第五十六話
あれから十時間ほど、ほぼぶっ続けで豪腕鬼狩りを続けた。
レベルアップの過程で体力は大きく向上しており、筋力も向上している為、狩りの効率は一層増している。
(これで九十八体目か)
一刀のもと、斬り捨てていた豪腕鬼が消えていく。
死体はキッチリと両断されており、俺の実力が向上したことを表していた。
「はあ」
俺は既に拾えないほどの数になった魔玉を見て、深く息を吐いた。
体力の向上を持ってしても、精神的な疲労は癒えない。
作業のように処理をしていく戦いではあるが、一瞬のミスはまだまだ死につながるため、気の抜くことができなかったのだ。
かなりの緊張感を持ったままの戦闘は酷く心を疲れさせる。
それは昨日と今日の唯一変わらない点だった。
「最後の二体は、私が連れてきましょう」
正直あまり動きたくないので助かる。
こうして数分程度であるが休息を取っていると、彩が二体の豪腕鬼を連れてきた。
(デカいな)
両方とも、今まで見た普通の個体よりも幾分大きい個体だ。
高さ二メートルほどの豪腕鬼と、それを二回りほど大きくしたサイズの個体で、このサイズは初めて見る。
「後はよろしくお願いします」
彩が軽快な足取りで横切っていく。
俺が前に立ちはだかっているのを認識したのか、豪腕鬼は視線を彩から俺へと変え、ニタリと顔を歪めた。
(レベルとか見えてるのかねぇ)
彩の戦いの時はそこまでなのだが、俺に対しては妙に余裕の態度を見せてくることが多い。
彩に比べてはるかにレベルが低いというのをしっかりと認識してのことだと思うのだが、実際のところ、よく分からない。
(さて、やりますか)
俺は二振りの刀を両方抜き、構えを取る。
それと同時に豪腕鬼が二体同時に跳躍し、一瞬で俺の目の前へとやってきた。
「「GURAAA!!!」」
ほぼ同時に打ち出された拳ははたして、空を切った。
俺が完璧に間合いを見切り、両者の拳を躱したのである。
「シッ」
躱したままの体勢で鬼切を振るうと、デカい方の右腕を斬り落とした。
そしてもう一方の刀は、小さいほうの豪腕鬼の首へと深く突き刺さっており、更に、片腕を失った豪腕鬼へ、返す刀で左腕も斬り落とす。
その間、突き刺した刀をねじるようにして引き抜くと、今度は骨の隙間を通るようにして心臓を突き、瞬時に引き抜いた。
(一体は終わりだな)
首と心臓を貫かれ、とめどなく血を噴き出す豪腕鬼は目から生気を失い、地面に倒れ込む。
両腕を斬り落とされた豪腕鬼もようやく現実を理解したのか、血が溢れる両腕を向けながら、こちらを睨みつけてきた。
(傷口が治った?)
切断したはずの豪腕鬼の腕が逆再生のように再生していく。
俺はそれを待つことなく、刀を躍らせた。
胸に深い十字の切込みを入れ、その中央に鬼切を滑り込ませる。
今までは動きの遅さが問題であったが、レベルや剣術の質の向上によってその問題は既に解決しており、豪腕鬼の攻撃を躱しながらこちらが一方的に攻撃をすることが可能となっていた。
「GRUAッ」
ゴリッと何かを抉るような感触が手に伝わると、豪腕鬼はうめき声を上げる。
もう一体の豪腕鬼の瞳からも生気が消えていき、やがて、呼吸音も完全に途絶えた。
「終わった終わった」
刀を引き抜き、軽く血ぶりをする。
いずれ消えるとはいえ、血が付着したままなのはあまり好きではない。
「最初とは比べ物になりませんね」
顔を若干顰めながら彩が言う。
「まあ、だいぶ読めない状態にも慣れたし、ここ最近は質の高い戦闘が多かったからな。そりゃあ、強くもなるさ」
ここ最近の成長っぷりは学生の頃よりも遥かにいいんじゃないだろうかと思われる。
レベルアップの効果も多分にあるが、剣の冴えは更によくなっており、剣士としても数段上の領域に足を踏み入れている感じがしていた。
「じゃあ、次の階層に行くか」
早めに行って慣らしておかないと、アスカが来るまでにテントを張れない。
そんなことを考えながら、ダンジョンの奥へと進んでいく。
「そうですね」
そう言った彩の声色はいつもの平坦なモノだった。
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