第四十話
はたしてその先はどうなっているのか。
(いや、眩し)
何処を見ても白、白、白という内装で、病院の比較にならないぐらいに、とにかく白かった。
あまりの白さに俺が目をしょぼしょぼとさせている中、彩は受付の方へと歩みを進めていく。
「真島本部長補佐に八雲彩が会いに来ました、とお伝えください」
彩が受付にいる少女へと話しかける。
受付の少女は小柄で、だいたい150センチに満たない程度だろう。
前髪は目元まで伸びていて顔は見えづらいが、顔の下半分を見る限り、かなりの美少女だと思われた。
「かしこまりました」
受付の少女はそう言うと、急に黙り込んだ。
「あの子は何をしているんだ?」
「術を使い、これから会う方に連絡を取ってもらっています」
(念話のようなものかな)
退魔組織の受付嬢だ。
それぐらいできてもおかしくはない。
一分ほどそうして待っていると、受付の少女は口を開いた。
「第118会議室で待っているとのことです」
受付の少女はそう言うと、たった一つの、これまた真っ白な扉を開ける。
その先は長い通路になっており、この先にはエレベーターのようなものがないことから、通路のどこかに会議室と思われた。
「・・・」
俺たちが扉を通る中、受付の少女は深々と礼をする。
その姿を俺は横目で捉えながら、扉を潜るのだった。
♦♢♦♢♦
『凄い施設ね、ここ』
扉を通り通路を歩く中、アスカがポツリと言った。
『そうなのか?』
俺にはさっぱり分からなかった。
もっと目に優しい内装にしてほしいという感想ぐらいしか抱くことができない。
アスカが後ろに親指を向けながら言う。
『ええ、あの扉、ダンジョンと同じ原理の物よ』
その言葉に、俺は目を見開いた。
『マジで、じゃあ、あの扉は別の空間に行ける代物ってことか』
俺がそう言うと、アスカは頷く。
『そういうこと、まさかあんな代物を作ってるとはね。恐らくダンジョンの技術を応用してるんだと思うけど』
科学的に足りない部分は、魔法のようなもので補っているのだろうと、アスカは推測を交えて説明してくれる。
精霊のアスカから見ても、相当凄いらしく『ホントに凄いわ』と彼女は感嘆交じりに言っていた。
こうしてアスカと念話で話ながら長い通路を歩いていくと、第118会議室と書かれた扉の前に到着する。
「真島様、八雲彩です」
彩は第118会議室と書かれた扉をノックすると、男性の了承する声が聞こえた。
その声を聞いて彩が会議室の中に入っていく。
続いて、俺とアスカも入ると、会議室の中には眼鏡をかけスーツに身を包んだ中年の男がいた。
(めっちゃ普通)
何処をとっても普通という表現が似合う。
そんな印象を持った男性が、椅子に座ってこちらを見ていた。
「お久しぶりです、真島様」
「彩ちゃんか、そっちは澄原君にアスカちゃんだね」
真島という男はにこやかに微笑むと立ち上がり、こちらに歩みを進めてくる。
俺の前に立つと、右手を出してきた。
「よろしく」
柔らかな笑みから人畜無害な雰囲気が感じられる。
敵意を抱くことが難しい。
(それこそが狙いか)
本部長補佐という肩書の持ち主だ。
そんな人物が普通の人間なわけがない。
未だその腹の底を感じさせない真島という男に、俺は少し警戒を強める。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね。いや~まさか精霊の契約者と握手できるなんて、光栄だな~」
心底嬉しそうに言う真島。
既に俺の情報は伝えられているようだ。
(正直、おっさんに喜ばれても、全然嬉しくないんだが)
真島はアスカの方にも向き直り、笑顔を浮かべ手を出そうとしたのだが、アスカが無表情でいるのを見て、サッと手を引っ込める。
「それで彩ちゃん、用件は聞いてるよ。清水寺前ダンジョンの二十階層~三十階層の閉鎖だったよね」
二十階層~三十階層?
(まさか)
俺が彩の方を向くと、彼女は黙って頷く。
(マジか、探索する階層って二十階層からかよ!)
俺が川崎と探索をしない時に潜っている階層は大体七階層から十階層。
この辺りのレベルが今の俺にとってちょうどいい階層であり、戦える最高水準と考えるレベル帯だった。
てか、ちゃっかり閉鎖とか言ってるけど、どんだけ凄いんだよ、川崎家。
「あと、これね」
真島はテーブルの上にある箱を手に取り、中から銀色の腕輪を取り出すと、俺に渡してきた。
「これは剛力の腕輪と言ってね。ダンジョン産のアイテムで、体力と腕力を上げる効果を持つんだよ」
「試しに腕にはめてみるといい」と言われたので、早速腕につけてみる。
「少し、体が軽くなったような気がします」
軽く体を動かすと、だいぶ軽くなった感じする。
ダンジョン産のアイテムは初めてつけるが、ここまで効果があるとは、驚きだ。
「良かった良かった。それで、これね」
一枚の紙を渡してくる。
それは探索者協会によってダンジョンの調査を命じる旨が書かれた紙であった。
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