見たり、胸もんだり、胸に顔を埋めたり……。


あれ? 俺……。変態ですね……。


あああああああああ!


違うもん!


変態じゃないもん!



駄目だ。


病院にいると気が滅入る……。


散歩でもして来るか。


病院のロビーで、ネロと会った。


お互いに嫌いなので、もちろん挨拶はない。


ただ、すれ違いざまにネロは一言つぶやきやがった。


「この変態が……」


俺はすぐに振り向くが、ネロは何もなかったかのように、部下の兵士が入院している病室に入って行った。


殺したろか! てか、殺す!


皆に見えない速度で斬り殺してやる! マジで!


みじん切りにしてやる!


くっ……そぉぉぉぉぉ!


あんなへなちょこに! 馬鹿にされるなんてぇぇぇ!


もお、やだ……。


****


俺は、とりあえず評議会に来てみたが……。


入り辛い……。


ん?


この暑いのに、フードを深くかぶった奴が評議会を眺めている。


胸があるから女性だろうが……。


紫外線対策ってやつか?


まさか! 事件の真犯人?


まあ……なんて都合よくいくわけないよなぁ。


俺って、運ないしぃ。


その女性は、評議会の写真を一枚とると立ち去った。


観光客だろうな。一般見学もやってるって、言ってたし。


でも……なんかあの雰囲気どこかで……。


う~ん……。


まぁ良いか……。


公園でアイスでも食べて、時間をつぶそう。


いや、クソ暑いしファミレスでも行こう。


ドリンクバーで五時間くらい粘ってやる。


****


俺は本当に五時間粘り、見回りの時間に評議会へ戻った。


しかし、その日は夜中一時を過ぎても、魔法生物は現れなかった。


俺と四将軍は見回りの警備兵に後を任せると、一時解散になった。


「敵の数も分かってないし……。こんな日もあるか……。さて」


俺は評議会の隣にある宿舎には帰らず、町はずれの公園へ行き、修練をする。


「ネロ殺す! ネロ殺す! ネロぶっ殺す!」


何時も通り剣を振るう。


最近はカーラよりも、ネロの名前を出したほうが効率がいい……。


『気持ちが良いくらい歪んどるな……』


「ジジィ死ね! ジジィ死ね!」


『お前が死ね、お前が死ね……』


うっさい! 折れろ!


『お前の脊椎が折れろ!』


などと二時間の修練を終え、宿舎に帰宅する。


****


うん?


『人……のようじゃな』


評議会の庭から、人の気配がする。


警備の兵士は、建物内だけのはず。こんな夜中に、庭ってのは怪し過ぎる。


どうするかな?


足音を殺して、気配を消そうとしているところを考えると……。


『うむ。不法侵入者かのぉ?』


仕方ない……。


俺は警備システムが働かないように、評議会の塀を跳び越えた。


そして、木の蔭から目的の人物を観察する。


あれは……。


昼間の女性だ……。


マジか。しくじった。


本当に黒幕だったの?


『とりあえず、後をつけるか……』


そうするしかないだろうな。


いや、でも、評議会に雇われてる、斥候が仕事の人だったら……。


『女のようじゃし、変態の名前が広まる可能性があるな……』


うん! 俺もそう思う!


もう、下手な事はしたくない。


取り敢えず、様子見よう……。


ん? 何してるんだ?


女性が地面をいじると、隠し通路が開いた。


うお! あんな仕掛けがあったのか……。


やっぱ、本当に身内なのかも……。


****


俺は完全に気配を消して、女性の後をつける。


隠し通路は、評議会の地下へとつながっていた。


階段を降りた感じだと、多分地下二階くらいだろう。


何かの研究施設だろうか?


大掛かりな機材がいっぱい並んでる。


一体ここは……。


『ここなら、魔法生物も作れそうじゃな……』


え? 本当に黒幕か?


まさか、評議会の下で作ってるとは誰も思わないよな。


ん? あれは……。


『魔法石じゃな』


俺が魔法生物から回収し、アニスちゃんに渡した魔法石が、その地下施設の机の上に置いてあった。


フードの女性は、それを持ち去ろうとしている。


さすがに……。


『少し話を聞くべきじゃな……』


ああ。


俺は素早く女性の後ろに回り込むと、剣を首筋に突き付ける。


「そこまでだ。悪いが事情を聞かせてもらおうか」


女性は机から手を引いて、両手を上げる。


そして、振り向きざまにナイフを振るってくる。


首筋の剣は、怖くないのかねぇ?


ゆっくりに見える女性からナイフを奪い取り、空振りをして体勢を崩した相手に、再度剣先を向ける。


ダガーナイフか。殺す気で振ってきやがったな。


間違いなく敵だ。



勢いで、女性のかぶっていたフードがずれた。


はい!?


なんで?


「オーナー?」


「レイ?」


なんとそこには、俺が半年世話になったオーナーがいた。


「何で? 何でです? オーナーが魔法生物を操って悪さを?」


「違う! それを阻止しに来たんだ!」


はぁ? 何言ってるんだ? こいつ?


「頼む! ここは見逃してくれ! 私は父の野望を阻止しないといけないんだ!」


オーナーの目は真剣だった……。


あのいつも気怠そうだったオーナーの顔じゃない。


どうする?


『嘘は言っておらん者の目ではあるな……』


だよねぇ。


「分かりました。でも、事情を話してくれませんか?」


オーナーは少し悩んだ後、頷いてくれた。


なんだか、面倒な事情がありそうだな。


父の野望ってなんだ?


