第五十五話
一夜が過ぎ、二日目がやって来る。
通路の端でテントを張っていたので、その中で片方が眠り、片方は見張りをするという形で、俺たちは一夜を過ごしていた。
「それでは今日も狩りをしましょうか」
探索前に軽く体を伸ばす彩と俺。
俺は戦いに備え、二振りの刀を軽く握り、感触を確かめる。
(特に調子は悪くなさそうだ)
握り一つで漠然とだが、剣士としての調子が分かる。
昨夜はあまり眠れていなかったが、調子は良好のようだ。
レベルアップの恩恵が大きいのかもしれない。
(あと、アスカの魔法だな)
アレはよく効いた。
疲れが本当に吹っ飛んだのである。
それが今も反映されており、いつでも戦えるといった気持ちにさせられた。
「了解、じゃあ行くか」
俺たちはダンジョン内の薄暗い通路を進んでいく。
ダンジョンの内装はほとんど変化がないとされているのだが、それはあくまでも現在分かっている階層だけの話であり、その階層以降がどうなっているのか、それは誰も知らない。
いずれはそれを知りたいところだが。
(それまで、俺の体が持てばいいな)
年には勝てないからな。
レベルアップによる肉体の強化もどの程度年齢に抵抗できるのかは分からない。
「GUUU」
そうして通路を進んでいくと、少し小ぶりなサイズの豪腕鬼が通路の先から登場する。
相変わらず出合い頭に顔を兇暴に歪ませ、好戦的な表情を作っていた。
「GURAAAAA!!!」
強靭な筋肉を内包した腕を使って一気に駆けてくる豪腕鬼。
瞬時に間合いを詰め大きく振りかぶられた拳は、俺の頭を粉砕することなく、引き抜かれた刀によって容易く受け止められた。
「GUA?」
軽く当てられた刀が、豪腕鬼の拳に食い込む。
皮膚を裂き、薄い血が流れ始めると同時に、俺の刀が躍った。
手始めに豪腕鬼の首筋を浅く切ると、それを皮切りに体をなぞるようにして浅く切っていく。
僅か一秒、それだけの時間で刀は二十以上振るわれ、豪腕鬼の全身から血が噴き出した。
(まだだな)
俺の身体能力は大きく向上し、豪腕鬼を相手にするに問題がない水準にまで高まっているが、まだ、弱い。
「GUUURUU」
ザシュッという音と共に、分厚い筋肉を断つ感触が伝わる。
俺が隙ができていた部分に深く刃を滑り込ませたのだ。
既に浅い切込みが入っていたこともあり、あっさりと硬い筋肉を断つことができる。
「GURAッ」
唖然とした表情をしている豪腕鬼であったが、瞳が徐々に黄色く染まってくるのが分かった。
「終わりだ」
色が変わり切る前に、俺はより深く刃を滑り込ませていく。
押し当てられた刃は更に沈んでいき、しまいに豪腕鬼の肉体を両断するに至った。
「そういえば、このまま第二十一層で狩りを続けるのか」
バタリと豪腕鬼の上半身が、地面に落ちる。
それを見届けながら、俺は彩の方を見ずに言った。
「だいたい三秒程度ですか。手慣れたものですね」
豪腕鬼の死体を見ながら、無感情に言う彩。
彼女の場合は一秒足らずで両断して終わるので、感情が込められていなくともおかしくはないが、少し悔しいのが本音だ。
「ありがとさん、それで返答は?」
正直、このままここで狩り続けても、かなりのレベルアップが見込める。
俺のレベルは既に100は超えているが、本来この階層はレベル200程度の探索者が潜る階層だ。
ここで豪腕鬼をひたすら狩っていったとしても、あと40~50程度はレベルが上がるだろう。
(ただ、さっさと上に行きたいんだよな)
二十五階層までのモンスターはそこまで強くない、というか、強さの方向性は違うが、豪腕鬼程度の強さのモンスターが徘徊しているのだ。
戦ったこともないのに、いきなり情報を鵜呑みにするのも危険ではあるが、これは探索者協会が公開している情報のため一定の信憑性がある。
経験値はより上の階層の方が良く、レベル上げという目的を考えれば理想的だ。
「あと、百体ほど狩ってからにしましょう。まだ精度はあげれるでしょう?」
少し挑発的な笑みを浮かべる彩。
俺の心に火をつけるのが目的だろう。
「へいへい」
俺は肩を竦めながら頷く。
百体狩る時には、せめて二秒は切ろうと決めるのであった。
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