第六十話
「シッ」
キンッと、俺の刀と戦ノ鬼の金棒がぶつかり合い、火花が散る。
軽くぶつかり合っただけであるが、俺はその攻撃に途轍もない重さが秘められているのを感じていた。
だが、そんな重たい攻撃を受け流しつつも、俺の刀は刃こぼれしない。
完璧に、寸分のくるいなく戦ノ鬼の攻撃を受け流している。
(ただ攻撃が鋭いな)
戦ノ鬼の攻撃がより鋭くなっており、質の高い、厄介な攻撃と化していた。
重たさも増しているが、動きがコンパクトになり、速くなっているため、単純に面倒くさい。
(成長でもしてるのかねぇ)
もしそうなら、流石二十六階層のモンスターと褒めたいところだ。
モンスターが強いからこそ、俺がより成長できるのだから。
「GURUWAッ!?」
何度も打ち合いながら、俺は少しずつ戦ノ鬼の体勢を崩していく。
金棒を強めに受け流す。そうすることで、戦ノ鬼の重心を崩し、隙を誘発させた。
戦ノ鬼の重心が前にかかり、右足に体重がかかる。
俺は空いた隙を逃さずに刀を振るうと、戦ノ鬼の右腿がざっくりと斬られた。
既に浅い傷をつけていた個所に攻撃することで、より深く肉を抉る。
(俺の反応速度も増しているな)
内心、俺はほくそ笑む。
異能が使えないという状況は厳しい環境であるが、より大きな成長の機会を与えてくれる。
敵の攻撃を読めないわけであるが、当然そうした状況の方が、他の技能が上昇しやすいからであった。
今まではあまり使っていなかった神経を使い、敵の攻撃を掻い潜り、打ち倒す手段を開発していき、異能に頼っていた部分を、自身の他の技能で補っていく。
そうすることで、今まで成長していなかった部分が、今までは考えられないほどに成長していた。
(どうした?)
俺の刀が更に深く、戦ノ鬼の肉体を傷つけていく。
先程は右腿を深く切ったのだが、今度は左腿をザックリと抉った。
(そろそろか)
猛烈に脳内を駆け巡るアドレナリンを感じつつも、冷徹な思考で俺は刀を振るう。
より合理的な、洗練された攻撃に変わり、速さを増していった。
「GURUUUOOOOッ!!!!」
俺の刀が素早さを増すごとに、戦ノ鬼の攻撃もより苛烈になる。
野蛮さが薄れ、俺の命を刈り取るべくより危険な攻撃に進化していた。
(関係ないな)
しかし、所詮はモンスター。
成長などは仕様に過ぎない。
俺が戦いの中で成長していくスピードには追いつけなかった。
俺の刀が戦ノ鬼の金棒を弾き飛ばす。
金棒は戦ノ鬼の手から飛んでいき、クルクルと回転しながら地面へと落下していった。
「終いだ」
俺の刀が戦ノ鬼の心臓を貫く。
強靭な筋肉の鎧を裂き、守られていた心臓を抉った感触が確かに伝わった。
「ほう」
軽く息を吐き出し、刀を引き抜く。
俺がこびりついた血を払うと同時に、戦ノ鬼は目を見開いたまま地面へと倒れるのであった。
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