第七話
「なんだ、その目」
アスカの右目が淡く虹色に光っていた。
闇を連想させる黒い瞳は姿を消しており、美しい虹色へと変貌している。
(嫌ぁな感じがするな)
虹色に光る右目を見ていると、俺は妙な寒気に襲われた。
嫌な感覚が身体にまとわりつき、俺が険しい顔をしていると、アスカが右目についてのことを、真剣な表情を浮かべて語り出した。
「右目が気になりますか?って当たり前か。これは精霊眼と言って、様々な因果を読み取ることができる魔眼です」
因果を読み取る?精霊眼?
また、おかしなワードが出てきたな。
「・・・」
勇者だの、契約だの、精霊だの、十分おかしかったが、これも大概である
ただでさえ理解しがたいことばかりなのに、更に出てくる新しいワードに、俺のパンク気味だった頭が更にかき回された。
「大体のことはこの瞳で見れば、答えが分かる、そんな代物なんです」
そんな俺に気づいているのかいないのか、説明を続けたアスカ。
(ホントにそんなものあるのか?と言いたくなるぐらい、ヤバそうな能力だな)
「では、一旦解除しますね」
それだけ言うと、アスカは右目を閉じる。
じっくりと十秒間目を閉じ続け、再び右目を開けると、虹色の輝きはなくなり、元の真っ黒な瞳に戻っていた。
(あれ?どうして俺は刀を握っていたんだ?)
ふと、右手を見ると、俺は愛刀の柄を握りしめていた。
(妙な寒気を感じたからか?)
剣術などの武術や武道、格闘技などの研鑽をしていく過程で、自ずと人間は危機に対して敏感になっていく。
それは俺においても同じであり、探索者となる前から危機を察知する能力はそれなりに持っていた。
恐らく、精霊眼は相当危険なモノだったのだろう。
無意識下で刀を握ることなど、初めての経験だった。
「とりあえず、分かりました。健一さんは私と会うべくして会った、それは間違いないでしょう」
先程よりも一層真剣な表情で言っているところを見るに、本気でそう思っていることが伝わってくる。
精霊眼というのが、どれほど正確なものなのか知りはしないが、彼女にとってそれは信憑性のある情報源らしい。
「なあ、アスカ?」
ここまで来て、俺は選択を迫られている気がした。
アスカは狂人だと判断し、ここから逃亡することが最も安全な選択だろう。
普通の人間が知り得ない情報、契約という魅力的で不穏な言葉。
正直アスカが嘘をついてまで、こんなことをする意味を見出せないため、俺は一連の言葉が本気なのだと思っている。
このままアスカの事情に深入りすれば、ヤバい世界に足を踏み入れるのは、明白だった。
(止めるべきだ)
ここで踵を返せば、また普通の生活に戻れるだろう。
比較的安全で、少し大変ではあるものの、ほどほどに幸せな普通の生活を享受できる。
それこそが、幸せなことなのかもしれない
(だけど、俺は嫌なんだよな)
ありふれた会社員として、凡百な探索者として、生きていく。
そんな生き様が嫌だったのだ。
もしかしたら、未知の領域に足を踏み入れれば、何か変わるんじゃないか。
俺はそんなことを期待していた。
だから、こんな場所に足を向け、わざわざ危険に飛び込んでいったのだろう。
「俺と契約したのには何か理由があるんだろ、それを教えてくれ」
もう引き返すことができない、俺はそんなことを思いながら、アスカにことの真意を問うのであった。
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