でも、聞かなきゃ何も判断できない。


****


うん?


気まずい雰囲気で俺達が黙り込んでいると、地下に大勢の気配が近づいてきた。


一体なんだ?


「そこまでです!」


うお!


アニスちゃんに、四将軍。それにイリアさんまで……。


警備兵も……えと、三十人はいるか?


何だ? 凄く大げさな……。


やっぱり、オーナーって凄い悪人?


「ヘイルさん! そのまま姉をこちらに引き渡して下さい!」


姉!?


「エレノアお姉さま! やはりあなたが今回の事件の犯人だったんですね! 国家反逆罪で拘束します!」


ど……どう言う事?


何がどうなってるの?


オーナーに視線を向けると、唇の色が変わるほど噛みしめていた。


うん? オーナーの目線の先は……アレン?


何がなんだか……。


「あの、アニスちゃん?」


「ヘイルさん! その人は私の姉ですが、お父様に逆らい国家転覆を狙う大罪人です! 早く拘束を!」


おおぅ……。どうなって……。


「頼む! レイ! 手を貸してくれ!」


ええぇぇぇ。どっち信じればいいの?


オーナーが悪人だとは思えないし、アニスちゃんが嘘をついてるとも思えない。


でも、ここでオーナー助けたら俺の五百万が……。


いやいや、半年世話になってるし……。


てか! オーナー! このタイミングでその俺の本名出さないで!


別の犯罪で俺が掴まるから!


「ヘイルさん!」


「レイ! 私を信じてくれ!」


え~い……。くっそ!


俺は剣をオーナーから引き、アニスちゃん達に向ける。


「ヘイルさん……」


「言い訳はしない……」


とりあえず、この場はオーナーを連れて逃げだす!


その後は……。


その時考える!


「やはり! お前が裏切り者だったか!」


ネロが鬼の首でも取ったかのように、俺を指さして叫ぶ。


「私に倒せない化け物を! お前ごときが倒せるなどおかしいと思ったのだ!」


いや……。


それはお前が雑魚なだけだ……。


「ヘイルさん……」


アニスちゃんの顔も、みるみる悲しそうになっていく。


ああ……。やってもぉぉたぁぁぁ。


「信じてたのに! この裏切り者! あの者も同罪です! とらえなさい!」


アニスちゃんは怒号の後、兵士達への指示を出した。


こうなったら仕方無い!


俺に向かってくる兵士達をぶんなぐる!


流石に、殺せないからねぇ。


ルナリスの兵士は、魔法を戦いの主体にする。


つまり! 魔法の呪文を唱える間は、隙だらけじゃぁぁぁい!


うらあああああぁぁぁぁ!


兵士達が剣を抜き暇もなく、全員殴り飛ばしてやった。


『いや……あのな。呪文の隙とかじゃなく、普通に殴り倒しとらんか?』


うっさい! 勝ったもんが! 勝ちなんだ!


『まあ、魔剣で斬る訳にもいかんし……。構わんが……』



「馬鹿が!はぁ!」


俺が少し足を止めたところに、ネロが炎の球を飛ばしてきた。


さすがに四将軍ってところか……。


でもね……。


俺が魔剣をふるうと、その炎は霧散した。


そして、目を見開いて驚くネロとの間合いを詰める。


ネロは急いで剣を抜こうとしたが、俺はその剣の鞘越しにみぞおちへ向かって、強化した脚力で蹴りを放つ。


こいつは腹立つから、ちょっと手加減抜きで……。


剣は叩き折れ、壁に吹っ飛ばされたネロは気を失った。


多分肋骨は折れたと思う。


ふぅぅぅ、少しすっとした……。


おっと!


俺に向かい、複数の魔法が飛んでくる。


それを全て魔剣で切り裂き、無効化した。


他の人……特に女の子は恨みもないし、傷付けたくない。


よし!


俺はオーナーの隣にまで跳んでさがり、オーナーを肩に担ぎ、トップスピードで走り始めた。


なっ! アレンだけは、その俺の動きに反応して、すれ違う際に剣を振るってきた。


脇腹を軽く切り裂かれた。くそっ……。


そう言えば、あいつだけは実力を知らない。


油断した……。


だが、これくらいなら魔剣ですぐに回復できるし、脱出には成功した。


これで急場は凌げた。


****


「レイ……。あんた……」


「舌、噛みますよ。説明は後で……」


俺はトップスピードのまま屋根を飛びはねて移動し、町から脱出した。


そして、オーナーの指示に従い、町から数キロ離れた山小屋の前で止まる。


「あんた、いったい何者?」


「その前に、オーナーの事情から教えて下さい。エレノア:カーチスさん」


ちなみに俺は、今日初めてオーナーの名前を知った。


だって、教えてくれなかったんだもん!


****


しかし……。これで、この国でも国家反逆の犯罪者か……。


ギルドにも戻れないよなぁ。


俺、これからどうなるの?


てか、気の迷いでアニスちゃんに嫌われたぁぁぁぁぁ!


勘に頼るといつもこれだ!


もう嫌だぁぁぁぁ!


女の子が皆、俺を軽蔑のまなざしで見てくるよぉぉぉぉ!


さらに、この大陸には俺の居場所がなくなったぁぁぁぁ!


俺に死ねってか?


死ねってことだよな? 神様よ~!


絶対死んだら、殴りに行くからな!


そして、ひぃひぃ言うまでケツ蹴りあげてやる!


もぉぉぉぉ!


誰か俺を救ってよぉぉぉぉ!


ちくしょぉぉぉぉぉ!


やってらんね~……。

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