第四十六話
「それ、どうした?」
姿がガッツリ人じゃなくなってるんだが。
角生やしちゃってるし、彩から放たれる圧力も更に増している。
肌の血色のなさはまるで幽鬼のようだ。
「鬼の姿になっているだけですが」
彩はそう言って、きょとんと首をかしげる。
(やっぱ、鬼なんだな)
肌が青白いのは鬼になる制約だろうか。
「ただ、どちらかというと俺が気になってるのは、どうしてそうなってるのかだな」
今は鬼なのか~と受け止めてる部分はあるが、驚きにしかない。
てか、いきなりそんな姿見せられたら驚くだろ、普通は。
「ああ、そういうことですか。すみませんね、この姿になると思考が鈍化してしまって」
彩は体を反らすようにして、ぐっと伸ばす。
彩はもともとプロポーションがいい。
なので、そういった体を反らすようなポーズを取られると体の一部分が強調される。
(本当に思考が鈍っているな)
「それで、どうしてこんな感じになってるんだ?」
俺はサッと視線を外して、彩に言う。
こんな状態なのだ。視線を外すのが礼儀だろう。
「そうでした。私、実は鬼と人のハーフなんですよ」
そう言って、彩は反らすような姿勢を止めると、メイドの時のようなピンと背筋を伸ばした姿勢になる。
再び彩に視線を戻すと、彼女は額に生えた角を撫でていた。
「じゃあ、俺と一緒なのか」
俺も何かの怪異と混血らしいし。
しかし、俺の言葉に彩は首を横に振った。
「少し違いますね。澄原さんは祖先の方が怪異と結ばれたケースですが、私は母が鬼なので」
そう言うと突然、彩はバク転をしながら、どこからともなく取り出したナイフを投げつける。
「ゲヒィ!?」
はたして、そのナイフは術ノ土鬼をダンジョンの壁へと縫い付けた。
気配は感じていたが、もう戦って慣れていたので、距離的にも大丈夫かと思っていたのだが、彩が片付けたようだ。
「ゲヒィゲビィッ」
じたばたともがくように暴れるが、ナイフは首にしっかりと突き刺さっており、全く抜ける様子がない。
完全に決まっていた。
「ゲバビべア゛」
血がとめどなく溢れ、零れていく。
動きがどんどん鈍くなり、やがて痙攣だけを起こして、全く動かなくなった。
「へえぇ、川崎邸では見なかったけど、どこにいるんだ」
死体が光の粒子となるのを見届けながら、話を続ける。
「父が鬼を娶ろうとしたので、お爺様に殺されかけて命からがら逃げて、今は日本には居ませんね。どうせ、海外のどっかで悪人をぶっ殺しながら金を巻き上げて生活しているんだと思います」
「それはまた」
両親もなかなかにぶっ飛んでるなあ。
俺は自分の両親がどんな性格なのかも知らないが。
俺は足元から生えてきた槍を居合の要領で、全て斬り落とす。
続いて左手で鬼切を抜き、彩が投げたようにしてぶん投げた。
「ゲビャッ!?」
ドスリと術ノ土鬼の顔面に鬼切が突き刺さる。
術ノ土鬼は横にぶっ倒れたかと思うと、そのまま光の粒子となって消えた。
クリーンヒットしたようである。
「お見事です。澄原様、流石ですね」
そう言った彩の額には既に角がなくなっていた。
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