第五十三話
「GUUU」
豪腕鬼の瞳が淡い黄金色に光っている。
モンスターは大抵赤い目を有しているのだが、今の豪腕鬼は暴走状態のため、瞳の色が変化していた。
「GURU」
力を溜めた豪腕鬼の腕が、1.5倍程度に膨張する。
今までよりも膨張時のサイズは巨大化しており、そのことから単に暴れることを指す暴走状態ではなく、戦闘能力の向上であることが分かった。
「GA!」
筋肉の膨張が最高潮に達した瞬間、ズドンという破壊音と共に、豪腕鬼は俺の方へと跳躍してくる。
通常は足を使った動きを腕を使って行うのが豪腕鬼の特徴なのだが、歪な動作であるにもかかわらず、そのエネルギーは普通の獣よりも更に大きい。
まるでチーターが一気に獲物に駆け寄るような、そんな俊敏さを持っていた。
「GUAAAA!!!」
距離を瞬時に縮めた豪腕鬼は得意のラッシュを仕掛けてくる。
雑ではあるものの、先程よりも更に圧倒的なパワーが込められた即死級のパンチが、俺へと襲い掛かってきた。
(あめぇんだよ)
しかし、その程度の変化ならば恐るるに足らず。
パワーとスピードは脅威ではあるが、この戦いに順応し始めた俺にはそれは大きな脅威たり得ない。
(油断はできんが)
刀が一瞬揺れたかと思うと、その刃がぶれた。
豪腕鬼のパンチに合わせた完璧なカウンターは、その拳を受け流しながら皮膚を裂く。
「シッ」
豪腕鬼のラッシュと同時に、俺の刀が縦横無尽に暴れまわる。
外から見れば粗野で乱雑な剣の振るわれているように見えるかもしれない。
だが、その一合一合はタイミング、位置、気合の込め方などなど、全てが緻密に行われる一撃。
その一発一発が剣技そのものであった。
様々な角度から刀が最短で振るわれ、豪腕鬼を襲う。
まるで生き物のように自由自在に伸びる剣は、獲物をじわじわといたぶる蛇を思わせた。
(強いなあ)
そんな現時点で最良の剣術は、豪腕鬼の皮膚を裂くことこそ叶っているものの、みっちりの隙間なく埋まっている筋肉を断つことができない。
急所を狙いたいところではあるが、その一撃を放つタイミングはなかなか生まれない。
それだけ、豪腕鬼のスピード、パワーが俺の攻撃を邪魔をしているということだ。
(ならば)
暴走前の豪腕鬼を相手にしたように、同じ個所を切り続けるのみ。
暴走状態の豪腕鬼は肉体の強度すら増しているようだが、絶え間ない連撃を与え、豪腕鬼の攻撃を防ぎながらも、徐々に皮膚を削り取っていく。
「GURURUUU」
肉に刃が入り始め、豪腕鬼は苦悶の表情を浮かべた。
そうした中でも機械的なラッシュは終わらない。
殺意の籠った死の拳撃が雨のように俺へと降り注いでいた。
(そろそろだな)
僅かに肉を削り取り始めた。
俺の刀が明確に暴走状態の豪腕鬼へと通じ始めたのである。
肉を削るたびに、豪腕鬼の精彩さは欠き始め、動きが少しずつ鈍り始めた。
(そこだ)
豪腕鬼の腕を半分ほど切り裂いた頃、冷静に動きの隙を見極めた俺は刃の向かう方向を僅かにずらす。
その腕を切り落とすこともできた一撃により、刃は豪腕鬼の太い首へと食い込んだ。
「おらっ」
それを一気に横へとスライドさせる。
刃が深く豪腕鬼の首を傷つけたことで首は千切れかけ、肢体は地面へと崩れ落ちるのであった。
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