第五十九話
視線や重心の置き方などを上手く使って、フェイントを織り交ぜながら刀を振るう。
足を斬るように見せかけ、腹を狙っての攻撃だ。
戦ノ鬼はフェイントを読めるほどの技量は持っていないらしく、目先の動きにつられたため、俺は上手く腹を切り裂くことに成功した。
「GUBAA」
だが、その程度では戦ノ鬼は倒すことはできない。
戦ノ鬼の腕に血管が浮き出したかと思うと金棒がブレ、轟音を鳴らした強烈な一撃が俺の顔に迫ってきた。
俺はギリギリのタイミングで、転げるようにしてその攻撃を躱す。
(あぶねえ)
戦ノ鬼のそれは今の俺から見ても、人外のパワーであった。
俺もレベルを上げていけばいずれは手に入るのかもしれないが、モンスターとは本当に恐ろしいものであると、あらためて痛感する。
(少しずつ削るか)
まだパターンが読めていない上、身体能力の差を埋め切れていない。
豪腕鬼を安定して狩った後の狩り、つまり二十五階層までの狩りは身体能力が大きく向上し、モンスターと俺の総合的な能力は縮まるどころか、こちらが勝っていた。
(今は違う)
刀を巧みに使い、戦ノ鬼が振るった金棒を受け流す。
明らかにパワーが上の相手の攻撃を正面から受け止めるのは下策。
(幸い、こっちには今までの鍛錬の蓄積があるからな)
パワーは上回っているが、技量はやはりこちらの方が上。
そのため、通用していないわけではないため、一撃で仕留めるのは難しい以上削るのが上策。
受け流した力を利用して、戦ノ鬼の胸の辺りを斬ろうとしたが、バックステップで避けられた。
俺は間合いを詰めながら、力ではなく速さを意識して刀を振るう。
無駄のない素早い連撃は、時折防がれることはありつつも、着実に戦ノ鬼の体へと傷をつけていった。
「GUWAッ」
傷が増えていく中、戦ノ鬼が顔を顰める。
表情に出るということは、こちらの攻撃が有効な証拠だ。
そこまで致命的なダメージは負っていないが、細かく体を傷つけられるのが鬱陶しいのだろう。
(さて)
本音を言えば、さっさと突き殺したいところなのだが、致命傷を与えられそうな一撃は出させてくれない。
戦ノ鬼も急所の部分は重点的に守っており、その上頑強な肉体を持っている為、有効な一手はなかなか生まれなかった。
(これでいい、か)
雌雄を決してはいないが、問題はない筈である。
どこまで行っても、こちらが有利。
攻撃しているのは俺で、攻撃を受けているのは戦ノ鬼だということは変わりがないからだ。
戦ノ鬼の体には浅いものの無数の傷ができており、そこから血が少し垂れている。
(変えるか)
精神的な余裕が生まれてきた俺は、技の繋ぎのテンポを微妙に変える。
ちょっとした変化ではあったが、その変化に対応できず戦ノ鬼の反応は僅かに遅れた。
そこを好機と見て、既に傷をつけていた部分を更に深く斬りつける。
「GURAAA!!!」
ザックリと肉を斬る感触が伝わってきた。
戦ノ鬼の肉体は鋼のような硬い筋肉で覆われているが、まだ刀の方が強い。
(ん?)
戦ノ鬼から発せられる圧力が一段階上がり、何となくではあるが嫌感覚が体を襲う。
それと同時に鉄の塊である、金棒が振るわれた。
防御ではなく、こちらを殺すための攻撃として。
(捨て身か)
モンスターは我が身を重視しない。
自身が探索者の攻撃で死ぬかもしれなくとも、関係なく捨て身で攻撃に回ることがある。
それがまさに今だった。
(決死の攻撃は厄介なんだよな)
死をも恐れないのだから間合いが狂うし、流れが変わってしまうのだ。
それは避けなければならない。
仕方なく俺は攻撃をやめ、防御に回る。
「GURAAAAAAAAッ!!!!!」
金棒が嵐のように振るわれた。
俺はそれを掻い潜るようにして躱し、冷静に刀を使って捌く。
ここからが本当の死闘の始まりだった。
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