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第八話

 

「契約した理由ですか?」


 アスカの視線が真っ直ぐ、こちらに向けられる。


 あらためて顔をまじまじと見ると、非現実的なまでに整っている顔だと認識させられる。


「ああ、わざわざ口づけまでして契約したんだ。何かしらの理由はあるんだろ」


 俺がそう言うと、顔を赤らめるアスカ。


 羞恥心を感じていたのか?


(正直意外だが、今更感が強い)


 そんな態度が顔に出ていたのか、アスカはムッとした表情を作る。


「何ですか、その顔は。私、これでも乙女なんですからね」


 そう言ってぷんぷん怒り出す。


 でも、契約で口づけしているんだったら、どうせ何度もしてるだろに。


 何度か契約していそうな口ぶりだったしな。


 俺が特に態度を変えないのに諦めたのか、肩をがっくりと落とすと再び口を開く。


「はあ、まあいいです。その辺りはこれからじっくり矯正すればいいでしょう」


「そうそう、後でいいから、さっさと教えろよ」


「わ・か・り・ま・し・た・よ」


 アスカは頬をぷくーと膨らませてツンとした態度を取る。


 そうむくれ気味で言われてもな。


 無駄に先延ばしにするからだろ。


「私が健一さんと契約を結んだのは、もちろんわけあってのことです」


 アスカはようやく、むくれた様子を止めて真剣な表情を作り、話し始める。


「そうだろうな」


「はい、先程勇者という言葉を出しましたが、私はその勇者の補佐を務める存在なのです」


 流石、精霊。


 大層な役割だな。


「それで、その勇者の補佐を務める精霊が、どうして俺と契約なんて結んだんだ」


 勇者の補佐を務めるほどの存在が、俺なんかと契約を結んだことがなおこと疑問である。


 俺はどこにでもいるようなサラリーマンであり、未だDランクの平凡な探索者。


 剣の腕に自信はあるが、それはモンスター相手には通用しない。


 それに対して、勇者。


 どんな存在なのかは分からないが、その役割は普通のモノではないだろう。


 世界を救うとか、安定させるため、そんな役割を担っているのではないだろうか。


「それが・・・実は健一さんの契約の優先順位が勇者を上回っていたからです」


 勇者を上回っていた?


「現在でも勇者は活動していますが、契約の優先順位は健一さんの方が上位になっていました」


「じゃあ、もしかして、壁が崩れて通路が出てきたのも」


「はい、契約に相応しい人間が現れたので、封印が脆くなったのでしょう。精霊が契約者となる人物と契約を結ぶのは必然ですので」


「そう、か」


 正直スケールが大きすぎて、いまいち要領を得ないというのが本音だ。


 勇者という御大層な役割を担っていけるとも思わないしな。


「それは精霊眼で分かったことなのか?」


「そうです。精霊眼は断片的ではありますが、原因を見つけることができます。今回はこのような形で答えが出てきましたが、実際にはその原因は様々な要素が絡み合って生まれていることがほとんどですので、そこまであてにすることはできません」


 何かしらの解は得られるということだろ。


 充分凄いじゃないか。


「よくは分からないが、とりあえず契約せざるを得なかったということだったんだな」


 それはなんというか、微妙な気持ちだな。


 その雰囲気が出ていたのか、アスカが慌てて手を振りながら、言葉を出す。


「そうですが、私としては」


「いいんだ。それにしても、勇者ではなく俺になったんだか」


 別にそこまで気にしていない。


 それにしても、だ。


 勇者という存在とかかわったことはないし、この世界にモンスターのような生物が生きていることも初めて知った。


 普通であることを除いても、俺が契約を結ぶのに相応しいとは思えない。


「僕としても驚きだよ。いかにも脆弱な人間って感じだったので」


 いつの間にか、気配が三つになっていた。


 俺は意識を戦闘用に切り替え刀を抜くと、声のした方に向き直る。


「反応はなかなかですね」


 部屋の壁際にもたれるようにして、一人の男が立っていた。


 年は二十代前半ぐらいで、顔立ちは優男風であるが、目は獣のようにギラついている。


 今はテレビでしか見ない昔の西洋貴族みたいな服装をしていて、髪は明るい茶色だが、目は血のように真っ赤で不気味だった。


「魔人か」


 アスカが今までの気さくだった態度を一変させ、厳しい表情を浮かべながら殺気を放っていた。


 魔人?また新しいワードだな。


(俺には人間にしか見えないが)


 コイツもヴァンパイアや精霊と同じような存在なのだろうか。


「今代の勇者は弱そうで助かりました。末端である私でも簡単に仕留められそうです」


 呑気なことを考えていると、優男からとんでもない圧力が放たれる。


 ここまでの圧力は今まで戦ってきたどのモンスターや人間よりも強烈だった。


「健一さん!」


 アスカが悲鳴を上げるように、俺の名を呼ぶ。


 それと同時に、優男の姿がブレた。


「では、早速狩り取らせていただきます!」


 男が目に見えないほどの速さでこちらに近づいてくるのが分かる。


 危機的状況だ。


 だが、俺は妙に落ち着いてもいた。


(ああ、コイツはモンスターじゃないんだな)


 モンスターでなければ、問題はない。


 俺は無造作に刀を振るう。


 気付けば俺の刀は、魔人と呼ばれた男の首を刈り取っていた。




読んでいただき、ありがとうございます。

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