第三十九話
新幹線に乗ること約二時間、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、京都駅へと到着した。
新幹線を降りた俺は身体をグーっと伸ばしていく。
「それで、今からダンジョンに向かうのか?」
正直少し京都の街並みを楽しみたいのだが。
そんな気持ちを込めながら言うと、彩は意外にも首を横に振った。
「え、じゃあ、観光でもするのか?」
それだったら、最高なんだが。
しかし、彩は今度も首を横に振った。
「日本退魔連合、その本部に向かいます」
彩は至極真面目な表情で、そう告げるのであった。
♦♢♦♢♦
『【日本退魔連合】ってなんなんだろうな?』
俺は京都の通りを歩きつつ、アスカに念話を使って話しかけた。
彩の話によると、日本退魔連合というのは、日本における退魔関係の組織や人材、事案をまとめて統括している組織らしい。
日本の退魔に携わる組織や退魔師と呼ばれる者たちは、概ねほとんどが日本退魔連合に加盟しており、この組織のおかげで今の日本があると、彩は言っていた。
『私は知らないわね。そもそも、全ての退魔組織を統括する組織があるなんて、私自身驚いているのよ』
『それはまたどうして』
こういった組織なんてあってもおかしくないと思うが。
『皆、我が強いからよ』
アスカが言うには、退魔にかかわる者たちは総じて自己主張が激しいそうである。
怪異や魔人などの凶悪な生物と戦うので、命を守るためにそうなるのも無理ないが、昔から自分たちの管轄する領域やらが分かれていたり、自分たちが敵対している怪異がいたら領域など関係なく殺しにいったりと、自分勝手な存在が多いらしい。
そのため、アスカ的にはその退魔に携わる人たちが、徒党を組んでいることが意外で仕方ないそうだ。
「少し歩きますが、我慢してくださいね」
京都駅を出た俺たちは京都の街へと入っていき、人通りの多い道を進んでいく。
昔から京都は観光名所としても有名であり、周囲には日本人以外にも外国人が談笑しながら歩いていた。
そうして京都の街並みを見ながら二十分ほど歩いていくと、人通りのほとんどない道に出る。
「そろそろですよ」
俺たちは人通りのない道を更に進んでいくと、一軒の呉服屋が目に留まった。
「少し待っていてください」
彩はその店の前で止まると、店主に話があるらしく、俺とアスカにここで待つよう促す。
「了解」
辺りを軽く見回しながら待っていると、思いのほか話がすんなり済んだようで、三分ほどで彩が戻ってきた。
「どうぞ」
彩がそう言って入っていくのに続き、俺とアスカも呉服屋へと入っていく。
店の外観は一目で老舗と分かるほどのものだったが、店内も清潔であり古風なイメージをそのまま表したような内装で、非常に立派であった。
「いらっしゃい」
呉服屋の中には裾の長い袴を着た優しそうな顔を浮かべているお爺さんがいた。
腰は若干曲がっており、大体七十代ぐらいだと推測する。
(この人も化け物だな)
だが、その表層の部分は温和であるが、奥に秘められたものは一般人のそれではなく、ちょっとした動作は武術の達人の動きを彷彿とさせた。
川崎家にいた並みの使用人よりも内包されている熱量は多く、明らかに只者ではない。
さしずめ、日本退魔連合の入り口を守る番人と言った役割なのだろう。
「ほら、行きますよ」
彩はそう言うと、奥へとズンズン進んでいく。
チラリとお爺さんの方を向くと、こちらを向いて深くお辞儀をしていた。
俺は軽く会釈をするとアスカもそれに倣い、共に早歩きで彩についていく。
和風の内装が際立っていた呉服店の中であったが、奥にはなぜか無骨な鉄でできたエレベーターがあり、彩はそこで立ち止まる。
「このエレベーターを降りた先に日本退魔連合の本部があります」
彩がボタンを押してから少しの間待っていると、間もなくエレベーターが到着した。
エレベーターに乗り込んだ俺は、何階まであるのかを確認するためボタンを見る。
(やたら地下が多いな)
一階、二階、そして地下一階から地下五階までのボタンが存在していた。
「地下五階が本部の受付です」
彩が地下五階のボタンを押すとガタンと音を立て、エレベーターは動き始める。
地下一階、二階、三階と続き、地下五階に到着すると、それを告げる音が鳴り、扉が開くのだった。
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