第五十七話
豪腕鬼狩りを終えた俺たちは、第二十二階層から第二十四階層のモンスターを軽く蹴散らしたのち、第二十五階層へと足を踏み入れていた。
(ここのモンスターもなかなか歪なんだよな)
第二十五階層を徘徊しているのは二頭隻腕ノ鬼と呼ばれるモンスターだ。
言葉の通り、片腕のみしかなく右肩から先は存在しておらず、頭部が二つある鬼である。
どちらの顔も常に笑みを浮かべていることが特徴で、左腕は豪腕鬼以上に巨大であり、近づいて戦う時は要注意だ。
(やるか)
ゆっくりとした動きでこちらに近づいてくる、二頭隻腕ノ鬼。
緩慢な動きと、ニッコリとした笑みを浮かべているのが、より一層不気味さを際立たせている。
「いくぞ」
俺はいつもの愛刀に手を添え居合の構えを取ると、一気に距離を詰めていく。
兎が野を駆けるように近づく俺であったが、刀の間合いに入る前に、二頭隻腕ノ鬼の二つの口がパカッと開き、宙に炎の塊が形成された。
(おお)
俺は慌てて進行方向を変え、ジグザグに地を駆ける。
そのタイミングで圧縮された炎の弾が俺に向かって撃ち出されたが、不規則な動きをしたのが功を奏したのか、俺の体に当たることなかった。
(凄い威力だな)
射程は短いそうだが、膨大な熱量の込められた炎は当たった場所を陥没させるほどの威力を持っている。
当たっていれば、即死間違いなしの一発だった。
(さっさと距離を詰めてやろうと思ったが)
再び間合いを詰めた俺に対して、二頭隻腕ノ鬼の左腕が豪快にスイングされた。
俺は身をかがめることで、重心が乗った強烈な横なぎの一撃を躱すことに成功する。
これも当てられれば、ひとたまりもない一撃だ。
(面倒だな)
再び炎の塊が射出される。
今度は逆に前に距離を詰めるようにして飛び込むことで、その攻撃を躱した。
(まあ、問題ないが)
俺は刀を振るい、二頭隻腕ノ鬼の足を傷つける。
深く切り込みを入れた筈だが、二頭隻腕ノ鬼はその攻撃にも怯むことなく笑みを浮かべたまま、炎の弾を準備する。
自身が炎を浴びる可能性もある中、微塵も躊躇していないようだった。
(モンスターはモンスターだな)
俺は回り込むようにして、二頭隻腕ノ鬼の後ろに立つと刀を腹に突き刺し、一気に刀を横にずらした。
腹が一気裂かれ、ドバっと血が噴き出した。
「GYURAAAA」
たまらず声を上げた二頭隻腕ノ鬼であったが、俺は苦悶の声を上げつつも笑顔を維持していた頭を一つ、鬼切を使って斬り飛ばした。
すると、斬り飛ばされていない方の頭が俺の方を向けられる。
(顔、こっわ)
終始笑みを浮かべていた顔は憤怒の表情に変わっていた。
笑顔もそれなりに不気味ではあったが、この顔は圧が凄い。
二頭隻腕ノ鬼は怒りの表情を浮かべたまま、先程よりも更に大きな炎の塊を形成した。
「ほいっ」
だが、そんなことは関係ない。
そんな様子に俺はひるむことなく刀を、口の中に刀の切っ先を滑り込ませた。
「GYUREREEE」
口から血を吹き出しつつも、左腕を振り上げる二頭隻腕ノ鬼。
俺は攻撃を警戒し、刀を引き抜くと距離を取った。
「GU・・・」
拳を振り上げたまま、うつ伏せに倒れ込んだ二頭隻腕ノ鬼。
特に怪我を負うことなく、戦闘は無事終了した。
(次は第二十六階層になるが、実際どれぐらい強いのやら)
死体が光となって消えていくのを見ながら、俺はあらためて身を引き締めるのであった。
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