第三十八話
東京駅から新幹線に乗ることができた俺たちは、指定された席へと座りながら昼食を取っていた。
「焼肉弁当美味しいわね」
もしゃもしゃと焼肉を頬張るアスカ。
アスカが選んだのは焼肉弁当であり、前にパーティーをしてからハマっているようだった。
大量の肉に、たれの染み込んだご飯がとても美味しそうである。
「そうですね。美味しいです」
アスカと同じ焼肉弁当を食べながら、彩が同意の意を示して頷いた。
既にステーキ弁当、牛めしを平らげており、他にも二つの弁当が積まれている。
彼女の元には計五個の駅弁が置かれているのだった。
「いや、お前食い過ぎだろ」
彩の見た目はモデルのように引き締まっているように見えるのであるが、その食べる量は男も真っ青になるほどの量である。
俺も一つでは足りないと二つ買っていたが、彼女はその二倍以上を当たり前のように買っていた。
「私はよく動くので」
むしゃむしゃというより、ガツガツと肉と米を口の中に入れていく彩。
こんな光景を見れば百年の恋も冷めるだろう。
ホント、つくづくもったいない女である。
「そういう澄原様は海鮮系の弁当ですか。ぷぷ」
小馬鹿にしたように笑ってくる彩に青筋を立てる俺。
「てめえ、海鮮舐めんなよ。タンパク質だってしっかり入ってるからな」
海老にホタテ、他にも様々な魚介類がふんだんに使われている。
魚介にもかなりのたんぱく質が含まれており、肉にだって負けはしない。
「てか、お前も海鮮系の弁当買ってるじゃないか」
残り二つの弁当は海鮮系の弁当だったはずである。
「そうですねえ、まあ私の弁当は肉系の方が多いですから」
「貴方たち、何で競ってるのよ」
既に焼肉弁当を食べ終えたアスカが、店で買ったペットボトル入りの緑茶を飲んでいた。
彼女は窓の外に目をやり、一人旅行を満喫している。
「満喫してるなぁ、アスカは・・・。そういえば、彩は何の武器が得意なんだ?」
彩に、少し気になっていたことを聞いた。
戦ってみると相手のことが結構分かったりするのだが、前に彩と戦った時のことを後になって振り返ってみると、間合いの取り方が剣術一本でやっているような感じもしなかったためである。
それで、他の武器術も何かしら修めているのではないかと思ったのだ。
「う~ん、大体何でもできますね」
顎に手を当てて、考えるようなそぶりをした後、彩はそう言った。
「何でも?」
「剣も槍も、徒手空拳でもいけますし、投げナイフなんかも使えます。銃もかなりのレベルで扱えると自負していますね」
コイツ天才だわ。
八雲という化け物爺を除けばだが、使用人の中でもトップの実力を誇っているだけはある。
「祖父にはいろいろ仕込まれましたから」
哀愁の漂う表情を作るを彩。
その表情から、かつては壮絶な鍛錬の数々を行ってきたのだろうことが窺える。
「そういう澄原様はどうなのですか?」
「俺か?・・・俺は刀が基本で、その延長戦で短刀とかナイフ、槍とかは一応使える。銃とかは全然ダメだけど」
大体武器術は通ずるものがあり、他の武器も練習すれば比較的早く習得できる。
他の武器を使えるようになった要因は、剣術だけではダメだと、祖父に様々な武器術を仕込まれたのが大きいが。
「まあ、俺も祖父にいろいろやらされたからな」
「私と一緒ですね」
ホントにな。
「お互い苦労するよ」
「ですね」
「健一も満喫してるじゃない。せっかくだから、トランプでもしましょうよ」
アスカはそう言って、リュックに入ったトランプを取り出す。
(俺も割と満喫しているか)
こうやって皆で楽しく会話をしている時点で、満喫していると言えるかもしれない。
「いいな、こういうの」
「後で地獄が待ってますがね」
折角、人が気持ちよくなっているのに、彩は容赦なく水を差してくる。
(こういうのも、いいよな)
こうして和気あいあいとした雰囲気に包まれながら、新幹線の旅は過ぎていくのであった。
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