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第四十五話

 


「お見事です。よく倒せましたね」


 そう言ってきたのは俺と術ノ土鬼の戦いを見ていた彩だ。


(そういえば、居たんだったな)


 相手のレベルが高く戦いにかなり集中していた。


 そのため、彼女の存在を忘れていた感は否めない。


「おう、ありがとう」


 申し訳ないと少し思いつつ、誤魔化すように礼を返す。


 ただ、今回の戦いを無事勝利できたのは達成感が大きく、俺としても彩からの称賛は嬉しかった。


「いえ、難しいと思っていたのですが、よくぞ勝てました」


 何度も頷きながら、彩はほっとしたような表情を見せる。


(そんなこと思ってたのかよ!)


 とは言え、心配はしてくれてたようなので、強くは言わない。


 だが、なかなか失礼なことを考えていたものである。


(あんま期待してなかったんだな)


 レベルは95しかないので、無理もないが。


「腕輪の影響が多分に働いたと思うけどな」


 左手に着けていた銀色の腕輪。


 この腕輪の効果が想像以上に大きかった。


 レベルアップによって一か月前よりも身体能力自体は強化されているが、戦っている最中にあそこまで上手く動けたのはこの腕輪のおかげである。


 正直、これを着けていなければ、あのような形で勝つことは相当難しかったのではないかと思った。


「かなりいい腕輪ですからね。たしか、五十階層から出てきた代物だったと記憶しています」


「そんないいものだったのかよ」


 現在、世界の最高到達階層は六十九階層。


 日本ダンジョン戦線のチームがその踏破を成し遂げたのであるが、日本で二番手とされるチームの最高到達階層は六十二階層である。


 一位である日本ダンジョン戦線は昔から日本はおろか、世界でもかなりトップに食い込むチームで実力は桁違いに高い。


 そのため日本で五十階層まで行っているチーム、パーティーは百にも満たない程度しか存在しない。


 秘匿されているチームなどもあるだろうが、公開されている分は概ねその程度しかいない筈である。


 それに、到達するのとアイテムを入手するのは同義ではない。


 より難易度は増し、そんなことができる探索者はより少ないと思われた。


(てか、すげえな。日本退魔連合)


 推定ではあるが、この腕輪は一億程度だろう。

 

こんなものをポンと渡すとは、底が見えない。


俺が精霊の契約者ということで恩を売っているのだろうが、それでもその権力、資金力などが途方もないということを見せつけられた感じだ。


(敵に回せば、どうなるか)


その辺りも伝えるために、見せつけているのか?


深く考えても、答えは出ないだろう。


(とりあえずは敵に回さないように気を付けますか)


俺はそう結論を出した。


「それにしても、彩は戦わないのか?」


 俺が戦っている時はずっと黙って見ていたようだが、このまま一回も戦うことがない、なんてことは流石にないだろう。


俺が彩の方を見ると、彼女はこちらに視線を合わせ、深く頷いた。


「私も戦いますよ。先程は澄原様の実力見るため、手を出さなかったので」


「そうだろうな」


 じゃないと、修業とは言いつつも、あんな旨味のないことをさせないだろうし。


 レベル上げはモンスターを倒した分だけ、上がりやすくなるものだ。


 それだけが目的だったら、協力してやった方が効率はいい。


「では、私も戦いましょうか」


彩が通路の正面に視線を向ける。


 呑気に話していたためか、再び術ノ土鬼が姿を現していた。


「ゲヒャヒャ」


 先程と同じく汚らしい声で嗤っている。


その声を聞くと、ぶっ殺したくなるが、今回は彩のお手並み拝見と行こう。


「澄原様はしっかりと見ていてください、でないと」


彩が言葉を一度切ると、鬼が乗り移ったかのように壮絶な笑みを浮かべた。


「直ぐに終わってしまいますから」


 彩の雰囲気が一変する。


 今までも警戒していたためか、そこそこに圧を放っていたが、今のそれは全くの別物だ。


 熊?虎?そんな野生動物で例えられるようなレベルではない。


(さしずめ、龍か)


 一匹の龍が出現したような圧が、俺にも降りかかる。


 道場で戦った際にはそのようなものは感じなかったが、彼女の実力は道場で打ち合うようなもので発揮される感じではなく、闘争そのものなのだろう。


「いきます」


 弾丸のような速さで、飛び込んでいく彩。


 ギリギリ目で終える速さで、あっという間に術ノ小鬼に迫っていた。


「ギョヘッ!」


 あまりの速さに驚いた表情を見せる術ノ土鬼だが、すぐさま土の壁を出現させ、彩の進行を防ぐ


「残念です」


 ポツリと彩が呟いた。


 刀が横に一閃、薙ぐように振るわれる。


「は?」


 俺は酷く間抜けな声を出した。


 彩が振るった刀の刃渡りと間合いでは、地面から出てきた壁にすら届かない。


 しかし、土の壁はおろか、術ノ土鬼の首すらも綺麗に一刀両断されていた。


「ふう」


 刀を納める彩。


「お前」


 俺は絶句する。


 現在、彩の姿は人間のモノではない。


 肌は少し青白くなっており、彼女の額には、一本の角が生えているのであった。









読んでいただき、ありがとうございます!

ジャンル別週間ランキングで1位になることができ、更に同月間ランキングでも8位にランクインすることができました。

皆様のおかげで、ここまで来ることができました!

本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「推定ではあるが、この腕輪は一億程度だろう。 こんなものをポンと渡すとは、底が見えない」 腕輪、この探索時だけの借り物かと思いましたが、贈与されたと言う事なんや。
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