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第四十三話

 


 第二十階層には【(じゅつ)()土鬼(つちおに)】と呼ばれるモンスターが徘徊している。


 体躯はゴブリンと同程度のサイズであり、身体能力も圧倒的に高いわけではない。


 もちろん、第二十階層のモンスターだけあって肉体の強度もそれなりにあるので、油断は禁物であるが。


 ただ、このモンスターで特筆すべき点は、名前にもある通り【術】である。


 土を使った攻撃をしてくるのだが、地面を隆起させ壁にして探索者の攻撃を防いだり、礫を放ってきたりする。


 また地面から槍を生やして、それを自身で用いたり、直接攻撃に使ったりするというデータもあり、術を用いた攻撃のレパートリーが兎に角多い。


 そのため、術ノ土鬼に関しては、遠距離だけ警戒するだけでなく、中距離、近距離でも認識外からの攻撃に注意しなければならないのである。


「今回は、レベル上げであり、修行でもあります。ですので、澄原様には術ノ土鬼で差しの勝負をしてもらいますがよろしいですか」


 安全地帯を歩きながら、彩がこちらを見ることなく言った。


 ちなみに彩はメイド服ではなく、上は黒いパーカー、下に足首まである迷彩柄のズボンを履いており、靴は軍靴という、探索用の装いで身を包んでいる。


 腰の左側には日本刀を差しており、右側には拳銃の収められたホルスターがあった。


 俺は黒を基調にした服装に肘や膝にパッドをつけており、ヘルメットも被っている。


 ただいつもと違う点は、腰には愛刀の他にこの前貰った脇差、【鬼切】を差していたことと、日本退魔連合の本部で真島からもらった腕輪を身に着けているところか。


「一応聞くが、嫌と言えば、止めさせてもらえるのか?」


 俺は諦観の含んだ声色で言う。


 その先の言葉が既にイメージできているからだ。


「いいえ、無理やりにでも戦わせますが?」


 彩は一切の同情なく言った。


「だろうな」


 そんなことだろうと思っていたよ。


 彩の言葉に心の中で毒づいた。


 強引というか、決めたことは絶対に曲げないというのは、予測できていたからな。


 そうした一幕もありつつ、安全地帯を進んでいく。


「いよいよか」


 それから十分ほど先に進んでいくと、景観が変わる。


 モンスターのいる領域に足を踏み入れたのだ。


「はあ」


 俺は軽く息を吐くと、腰に差していた獲物、昔なじみの愛刀を抜く。


 それだけで戦意は高まり、肉体は程よく緊張して、神経はより鋭くなった。


 彩も既に日本刀を抜いており、戦意をほどよく出して臨戦態勢に入っている。


「行きましょうか」


「ああ」


 彩の言葉に俺は返事を返す。


 警戒した状態で、少しずつ第二十階層という未知の空間を進んでいくのだった。



 ♦♢♦♢♦



「それにしても、ダンジョンの構造は厄介だな」


 数分歩いた頃、俺はスマホを見ながらそう呟いた。


 基本的にダンジョン内部は迷路のようになっている。


 ダンジョン内部の情報は探索者協会のホームページからインストールでき、慣れていない場合はスマホなどの情報端末をチェックしながらゆっくりと進行するのが基本なのだが、いつも同じ場所ばかり探索していた俺にとって、スマホを見ながらの探索はあまり得意ではない。


 慣れないながらに頑張りつつ、徐々にダンジョンの中を進んでいくと、正面に殺意を放つ気配を感じた。


「現れましたね」


 シャンと鈴の音が鳴る。


 黄金色の鈴が付いた木製の杖を持ち、薄い衣をまとった土色の小鬼。


 杖を持った小鬼、【術ノ土鬼】が表を兇暴に歪ませながら、こちらを睥睨(へいげい)していた。


(来るっ!)


 視線が交わったのは一秒足らず。


 そのわずかな時間で、明確な殺意が俺の方へと向けられたのを感じ取った。


 敏捷な動きで、横に跳躍する。


 ボコッ。


 元居た場所に土塊でできた槍が三本、天井まで届かんと伸びていた。


 反応が遅れていれば、少なくとも足は貫かれていたことだろう。


(ああ、やべえ)


 相手の動きが読めない。


 何を考えているか、全く分からない。


 頼れるのは自身の五感と、僅かに残る直感だけだ。


(やるか)


 既に抜いていた刀をだらりと垂らし、俺は殺意を持って、術ノ土鬼と向かい合うのであった。






読んでいただき、ありがとうございます!


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