第五十一話
(さて、どうするか)
「GURUUUII」
ニタリと顔を歪めた豪腕鬼。
強烈な悪寒を感じた俺は十分な距離、拳が確実に届かない位置にまで、間合いを取った。
単純にリーチのことだけを考えると、向こうの方が長い分有利であるが、俺には刀があるためその辺りはカーバーできている。
しかし、パワー、スピードで豪腕鬼が俺を上回っており、戦う身としてはかなりキツイというのが本音であった。
「GRUUUAAAABOOO!!!」
豪腕鬼は空いた距離を一気に詰めてくると、再び拳を振るってくる。
ダンプカーが突っ込んでくるような圧が、俺を襲ってきた。
「くそったれ」
刀を振るって拳撃を流す。
一手ミスするだけで、死ぬことが確定する攻撃だ。
俺は今まで以上に、いや、過去最高レベルで全神経を集中させ、戦いに臨んでいた。
「GUAAAAAAARUAAA!!!」
豪腕鬼が雄たけびを上げながら、凄まじいラッシュを仕掛けてくる。
俺はその攻撃に何とか食らいつくようにと、刀を使って拳をいなしていた。
(ヤバい)
膂力で負ける俺はこのままでは、防戦一方になるだろう。
想定よりもパワーがあり、スピードもイメージしたものよりもかなり上だ。
攻撃が完璧に読めるわけではない以上、苦戦は避けられない状況である。
拳の嵐による攻撃を、俺は全て先取りする気持ちで刀を振るっていた。
(はは)
刀を振るい攻撃をいなして、いなして、いなしまくる。
今のところ、俺は豪腕鬼との戦いが成立している。
だが、このままではいずれはズレが出て、拳を貰ってしまうだろう。
そうなれば、終わり。
俺の人生は幕を閉じるだろう。
(ああ、すっげえ)
アドレナリンが脳を、体をぐるぐると回っている。
心拍数が上昇しているためか、今の俺には心臓の鼓動すらはっきりと聞こえていた。
(これが死か)
こいつと戦えば、死ぬ。
そんな漠然とした予測ではなく、明確に分かる、近くに転がっている死。
それが俺を焦らせ追い詰め、そして技を昇華させた。
(最高だ)
攻撃をいなしていると、徐々に刀を振るう速さが増していく。
これは物理的な速さではない。技と技のつなぎの無駄が削ぎ落され、より高次の剣術へと変貌しているのだ。
(心地いいな)
徐々にではあるが刀と俺がリンクしたような、まるで体の一部になったような、そんな感覚に包まれる。
剣は鋭さを増し、より速く、より重くなっていくと、しまいにはいなしながらでも、豪腕鬼の厚い肌を切り裂くほどに俺の一撃は凶悪さを増していた。
「GUWAAAARU?」
先程までは押し負け気味であったが、その攻勢が徐々に変わる。
ただ受け流すだけだった防御が、相手にダメージを与える攻撃に転じつつあった。
(見つけた)
攻撃の僅かな隙間を見つけ、一撃を入れる。
元より、どちらも名刀である。刀の性能自体は高い。
刃が豪腕鬼の体に深く食い込む。
刀を振り切ると、肉を裂いたような感触が伝わってきた。
「GUUUUUUAAAAAA!!!!!!」
雄たけびを上げ、後退る豪腕鬼。
今のはかなりのダメージが入ったのだろう。
「ははは」
(ようやく効いたな)
愉快な声を上げながら、俺は好戦的な笑みを浮かべるのであった。
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