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第四話

 


 はたしてヘル・ハウンド狩りは順調であった。


 俺からすればこの程度のレベルのモンスターは攻撃パターンが少なく読みやすいため、楽に倒すことができる。


(上位のモンスターは全然ダメだけどな)


 より上位になっていくとモンスターの攻撃パターンも多種多様になる上、攻撃の速さや威力も段違いになる。


 そうなってくると俺如きでは読めなくなるため、仕留めることはできない。


 また、俺の現在のレベルというのも関係している。


 ダンジョンが生まれ、様々な未知のアイテムが持ち帰られたが、その中でも人間社会に一際大きな影響を与えたものの一つが【鑑定の水晶】だった。


 この【鑑定の水晶】は触れた人間のレベルというものを測るアイテムで、そのレベルの高低は探索者のランクを決める要素となっている。


 現在のオレのレベルは76。


 Dランクとしてはまずまずだが、Cランクの条件となる120には遠く及ばない。


 より奥の深い階層に行く探索者のレベルは200、300程度ゴロゴロおり、レベル500の探索者も決して珍しくはない。


 低いレベルではモンスターの人外の身体能力についていけず、戦いにならずに殺されるのがオチだ。


(その辺は才能ってことなんだろうな)


 そんな俺でも、ヘル・ハウンド程度のモンスターであれば容易く狩れる。


 ヘル・ハウンド狩りは別段労することなくトントン拍子で進んでいった。


「二匹同時か」


 ヘル・ハウンドが二匹同時に猛スピードで駆けてくる。


 俺は二匹の攻撃を躱しながら前に出てきていたヘル・ハウンドの喉笛を掻っ切る。


 すると、たった一撃で光の粒子となって消滅させることに成功する。


「ガウッ!」


 もう一匹のヘル・ハウンドが仲間の死をものともせずに襲い掛かってくる。


 俺は突きを放つが、僅かに逸れてヘル・ハウンドの右前足を斬りつけた。


「せいやッ!」


 刀を両手で持つと声を張り上げながら、全力で振り下ろす、


 完璧な振り下ろしはヘル・ハウンドの頭をかち割り、倒すことに成功した。


「これで十一匹目か」


 光の粒子に変わるのを見届けると、地面に落ちていた二つの魔玉を手に取り袋に詰める。


 少し手間取ったこともあって、垂れてきた汗を拭った。


 低級のモンスターといえども、理解不能の相手とする命のやり取りは堪える。


 それに既に十戦はしているので、精神的にはかなり消耗していた。


「ここらで一休みするか」


 リュックに入っていた水筒を取り出し、中に入っている水を一気に飲んでいく。


 こうした戦いの中ではお茶やコーヒーなどよりも、どこにでもある普通の水が身体に良く染みた。


「ふう」


 ある程度水を飲むと、水筒を直して壁へともたれかかろうとする。


「は?」


 身体を壁へと預けた筈なのだが、妙な浮遊感を感じる。


 そこで初めて、壁がボロボロと崩れ落ちていることを認識した。


「あっぶな」


 俺は上半身をばねのように動かし、何とか体勢を持ち直す。


 割とギリギリだったため、危うく地面に倒れ込むところだった。


 刀は鞘に収めていたので危険はないが、もし抜き身のままだったら自分の刀で怪我をしていたかもしれない。


 俺は今日一番にかいた汗を拭いながら、崩れた壁の先を見てみる。


 先は真っ暗で、どのようになっているのか全く分からない。


「これは、通路か?」


 リュックの中にある懐中電灯をつけて先を照らしてみると、奥の方までは見通せず、部屋というよりは先に通路のようなものに見える。


「もしかして、未探索領域か」


 本来ダンジョン内のそれぞれの階層は探索者協会と呼ばれる組織が任命、または依頼した探索者によって隅々まで探索がされている。


 そのため、探索されていない場所はほとんどないのだが、まれに隠し通路や隠し部屋がある。


 そういった場所を未探索領域と呼び、恐らくこの先はその未探索領域に該当した。


(どうしたものかなぁ)


 未探索領域を発見した探索者はそこを探索せずに直ぐ探索者協会に連絡を取ることが推奨されている。


 推奨される理由は安全のためとも、利益のためとも言われているがたぶん、どちらもだろう。


 未探索領域を発見した探索者は、探索者協会によって派遣された探索者が手に入れたアイテムや宝などの売却額の半分を得ることができる。


 報告するだけでも利益は転がり込んでくるのだが、今の俺はこの場所を伝えないでおこうと思っていた。


 その理由としては、所詮第三階層ということもあり、そこまで良いアイテムや宝が出ないと思われるという点だ。


 というのは建前で、一番の理由は未探索領域を見た時から湧き出ていた好奇心である。


 ここが未探索領域だと思い始めた時から、「折角だから探索してみたい」という思いが渦巻いていた。


「行くか」


 ちょっと怖いが、初めて見た未探索領域だ。


 是非とも探索してみたい。


 俺は童心に帰ったように感じながら、慎重な足取りで通路の奥へと進んでいくのであった。



読んでいただき、ありがとうございます。

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