第五十八話
第二十五階層では二日程狩りを続けた俺たち(主に俺だが)は、ダンジョンに籠り始めてから四日目に突入した。
四日目は半日ほど第二十五階層で狩りをした後、次の二十六階層に向かっている。
「彩としては、二十六階層のモンスターと俺の相性はどんな感じだと思う?」
第二十六階層に生息するモンスターは戦ノ鬼というモンスターだ。
見た目はオーソドックスな創作上のイメージに近い一本角の鬼であるが、強さは今までのモンスターよりも数段上であり、体高は約二メートル弱。
武器は大太刀、金棒のどちらかで、戦い方は武器を主体に、近い間合いで戦うのを得意としており、特に突出した面はないものの、シンプルに強い。
それが戦ノ鬼というモンスターであった。
「相性は悪くない、むしろいいと思いますよ。澄原様もかなりレベルが上がっているので、少なくとも惨敗を喫することはないかと」
無感情に言う彩であるが、彼女の肌の血色はいい。
俺と同様にアスカから魔法をかけられているからである。
彼女の魔法の凄さを、俺も肌で感じていた。
「そうか、ふむ」
彩はこう言っているが、実際どんな感じだろうか。
ここに来て、レベルは130ぐらいになっていると思われるわけだが、このレベルで通用するのだろうか?という疑問がわいている。
身体能力の向上は著しいが、ここからはモンスターの強さがだいぶ増しており、苦戦を強いられる可能性が高い。
「おっ、いたな」
ありふれた見た目の鬼が、通路の先からこちらを見ていた。
情報通り見た目はごつく、武器は金棒を肩で支えるようにして持っている。
俺たちにそこまで興味を持っていないような仕草だが、瞳からは殺意が漏れ出ているのが感じ取れ、他のモンスターと同様、人間を殺すことしか頭にない。
「危なくなったら、よろしく」
俺は彩にそれだけを言うと、ゆっくりと間合いを詰めていく。
(凄い、圧だな)
戦ノ鬼というモンスター、思ったよりも圧力が凄い。
近づけば近づくほど、その強さがヒシヒシと感じられる。
(小手調べと行くか)
俺は鬼切を左手で抜くと、逆手に持つ。
この脇差はかつて鬼を斬りまくっていた者が使っていた代物であり、それがダンジョンのモンスターに有効かは分からないが、なんとなく使った方がいいと、そんな気がしていた。
「シッ」
俺は一気に間合いを詰めると、すれ違いざまに戦ノ鬼を斬りつけにかかる。
だが、戦ノ鬼は俺の動きに合わせて、金棒がブレる。
「チィッ」
すれ違いざまに腹を裂こうとしたのだが、金棒によってあっさりと防御されてしまった。
俺はもう一つの刀を抜きながら背後に立つと、背中を斬りつけようとするが、この攻撃も反応されてしまい、皮膚を浅く傷つける程度で終わってしまった。
「AAA」
戦ノ鬼がこちらを振り向く。
「うおっ!」
強烈な一撃。戦ノ鬼の剛力によって、金棒が横なぎに振るわれる。
俺はそれをバックステップでギリギリ躱した。
金棒は二メートルに届かないほどの長さで、こちらの武器に比べてかなり長く厄介である。
「GURUA」
戦ノ鬼の目が大きく開かれる。
筋肉が一回り程膨張したかと思うと、地面を僅かに陥没させるほどのパワーで地面を蹴り、こちらに突っ込んできた。
「シッ」
その攻撃に対して、俺はタイミングを上手く合わせながら刀を突きだす。
絶妙な距離感のもと放たれた一撃は、異能がないにもかかわらず、かなりいい質の高い一撃であった。
「GURAAAAAA!!!」
俺のカウンターに対して、戦ノ鬼は雄たけびを上げつつ金棒で、俺の繰り出した刀を弾いてくる。
いいタイミングではあったが、防がれてしまった。
(つええぇ)
俺は再度距離を取り、睨み合う。
今まで戦ってきた鬼であれば、勝負が決まっていた一撃ではあった。
(ギリギリで防がれてしまうとは)
俺がハイペースでダンジョンを進め過ぎなのだろう。
今までも想定よりも厄介であったり、強かったりはあったが、ここまでその頻度が多いのは、単に異常な速さでダンジョンを進んでいっているからにすぎないと、俺は考えていた。
(打開しますか)
今までと同じように。
異能が使えないということが枷にならないほどに、今の俺はこの状態に順応していた。
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